寒い冬は鍋ものが美味しい季節である。関東地方の居酒屋の定番
は寄せ鍋と湯豆腐。ふぐチリ、あんこう鍋、鴨鍋、土手鍋(かき)、ぼた
ん鍋のほか、最近はチャンコ鍋やキムチ鍋が人気のようである。
北国には石狩鍋やキリタンポ鍋など地方独特の食文化があるが、な
かでも庄内地方の冬の味覚「どんがら汁(寒鱈汁)」は、関東では食べ
ることが出来ない、庄内地方だけで味わえる冬の味覚の王様である。
庄内地方が厳寒期に入ると、日本海の荒海にもまれた真鱈が丸々
と太って脂が乗り、特に寒鱈と呼ばれるようになる。新鮮なアラと内臓
と白子を主役に、捨てる部分が少ないと言われる寒鱈をブチ切りにし
て、大根や長ネギ、豆腐、昆布などと一緒に大鍋に入れ、味噌仕立て
で煮立てる豪快な鍋が「どんがら汁」である。庄内地方ではお雑煮な
どにも良く使う岩のりを、お碗に盛られた「どんがら汁」に振りかけて
食べる。両手でフウフウと少し冷ましながらお碗を啜る光景は、日本
に生まれた人々が、冬の故郷を思い出し、郷愁を感じる風景と言えそ
うである。
私たちは、古希を過ぎた高校時代の同級生グループである。今迄に
竜飛崎や青森、弘前、深浦、秋田、男鹿、酒田、松島、三陸、遠野、花
巻、鳴子、新庄、肘折、大石田、山形、下北、三戸、盛岡、角館など東
北の旅を楽しんできた。
今年(2008年)の第1号の旅は、昨秋の旅行の時に、庄内地方の冬
の味覚「どんがら汁」を食べに行くことを決めていた。今年の「鶴岡冬
まつり=日本海寒鱈まつり」は、1月20日(日)に開催される。酒田日本
海寒鱈まつりは、1月26日(土)・27日(日)に、由良寒鱈まつりは1月27
日に開催される。
鶴岡冬まつり=日本海寒鱈まつり会場ゲート
1月20日 上越新幹線で新潟を経て、鶴岡駅に着いたのは12時47分
であった。昨夜まで降り続いた雪も止み、厳寒の地では暖かいお日柄
のようである。早速「鶴岡冬まつり=日本海寒鱈まつり」会場に駆けつ
けた。会場入口に「日本海寒鱈まつり」のゲートがあり、10時30分から
スタートした寒鱈まつりは、13時頃には最高潮となって盛り上がってい
た。大鍋から1杯500円の「どんがら汁」のお碗を受取り、熱い汁を啜る。
鶴岡での第一声は「これは美味い!」という感嘆の言葉であった。鶴岡
市街のメイン通りは、テントが延々と続いて張られ賑わいを見せている。
年に一度の厳寒の食のまつり「寒鱈まつり」は、地元に住む誰もが待ち
かねていた楽しい冬の行事のようである。寒い会場は笑顔また笑顔が
溢れ、遠来の観光客との会話も弾んでいるようである。
大鍋の湯気を浴びながらどんがら汁を勧める売子
鶴岡冬まつりを満喫したあとは、雪景色が素晴らしい内川の川岸
と鶴ケ岡城跡鶴岡公園を散策する。致道博物館に立ち寄り、冬の厳
しい庄内地方の生活様式を、生活用具を通して観賞する。日本人は
木を色々と工夫して生活に役立てていたことが伺える。庄内地方の
「木の文化」を展示した致道博物館には、先人の知恵が満ち溢れて
いた。歴史と文化の世界を堪能してから、荒海が良く似合う厳寒の
日本海海岸へと向かう。
今日の日本海は、厳寒の冬季では比較的穏やかな海である。それ
でも湯野浜海岸に押し寄せる高波は、白く荒々しく激しさを増しなが
ら海辺を襲ってくるようだ。この大海の中で、丸々と太った真鱈が泳
いでいるのかと思うと、少し感慨深げになるのは何故であろうか。
湯野浜海岸に押し寄せる日本海の荒波
本日の宿は、湯野浜温泉海辺のお宿一久を選んだ。客室数は19室
で家族的な雰囲気をゆったりと味わえる和風の宿である。日本海を一
望し、沈む夕陽が見られる客室と、源泉100%の全量掛け流しの温泉、
料理の美味さには定評のある旅館である。今回の旅の夕食は「寒鱈
汁コース」である。厳寒期の日本海の荒海にもまれて脂が乗った真鱈
は、由良漁港に水揚げされたばかりの大振りで新鮮な寒鱈である。
湯野浜温泉 海辺のお宿一久 正面玄関
日本海に夕陽が沈む頃から、庄内地方の冬の味覚「寒鱈汁コース」
の夕食が始まる。食前酒の月山ワインで健康であることを祝して乾杯。
先付けはヤリイカの山かけにキャビヤと山葵が添えられている。前菜
の白子のポン酢は、私にとっては美味しいものの頂点にランクされて
いる大好物である。寒鱈の西京焼き、寒鱈の昆布〆、寒鱈と白子の
串揚げは、初めて味わった珍味である。そして主役は大鍋の中で煮
立っている「どんがら汁」である。白子が沢山入っているのがとても嬉
しく、何杯もお代わりが進む。寒鱈のオンパレードである。
寒鱈料理の脇を固める献立がまた素晴らしい。氷のかまくらの器に
盛られたお刺身は、脂の乗った白身のホウボウ、荒海にもまれ身の絞
まったヒラメ、庄内の海の王様タイ、生きの良いボタン海老である。
焼物には庄内名物口細カレイの素焼き、庄内産3年ものの活アワビの
陶板焼、米沢牛のステーキをミニ丼にしたご飯がとても美味しかった。
食通気取りで美味しいものを追い求める4人のグループであるが、バ
ランスがとれた質・量とも適切な献立に惜しみない賛辞を贈る。今年は
幸先が良く、庄内地方の冬の味覚に出会うことが出来た幸運を、明日
への生活へ繋げられると、大満足の旅であった。
庄内地方冬の味覚「どんがら汁」