2.クライミング~ちょっと反省

 翌日は、当然、海岸の岩場に降りてクライミングだ。固定されているロープを握って短い崖を降りる。
 これはちょっと失敗だった。
 大した傾斜ではなく、大人のクライマーだけなら何ら問題ないが、子供を背負っているとどうも具合が悪い。いつもクライミングの時に背負っている荷物と比べれば、5か月の赤ん坊など軽いもの、と思っていたが、実際にやってみると荷物とは違う。荷物なら、多少岩にかすったりしても気にならないのでガンガン進めるが、赤ん坊は岩にかすらせることもできない。落とすようなことは絶対にないと言えるが、豆腐をむき出しで背負って岩場を降りるくらいの心がけが必要だ。
 子供は亮子さんが背負い、私がその他のギアや食料を背負っているのだが、亮子さんは私よりもずっと慎重に降りる。普段なら亮子さんにとってこんな岩場を降りることなど新宿あたりの歩道を歩くよりも易しいことなのだが。私が重い方の荷物を持ったつもりで、かえって困難な荷物を持たせてしまったか?
 今まで何回か条件の良い岩場に通って、安全に過ごせたため、油断してしまったようだ。せっかく遠くへ来たから、という変な欲が自分になかっただろうか。
 反省したころにはもう遅く、岩場に着いてしまった。


 もう一つ想定外だったのは、非常に暑かったということだ。日向の岩を裸足で歩くと熱いくらいだ。東北だって標高の低いところは暑いのだ。
 岩を登っていると手がヌルヌルして厳しいクライミングとなったが、それよりも直射日光から子供を守ることが使命になってきた。海岸の岩場には山にあるような木陰は無かったのだ。
 子供は大人より脱水に陥りやすいはず。持ち合わせのシートと流木で日よけを作る。岩場にいた友人たちも助けてくれる。授乳室としても丁度いいか?おかげで、必死な大人を尻目に子供はキャッキャといっていた。この記事の出だしで「危険にさらさず」とか偉そうなことを書いてしまい申し訳ありません。

 岩登りもせっかくなので少しやる。三崎名物の「ほら貝」というルートだ。
 垂直の岩の途中にある小さなテラスが真っ白になっている。人気の岩だから、滑り止めの粉が付きすぎているのかと思ったら、小動物の骨が散らばっており、どうやら猛禽類の食事場になっているようだ。とすると、白いのは糞だろう。垂直以上の傾斜の岩壁の途中にある出っ張りなのだが、猛禽にとっては敵に襲われる心配なく獲物を食べられる安らぎの場なのだ。
 ここまで来たら仕方がない。うんこまみれの岩をしっかり握って休憩し、一発で登れたが、子供に触る前にはかなりよく手を拭いたのは言うまでもない。
 今の娘には、親とおっぱいが世界の全てなのかもしれないが、そのうちこんな自然の面白さも感じてほしいものだ。
 亮子さんも産後のリハビリに一本登るが、暑いし子供も気になるしで、二人とも集中できない。
 まだ、この子は歩かないのでいいが、歩きはじめていたら、岩の間に落ちてしまうかもしれず、危険だっただろう。大人には明るく、安定した、素晴らしいクライミングエリアなんだけど。大人が考える安全・危険と赤ん坊に対するそれには相当の違いがあることを痛感した。

 ただ、三崎海岸の周囲の秋田・山形の海岸線に点在するボルダーや砂浜は子連れでも素晴らしく楽しめた。とはいえ、そこでも山仲間に助けてもらったのだが。