株式会社吉野屋ディー・アンド・シー
商品企画開発部
生産設計担当 坂本真豪さん
僕ね、夢を語るほうじゃないかもしれ
ません。もちろん夢はありますよ。き
っと人一倍、あると思う。けれども、
まず目の前のことが片づけられないの
に、夢なんて絶対に達成できないと思
うんです。
目の前のことを片づけるには、やっぱ
り努力することでしょう。コツコツや
る人もいれば一気にやる人もいて、そ
れはそれでいいんじゃないですか。生
き方いろいろですから。
でも、中途半端はダメ。それじゃ何も
言う資格はない。あぁだこうだ言う前
に、まずちゃんとしっかりやりましょ
う、というだけの話じゃないでしょう
か。
ときどき、一生懸命やってるつもりな
のに結果が伴わないっていう人、いま
すよね。きっとどこかが中途半端なん
じゃないかと思うんです。やってるつ
もり、とかね。
ダメでしょう。
やるときは確実にやらなきゃ。問題を
解決するには、努力しかないと思うん
です。
努力が辛いとは感じないんです。仕事
が楽しいんですよね。
食べることって、いちばん素直に感情
が表現されるじゃないですか。おいし
いって言ってもらえることが嬉しいん
です。
前の仕事はホテルのコックでしたけど、
そのときはいつも給仕のスタッフにお
客さんの様子を訊ねてましたし、その
説明だけじゃよく分からないときは、
厨房から客席を覗いてみたり。おいし
い顔をしてくれてるか、ちょっと違う
と感じている表情か。それが気になる
わけです。喜んでもらえてるときの自
分の満足感のためだけじゃなくて、一
工夫加えた方がいいかな、っていう情
報を得るためにも。
吉野家で働くことになってからも、同
じことですよ。休日でも、吉野家の看
板を見つけたら気になってお店の中の
様子を窺います。お客さんの表情はど
うだろう、って。
ご存じのとおり、今、牛丼をお出しで
きない状況です。それでも足を運んで
いただけるように、牛丼に代わる料理
を開発しなくてはなりません。
でも、どんなにおいしい料理でも、牛
丼の存在を越えることは至難の業だと
感じています。長年の愛着度も含める
と、越えることはできないんじゃない
かなとさえ思うこともあります。やっ
ぱり牛丼は偉大だなって、改めて痛感
している気持ちは大きいんです。
だから余計に、お客さんはおいしい顔
をしてくれてるのかなって、気になり
ますよね。どんな仕事でもそうだと思
うんですけど、相手のことを考える気
持ちがないようでは、どうにもならな
いですから。
僕の場合は、食事を楽しんでくれるお
客さんのことを考えて料理をつくるこ
と。楽しみを提供する仕事の基本とし
て、僕自身もそれを楽しい気持ちで努
力すること。そういうことなんだと思
います。
夢、ですか? 言うんですか? 全世
界で僕の名前の料理が出ることかな。
“サカモト”っていう名前の料理が世
の中に出ていって、それを食べた人が
おいしい表情をしてくれるのが、僕の
夢です。そのために、坂本っていう人
間は、いったい何なのかっていうこと
を、いつも自分に問いかけながらやっ
てます。独立するとかしないとか、そ
ういうことはあまり関係ないですね。
組織の中でも、そういう問いかけは、
できると思いますから。
料理人とか商品開発者というよりも、
坂本さんと呼ばれるような人になりた
いんです。
Interview, Writing: 山口宗久
かもめ・2004年12月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです
※記事掲載への思いについて。
山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
Twitter / nineover
facebook / Yamaguchi Munehisa