働くということ・05 浜田恵美子さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

書き込み可能なコンパクトディスク
「CD-R」の生みの親
太陽誘電株式会社  浜田恵美子さん


実は、当初私たちが目指していた“書
けるCD”というのは、ディスクにデー
タを書き込んだとしても、特定のCDプ
レーヤーでしか再生できない、という
ものだったんです。

'84年に入社して、初めて会社から与
えられたテーマで、しかも光は私にと
って未知の分野でしたからね。当初の
目標を達成する試作品を完成させると
ころにこぎ着けるだけでも、ずいぶん
苦労したんですよ。

ところが完成の目処もだいぶついたと
思った頃に、私の尊敬する社外のエン
ジニアに、そんな中途半端なものを作
ってもしょうがない、って一喝されま
してね。どんなCDプレーヤーでも再生
できるものを目指しなさいと言われた
んです。

目からうろこが落ちるような思いでし
たよ。当時、“書けるCD”の開発に着
手していたメーカーは、技術的な難し
さから、どこも私たちと似たような完
成目標に向かって開発を進めていまし
たし、就職して間もない新米エンジニ
アの私に、世間の通り相場を越えるよ
うな発想で、開発のシナリオを描くな
んていうことは無理でしたから。

無理というか、頭が固かったんでしょ
うね。だから、その一言が私に与えた
衝撃は、尋常じゃなかったんです。

もう大変ですよ。せっかくまとまりか
けてたものを、ひっくり返されたわけ
です。しかも、社内の方針転換ではな
くて、わざわざ自分が出向いていった
先で、問題提起されちゃったわけです
から。

火の粉が降りかかってくる、っていう
表現、あるでしょ。そんな感じです。

でもね、そのときに思ったんです。指
摘されたことは、確かにその通りだと
納得できる内容なわけですよね。なら
ば、いつまでも悩んでいても仕方ない。
なんとか頑張ってやっちゃいましょう
よ、って。

そういうプロセスがあって、現在の規
格のCD-Rが完成して、世の中に認めら
れる商品になったんです。

あの時に、彼の言葉を聞けたこと、そ
れを前向きに捉えられたことが、成功
のカギだったんですね。

その言葉の中に、チャンスやラッキー
がいっぱい隠されてわけですから。

私、思うんですけど、幸運は災いの顔
をしてやって来るものなんですね。

降りかかる火の粉を避けるような道を
選び続けてたら、きっとCD-Rを完成さ
せることはできなかったと思うんです。

私って、なんてラッキーなんだろうっ
て考えるときに、これが企業という組
織の持つ力のひとつなのかしらって思
うんです。

積極的に動こうという意識さえあれば、
自分ひとりの力じゃ会えない人の意見
を聞きに行くこともできる。いろんな
専門分野の知識を持った人やメーカー
の力を借りることもできる。結果とし
て、自分の実現したいと思っているこ
とを完成させることもできる。

ひとりじゃ絶対にできませんから。

CD-Rの生みの親って言われるのは、私
にとって過分な称号なんですよ。だっ
て、こんなに多くの助言があって、た
くさんのスタッフが取り組んだテーマ
ですからね。

“ねぇ聞いてよ、私、頑張っちゃった”
みたいな小さな自慢、誰にでもあるじ
ゃないですか。強いて言うならば、そ
ういうことかしら。そんな頑張りの後
ろ盾になるようなパワーが得られるな
ら、私は企業の中のいち研究員として
頑張ることに、とても満足してるんで
すよ。

Interview, Writing: 山口宗久


かもめ・2004年5月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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