によると、『岸田文雄政権は2022年12月に閣議決定した安保関連3文書で、「敵基地攻撃能力」の保有と、防衛予算のGDP比2%への倍増を盛り込んだ。』

就任当初岸田氏は「新しい資本主義」を唱えていました。が、私の聞き落としかも知れませんが、防衛費の増額や敵基地攻撃能力保有のことはほとんど主張していませんでした。しかし、岸田氏は昨年12月になって、これらをやることを急に決定したのです。防衛費の増額や敵基地攻撃能力保有はこれまでの防衛政策と大きく異なります。なぜ、このような防衛政策を急に打ち出し、決定したのか、不思議に思っていました。そこで調べてみると、米国からの要望がありました。

 

まず防衛費増額について、

によると、『2021年10月21日 17:00 バイデン米大統領が次期駐日大使に指名したラーム・エマニュエル氏(61)は20日、上院外交委員会の公聴会に臨んだ。日本の防衛費増額は「同盟に不可欠だ」と表明した。』

 

敵基地攻撃能力については、

によると、『敵基地攻撃能力の保有は、米国の「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)に参加するためです。IAMDは、米国が同盟国を動員し、地球規模で張り巡らすシステムで、相手からのミサイルを撃ち落とすミサイル防衛と、同時に相手国への攻撃を組み合わせたものです。』とあります。

 

 

によると、『アメリカ国防総省は、「アメリカが他の競争相手や潜在的な敵に対する際、同盟国やパートナー国とともに対峙する」(とし)、アジアでは日本、韓国、台湾、オーストラリアなど同盟・パートナー国に軍事力強化を求め、アメリカの軍事力と統合して抑止力を強めるのが狙いだ。もはやアメリカ1国では、中国に対抗できないという現状認識が構想のベースにある。バイデン政権は2022年2月、「インド太平洋戦略」を初めて発表した・・・2021年1月発足したバイデン政権は世界戦略の中心をアジアに移した。中国を「唯一の競争相手」とみなし、「民主vs専制」競争と位置づけ、①同盟関係の再構築、②地球温暖化やパンデミックなどグローバル課題での国際協調回復、の2本柱を掲げたのだった。このうち「同盟関係の再構築」こそが、対中競争勝利を目指す役割を担う。

同盟再構築でバイデン政権がまず着手したのは、日米同盟の強化と深化だった。台湾有事を念頭に、日米同盟の性格を「対中同盟」に変え、日米の軍事一体化を加速させるプロセスはわずか2年というスピードで完成した。』

とあります。この完成形が、冒頭に述べた「敵基地攻撃能力」の保有と、防衛予算のGDP比2%への倍増なのでしょう。

 

ところで、

ttps://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/04/post-101446.php

によると、『中国の台湾侵攻はもはや可能性の問題ではなく、時期の問題になってきた。昨年来相次いだ米専門家の予想によると、その時期は2027年から、早ければ今年(2023年)にもやってきそうだ』という。

 

一方中国の方はどうかというと、中国は、「台湾白書」を2022年8月10日、22年ぶりに発表しました。

によると、(この白書は8月3日のペロシ米下院議長の台湾訪問し、その後4~9日中国人民解放軍が軍事演習を行い、台湾を威嚇しました直後に発表されました)

『この「白書」は「台湾の独立勢力や外部勢力が挑発し、強要し、さらには超えてはならない一線(原文は紅線)を突破した場合は、措置を講じる必要がある」と強く牽制している。まず、「白書」は、中国と台湾の歴史について触れ、新中国建国からの中国と台湾の関係と、それに対して中国共産党が抱く“断固たる統一の決意”を掲げた。「民族の復興」は必然の要求であり、祖国統一は止められない動きであることを強調している。ここで繰り返し述べられているのは、「一国二制度」を前提とした「平和的統一」だ。その一方で「武力行使の放棄は約束するものではない」とも書かれている。これは「武力行使もあり得る」と解釈でき、一部外国メディアも「いよいよか」と身構えた。だが、実はこの表現は江沢民政権時代にまとめられた2000年版の「白書」にもある。・・・・このように強く脅しておきながらも、その標的は「台湾同胞ではなく、あくまでも台湾独立勢力と中国の統一に干渉する外部勢力に向けたものだ」と書かれている。・・・・台湾の公共政策の専門家は、台湾メディア「関鍵評論」で次のように推測する。「台湾に武力侵攻する際は、中国は事前に告知を行い、台湾から住民を一時避難させるケースが考えられる。一方、台湾独立勢力に対しては、独立犯罪者をブラックリストに入れ、全中国のみならず全世界まで追いかけるだろう」』

中国の目標はあくまで「平和的統一」であり、統一を邪魔する者や外部勢力には武力行使もあり得るが、中国の意向に反しない者には危害を加えるつもりはないようです。

 

それではなぜ、中国の台湾侵攻(台湾有事)がせまっている、という言説がひろがっているのでしょうか?米国の台湾政策がどうなっているか、見てみましょう。

もともとアメリカは台湾を一つの国と認め、中国とは国交を結んでいませんでした。アメリカは台湾(中華民国)と対共産圏包囲網の軍事条約、「米華相互防衛条約」を結んでいたのです。しかし、1972年2月に当時のニクソン大統領が訪中し米中双方による事実上の相互承認が行われ、1979年1月に国交を樹立しました。それと同時に「米華相互防衛条約」も破棄し、台湾は独立国ではなく中国の一部であることを認めたのです。台湾が中国の一部であるという考えは「一つの中国」と呼ばれました。以上のような経緯から、その後アメリカは台湾に関与することが少なくなっていました。以上の経緯は、Wikipedia「米台関係」(23.5.28)と矛盾しません。(また、

によると、1971年10月の国連決議により、中華民国(台湾)は国連安保理常任理事国の座を失い、中華人民共和国が国連安保理常任理事国と見なされました。)

 

しかし、バイデン政権になり、少し変化してきています。

によると、

『2022年5月3日付のアメリカ政府のウェブサイトには、台湾との関係のページで、以下の文言があった。( )内の日本語は筆者。

Government of the People’s Republic of China as the sole legal government of China, acknowledging the Chinese position that there is but one China(一つの中国) and Taiwan is part of China(台湾は中国の一部). The Joint Communique also stated that the people of the United States will maintain cultural, commercial, and other unofficial relations with the people of Taiwan. The American Institute in Taiwan (AIT) is responsible for implementing U.S. policy toward Taiwan.

The United States does not support Taiwan independence(アメリカは台湾の独立を支持しない). Maintaining strong, unofficial relations with Taiwan is a major U.S. goal, in line with the U.S. desire to further peace and stability in Asia.(引用ここまで)

バイデン大統領が習近平国家主席と電話会談するときも、ブリンケン国務長官が楊潔篪・中央外事工作委员会弁公室主任や王毅外相と会談するときも、必ずと言っていいほど「アメリカは台湾の独立を支持しない」という言葉を、決まり文句のように言っていた。だから、対中包囲網とかいろいろな連盟を結成しても、中国は決して本気で怒ることはなかった。

台湾政府もまた、政府として「独立」を宣言すると、必ず中国の全人代で2005年に制定された「反国家分裂法」が火を噴くのを知っているので、民進党の蔡英文総統といえども、やはり「独立」を宣言することだけは避けている。

・・・・・・

(しかし、)今年(2022年)5月5日に更新されたアメリカ政府のウェブサイトにおける台湾関係のページをご覧いただきたい。このページには、以下の二つの文言がない。

Taiwan is part of China

The United States does not support Taiwan independence

 すなわち「台湾は中国の一部」という言葉と「アメリカは台湾の独立を支持しない」という言葉が削除されてしまっているのだ。それでいて

one China

という言葉だけは残っている。これは何を意味しているかといえば、中国は「中華人民共和国」なのか、それとも「中華民国」なのかという違いはあるが、少なくとも「一つの中国」で、アメリカは場合によっては「中国=中華民国」として、「一つの中国」を認める可能性があることを示唆している。』としています。

そして、2022年8月3日ペロシ下院議長が台湾を訪問しました。下院議長訪台は1997年に共和党のギングリッチ下院議長が訪台して以来のことだそうですが、

によると、『中国の元政府高官を取材したところ、ギングリッチの場合は、きちんと北京を訪問して、「挨拶」をした上で台湾を訪問している・・(しかしペロシ下院議長は北京への「挨拶」もなく訪台したので)「こんなことは初めてだ!1997年の情況とはわけが違う!」と立腹している。』そうです。また、

によると、『・・・米国国家安全保障会議(NSC)のカート・キャンベル・インド太平洋調整官は(2022年)8月12日、記者団へのブリーフィングの中で、中国の反発に対して「中国は過剰に反応し、その行動は挑発的でかく乱的で、前代未聞」と非難する一方で、台湾に対しては、「貿易協議のロードマップを作成しており、数日中に発表する予定がある」と関係強化の姿勢を示している。米国と台湾は6月に、「21世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブ」を立ち上げている(2022年6月2日記事参照)。』

米国のこの行動は当然中国を強く刺激するでしょう。米国の台湾・中国に対するスタンスは、ウェブページの変更以降明らかに変化しています。これまでの経緯を見る限り、ペロシや超党派議員の訪台は、一部の親台(嫌中)議員が自分たちの意志だけで台湾を訪問したのではなく、アメリカ合衆国の意志を彼らが代弁して訪台を行ったとみた方がいいのかもしれません。

 

ではなぜ、米国は台湾を使って中国を挑発するのでしょうか。米国の行動はまるで台湾有事(中国の台湾侵攻)を引き起こそうとしているように見えますが、米国の意図は何でしょうか?

普通に考えれば、台湾有事をきっかけとして中国の力を弱めることが目的でしょう。しかし、実際台湾有事が発生しそれに反撃した場合、中国と米国(および日本)はどのくらいの犠牲を払わなければならないのでしょうか?

 

中国が台湾に侵攻しそれに対して反撃した場合、「中国の台湾進攻は成功するのか」そして「その代償はどうなるか」について、米首都ワシントンに本部を置く独立系シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が、24のシミュレーションを行っています。

によると、

『CSISのウォー・ゲームで、彼らが「最もありそうだ」と考える「基本シナリオ」の説明から入ろう。基本シナリオでは、「台湾が攻撃されたら米国は自動的に参戦する」「豪州は米軍に基地使用を認め、豪軍は南シナ海でのみ戦闘参加する」「韓国は北朝鮮の動きに備える(参戦はしない)」「米軍は空対地スタンド・オフ・ミサイル(JASSM)によって洋上の中国艦船を攻撃できる」等の様々な条件設定に加え、日本の態度については、以下の前提が置かれている。

①日本政府は米国が在日米軍基地に自由にアクセスすることを開戦時から認める

②自衛隊は中国による日本領土への直接的な攻撃があった後に中国軍と交戦する

③戦争状態に入った後は、自衛隊は日本領域外で中国軍を攻撃してもよい

上記の①は、米軍は在日米軍基地を単に使えるというだけでなく、米軍基地から出撃して直接中国軍と戦ってもよい、という意味。②は、中国軍が攻撃に「着手」したと米国が判断した段階ではなく、日本(在日米軍基地を含む)が実際に攻撃を受けてから、自衛隊は戦闘に入るということ。③は、自衛隊は日本の本土防衛のためのみならず、台湾に侵攻する中国軍とも戦うという意味。自衛隊の活動を米軍に対する後方支援だけに限定するという選択肢は検討されていない模様だ。』予想は、『中国チームは台北を陥落させられないどころか台湾の4分の1以上を占領することにさえ失敗する。(しかし、米軍と自衛隊も大きな被害を受ける)』です。

今後米国がどのような戦略を決定するかわかりませんし、そもそも中国が台湾に侵攻してくるかどうかもわかりません。米国が台湾有事に関与しても、日本は関与せずに中立を保つことができないのでしょうか?実は、すでにできなくなっています。

 

によると、

『・・・アメリカは今回の2プラス2で、ある目的に向けて一歩進むことに成功した。それは、台湾有事の際にはアメリカ単独ではなく日米共同で軍事介入することである。アメリカ側が特に歓迎を強調しているのが、アメリカ軍と自衛隊との一体性を強化する取り組みであることから、それがうかがえる。』

台湾有事の際、日本の自衛隊も米軍と一緒に戦うことになるようです。

 

米国は故意に台湾有事を引き起こそうとしていると先に述べました。その目的は中国の力を弱めるきっかけをつくることでしょう。しかし、自分はなるべく代償を払いたくないはずです。ならば、”同盟国”になるべく多くの代償を払ってもらおう、ということになるのではないでしょうか。米国が岸田政権に、『「敵基地攻撃能力」の保有と、防衛予算のGDP比2%への倍増』をやらせた理由は、”同盟国”の国力をできるだけ使って、中国の国力を抑えようとしているだけではないのでしょうか。仮に台湾有事が起こらなくても、日本の軍備を増強しておくことは、機会があれば中国の力を抑えることに使えます。

 

台湾有事への自衛隊の参戦は、中国にどう映るのでしょうか?自衛隊の装備は、戦闘機、艦艇、潜水艦・・・自衛隊は中国から見れば軍隊です。つまり中国は、日本が戦争を仕掛けてきた、と見なすに違いありません。そうなると日本本土は中国の攻撃対象になるでしょう。台湾有事の際、日本は、米国の前線基地となります。従って、中国軍が攻撃対象とするのは、米国本土ではなく、まず日本でしょう。