数年前のお話です。
午前の診療中、クリニックの玄関で吐いてしまった子がいました。
前夜から嘔吐があり朝になっても治まらなかったため当院を受診したのですが、間に合わなかったようで、玄関で嘔吐してしまったのです。
うちのスタッフが嫌な顔一つせず、吐物を片付けてくれていたのですが、そこで私は気付きました。自分が「イラッ」としていることを。
頭では「子供だし、具合が悪いから間に合わずに吐いてしまった」のだと理解しています。お母さんも「どうもすみません・・・」と謝っていますし、スタッフもてきぱきと働いてくれて、事なきを得た訳です。
それなのに、自分の中で「イラッ」という弱い怒りが控えめながら鎮座していたのです。
そこで考えました、自分は何を恐れているのかと・・・。
怒りの裏側には必ず「恐れ」があります。こういう状況になると困る! こうなったら嫌だ! こうなる事を恐れている!という気持ちです。
そしてもしそうなってしまった場合、どうしてこうなったんだ! 誰のせいだ! よくもこんな目にあわせたな!という怒りが湧いてきます。怒りと恐れは表裏一体なのです。
ですので、何を恐れているのかをみるために、自分の意識を「上」に持っていきました。上から自分をみることで、自分をじっくり「観察」することができます。
玄関が汚れた事に関しては、それほど怒りはありませんでした。掃除すればよいだけだからです。しかもスタッフが全部やってくれている。自分の仕事が増えたわけではない・・・・ これは怒りの原因とは違うと思いました。
でも少しだけ違和感があるので、それをじっくり観察すると、そうだ! 吐物の臭気が気になる! でも私が玄関まで行く事はないので、臭気それ自体には怒りは湧いてこない・・・ もう少しなんだけど何だろう・・・?
あれこれ考えている時に、玄関から男の人の声が聞こえてきました。
「靴は大丈夫ですか?」
姿は見えないので状況から推測するしかないのですが、他の保護者の方が、吐いたものが自分の靴にかかっていないかどうかという事を心配されて、スタッフに聞いていたようです。
幸いどの靴にもかかっておらず、スタッフの適切な対応で特に問題なく、それは終了しました。
しかしそこで気付きました。
「自分が誰かから責められる事を恐れていたんだ!」
つまり、「子供が吐いて自分の靴を汚された! しかもウイルス感染させられた! このクリニックは危機管理がなってない! 責任者を呼べ!」といった事を恐れていたという事です。
私たちの心の中は、自分で分かる「意識(顕在意識)」と自分では分からない「無意識(潜在意識)」があります。その間にはフタがついているので無意識の中は分かりにくいのですが、無意識の影響力は大きいので、自分の考え方の「くせ」を作ってしまいます。
今回私は、無意識に入っている「自分が責められる事の恐れ」により弱い怒りである「イラッ」を生じた、と理解できました。
怒りの正体が突き止められたら、次は「もしそうなっても自分は大丈夫!」と自分を思い遣り、受け止めてあげられれば解決なのですが、まだ自分の中ではその域にまで達していません。残念!
今回、自分の心の中の会話を書き起こしてみました。まだまだ未熟者なので完全に解決できませんでしたが、でもそれなりに納得できました。みなさんも試してみてはいかがでしょうか?