働くということ・08 高須克弥さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

美容外科 高須クリニック院長
医学博士  高須克弥さん


労働者たちはね、みんな楽をしようと
するんですよ。前例はないか前例はな
いかってね。でも前例があったら、そ
いつを抜くのはすごい大変じゃないの。

誰かを抜く努力をしないためには、ど
うすればいいと思います? 簡単です
よ。はじめからトップにいればいいわ
け。そしたら、追いついて来るヤツの
芽を摘んでるだけでいいんだから。

美容整形はね、その昔は食い詰め者の
集まりだったんです。僕が社会に出る
頃にできたジャンルで、まだまともな
人が興味を持つようなものじゃなかっ
たんですね。

大学院では整形外科を専攻してたんで
すけど、いよいよ進路を決めなきゃと
いう段になってふと上を見上げたら、
すでに実績を積んだ人たちの数が物凄
いことに気づいたんです。

僕は人の後を着いて走るのが嫌いで、
やるんだったらリーダーがいいと思う
たちなんですが、あの高さに達するに
は定年までの時間じゃ間に合わないな
って思いましたよ。それなら美容整形
の世界でリーダーになっちゃえって、
そう考えたわけです。なんたって、ラ
イバルがいないんです。いきなりチャ
ンピオンになれるでしょ。

あのね、エベレストの頂上に立ちたい
と思ったら、はじめから頂上になると
ころに立ってればいいんです。そのう
ち周りが沈没してくるか、足元が隆起
してくれれば、それでいいんだもん。

世界最高峰のエベレストだって、はじ
めは海の底だったんですから。

けれども先頭切って走るっていうのも、
大変なんですよ。いちばん要領かませ
るのは2番手なんですね。先行してる
ヤツ見て、ドジ踏まないように着いて
いけばいいんだから。でも、そういう
のはイヤ。

風当たり強くても、一番最初に未開拓
なところへ行って耕すのが楽しいんだ
もん。

医者は、自分たちがサービス業だって
ことを認めたがらない人種なんですよ。
聖職だと思ってる。だからお医者様っ
て呼ばれたいんです。医者でいいんで
すよ、人間の修理屋ですから。

受診したいって医院に来る人は、患者
ですがお客さんです。

お医者様は黙って立派にしてればみん
なが尊敬してくれるっていうのは間違
っていて、骨身を削って働くもんだか
ら周りが感謝してくれるんだと思うん
です。

当然でしょ、患者が医者を選ぶんだか
ら。

選ばれるためには、修理屋としての腕
を磨くことですよ。

ちょっとくらい女癖が悪くても金に汚
くても、医者は腕のいいのがいちばん
です。そのためには、現場を離れては
いけないんですね。職人だから、修羅
場をたくさん潜ってきたヤツのほうが
腕を上げるのは当然のことなんです。

僕は確かに経営者ですけど、基本的に
リクルートで働いてる人たちと一緒な
んだと思います。現場へ出て、医者と
いう肉体労働を一生懸命やってる職人
なんですね。

本当の経営者っていうのは参謀本部へ
引っ込んで、あっち行けこっち行けっ
て命令するヤツのことですよ。カルロ
ス・ゴーンが工場に出てきてクルマ組
み立てたりしないでしょ。

僕、まるで脱皮し損ねた地虫みたいな
経営者ですけど、それでも自分の足で
風切って、まだ先頭まだ先頭って走り
続けてるのが楽しいんです。

もしも、もう働かなくていいなんて言
われたら、やることも楽しみもなくな
って不安で仕方なくなるでしょうね。

Interview, Writing: 山口宗久


かもめ・2004年8月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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