ペーター・シュライアーさんの歌声
 
 ペーター・シュライアーさんが亡くなって昨年暮れで1年となりました。私は、十代の頃、テレビやラジオでペーター・シュライアーさんの歌声を聴き親しんでいました。ルチアーノ・パヴァロッティさんのようなイタリアベルカントの明るく乾いたレーザービームのような歌声も、それはそれで好きですが、それとは違う艶やかでしっとりとした響きのある高音が素敵なドイツ・リートの歌声のほうがどちらかというと好きだったかもしれません。自分が明るく乾いた声では歌えなかったというのもあります。
 昨年暮れから書こうと思って書けていなかったものを書いてみます。
 昨秋に、たまたま(いつも聴くわけではなく全く偶然に)、NHKFM「古楽の楽しみ」を聴いていたところ、「ペーター・シュライアーの古楽の世界」と題して始まりましたので、聴き入りました。なお、私は古楽やバッハには全く詳しくありません。

 まず、ボーイ・アルトとして音源が残っている、つまり天才少年として活躍されていたことを知りました。また、その音源により麗しい歌声を聴くことができました。「栴檀は双葉より芳し」の方だったのですね。
 それから、解説で「南ドイツのカラヤンはカトリック、北ドイツのシュライアーはプロテスタント、シュライアーは現代的解釈に努め、2人の解釈の融合により独特の魅力のある演奏になった」というような内容がありました(下の「マタイ受難曲」)。
 残念ながら私には、この違いをラジオ放送の1回で聞き分けるような教養はありませんでしたが、興味深い話でした。カトリックとプロテスタントで音楽にどのような違いをもたらすのか、今後も(それを考えさせてくれる演奏を聴く)機会があれば聴いて考えてみたいです。
 「ペーター・シュライアーの古楽の世界」は2日あり、2日目の解説では、「ペーター・シュライアーは指揮者としても活躍し、古楽器によるバッハに反対で、現代的で細やかなアーティキュレーションを重視した」と言っていました。
 

古楽の楽しみ ▽ペーター・シュライアーの古楽の世界(1)
2020年11月16日(月) 午前6:00~午前6:55(55分)
20世紀後半に活躍した名テノール歌手ペーター・シュライアーのバロック音楽における名演と足跡をお送り致します。
「「ヨハネ受難曲」 BWV245 第2部から 第30曲 「すべては成し遂げられた」」
バッハ:作曲
(ボーイ・アルト)ペーター・シュライアー、(合奏)ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、(指揮)ルドルフ・マウエルスベルガー
(4分04秒)
<徳間ジャパン TKCC-30407>

「「マタイ受難曲」 BWV244 第2部から 第61曲~第63曲 ※」
バッハ:作曲
福音史家…(テノール)ペーター・シュライアー、イエス…(バス)ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ、(合唱)ウィーン楽友協会合唱団、(合唱)ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団、(合奏)ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、(指揮)ヘルベルト・フォン・カラヤン
(7分39秒)
<ポリグラム POCG-3690/2>
ほか

古楽の楽しみ ▽ペーター・シュライアーの古楽の世界(2)
2020年11月17日(火) 午前6:00~午前6:55(55分
「ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調BWV1048」
バッハ:作曲
(合奏)カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ室内管弦楽団、(指揮)ペーター・シュライアー
(10分46秒)
<PHILIPS PHCP-321/2>
ほか


 さて、私が親しんだペーター・シュライアーさんの歌声は、ベートーベンの第9やドイツ・リートのような曲(メンデルスゾーンの「歌の翼に」とか、シューベルトの「セレナーデ」、シューマンの「詩人の恋」など)でした。
 最近、時々拝見させていただくブロガーさんの記事で、ヘルマン・プライ(バリトン)さんの「セレナーデ(シューベルト)」を紹介しておられましたので、何回か聴き比べてみました。以下、共にYouTubeの音源です(リンクを貼っても問題ないのか自信がないため、申し訳ありませんが貼りません)。

シューベルトの遺作をまとめた歌曲集「白鳥の歌」D957/965a(Dはシューベルト作品に付されるドイチェ番号)の第4曲が、「セレナーデ(Ständchen)」としてよく知られている曲です。(私は、「白鳥の歌」のこれ以外の曲をまだじっくり聴いたことはありません。)

演奏1
(テノール)ペーター・シュライアー
(ピアノ)ルドルフ・ブッフビンダー
 ニ短調
 場所 シェーンブルン宮殿

演奏2
(バリトン)ヘルマン・プライ
(ピアノ)ジェラルド・ムーア
 ハ短調

 聴き馴染んだペーター・シュライアーさんの演奏をどうしても贔屓目で見てしまいます。ペーター・シュライアーさん、ルドルフ・ブッフビンダーさんのシェーンブルン宮殿での演奏では、曲全体にわたってテンポの緩急の揺らし(ルバート)がはっきりとあり、全てが、迫ってくるような切々とした「歌」でできていましたが、ヘルマン・プライさん、ジェラルド・ムーアさんの演奏は、終盤とピアノパートによる間奏部分以外はほぼテンポが一定のレチタティーヴォ(語り)的な印象で、終盤の「Bebend harr’ ich dir entgegen(震えながら私は君を待ち焦がれる)」の「d harr’ ich」のところで、歌がふっと弱音になり(スコアのピアノパートの記号どおり)、そこからテンポが緩んで「歌」に変化した感じがしました(歌い手というよりもピアノパートがそのように演奏している(リードしている)のかもしれません)。ずっと「語り」できて、最後の部分だけテンポを揺らしルバートさせて「歌」になったので、最後の歌がより一層しみじみ感じられる「大人」好みの演奏ではないかと感じました。
 個人的には、やはり親しんだペーター・シュライアーさんの歌(声も歌い方も)が好きです。なお、リスト編曲版のピアノ曲のほうもニ短調のようです。
 素人の勝手な解釈、感想でした。
 Wikipedia「白鳥の歌(シューベルト)」(※)によると、ジェラルド・ムーアさんには『歌手と伴奏者』という著書があるということで、その本に出会う機会があれば読んでみたいです。私はとんでもないおかしな感想を書いているかもしれません。


※:「白鳥の歌(シューベルト)」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/1/1  21:58 UTC 版)https://ja.wikipedia.org