前回はインドの裏道の話を紹介した。

インドときたら中国。
今回の本は、多田麻美女史の「老北京の胡同」。

北京オリンピック前夜

古く続いた街並みが、近代化のもと塗り替えられていく。
日本が通った道を走りぬいて邁進する中国。

その発展とともに移り変わる路地を見つめた作品。

20年前に北京の友達を尋ねに行った時のエピソードを思い出す。

街中を案内してくれていた彼は、裏路地ある共用トイレのそばで立ち止まる。

その建物の中から女性の喚き声が聞こえる。その声に応じるように別の女性が怒鳴る。

友達はものすごい嫌な顔をして僕を見る。
「何言っているかわかる?」
「いや・・・」

彼の説明では、二人の女性が並んでうんこをしている。
一人の女性が下痢でうんこがびちゃびちゃだよと言い、もう一人の女性がだったらよく効く草があるよと応じているらしい。
怒鳴っていると思ったのは、積極的に薦めているだけだった。

こんな低レベルなんだ。いやになるよ。と彼は言いながらその場を離れた。

僕は「delighted」の言葉が浮かぶ。とてもほっこりとした気持ちになり、人のつながりがあることがうらやましかった。

この本を読んだとき、この友達との一コマを懐かしく思い出した。


彼の家は親の話だと文化大革命で家に知らない人が突然住み込まれて大変だったらしい。
天安門事件も目の当たりにして、何百人もの人が戦車でつぶされたのを記憶していた。
彼は日本にあこがれを持っていた。一方、僕は北京の古い町並みにうらやましさを感じたものだ。
 

北京はとっくに日本を超え、それとともに胡同(路地)もはるか思い出に消えていく。