未断定形しかない | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 「例えば、私はここから遠く離れた地方の出身ですが、そこの方言の動詞には未断定形しかないのですよ」と歴史の授業中に教師が言った。

 世の中にそのような方言があるとは知らなかったので私は興味を抱いたのだが、授業の本筋とは関係がなさそうな話題なので生徒達は誰も質問を投げ掛けなかった。そして、教師もそれ以上は詳しく説明しなかった。

 未断定形しかない地方ではどのような生活が営まれているのだろうかという疑問が下校中に思い浮かび、それから私は頭を悩ませている。その地方で暮らす人々にとって出来事はすべて鮮明な輪郭を持たないものとして認識されているのだろうか?例えば、林檎は林檎であるかもしれないし、林檎ではないのかもしれないのだろうか?心の中に生じた確信を表現する方法がないとしたら歯痒いだろうと私は想像している。


関連作品

過去形がない
不安形がある
後悔形がある
感謝形がある

目次(超短編小説)