仲間の皆様

 

 新型コロナウィルス感染症流行への英政府の対応を検証する独立調査委員会(議長・ハレット元裁判官)の初期段階の調査結果が公表された。世界保健機関(WHO)によると、2020年のパンデミック(世界的大流行)開始以降、英国の死者数は欧州最多の23万2000人に上り、調査委は「(政府の対応に)致命的な戦略的欠陥」があったと指摘した。調査は26年夏ごろまで続く予定。

 WHOによると、他の欧州主要国の死者数はイタリア19万7000人、ドイツ17万5000人、フランス16万8000人で、英国はこうした国々に比べ数万人多い。日本は7万4000人だ。

 

 この反省から、英国では現在、調査委が歴代政権幹部や医療専門家から聞き取り調査を実施している。検証内容は「ワクチンや治療薬」「物資調達」「政治的な意思決定」など複数のテーマに分かれるが、初期段階の調査では、主に「準備態勢」を調べた。

 

 7月18日に公表された報告書でハレット氏が指摘したのは、英国の「勘違い」だ。自分たちは医療先進国として「最も備えがある国の一つ」だと思い込んでいたが、政府が11年に作成したパンデミック対策文書は「インフルエンザのみ」の想定で、新型コロナ流行開始と同時に無意味となった。

 

 また感染流行前に、既にアジアや中東では「重症急性呼吸器症候群」(SARS)という二つのコロナウィルスが発生していたが、政府はそのリスクも軽視していた。

 

 調査委は政治家の責任も指摘した。流行前の18年〜19年、ハンコック保健相(当時)のもとでは感染症対策の担当者が会合を開いていなかった。20年3月23日にジョンソン首相(当時)が最初ロックダウン(都市封鎖)を決めたのは、専門家の助言から1週間以上も経過した後だった。

 さらに調査委は「集団思考」の危険性んも強調した。政治家・官僚ら同質のグループ内に属する人々が同じような思考に陥り、外部からの助言者が「異なる意見を表明する自由を欠いていた」とも指摘した。こうした点を踏まえ、報告書では「3年ごとにパンデミックに対する訓練の実施」「政治家らの集団思考に異議を唱える外部専門家の登用」などを提言した。

 

 英国では、コロナ禍での行動規制を自ら破ってパーティーに参加したジョンソン氏ら当時の保守党の政権幹部に対する反発が根強く、今年7月の総選挙で保守党が大敗する一因ともなった。

 

 ロンドンのテムズ川沿いには、犠牲者をしのぶ「追悼の壁」が設置されており、500メートルにわたって犠牲者20万人分以上のハートが壁に描かれている。

【ロンドン篠田航一、写真も】

 

「毎日新聞」2024年8月5日付け朝刊  引用