玲子の場合 第2章 ACT11
会議室では玲子の昇進問題についての話し合いをそっちのけで、男同士の飲み屋の会話と間違われるような内容が続いていたが、猥談に参加する気のない山下は、玲子が入社した頃を思い出していた。
まだ若かった玲子は何事にも熱心で前向きに取り組み、山下の指導を乾いたスポンジのように吸収していった。
当時、地方の課長だった山下にとって玲子の指導は手応えのある楽しみの1つとなっていった。
調度今と同じ時期の新人研修が終わる頃、出来の良い玲子を労って飲みに連れて行ったことがあった。
スタイルも悪くないし、整った顔立ちなのに、やや大人しい印象をかもし出す玲子のことが、山下は可愛くてしかたなかったのだった。
山下は、チェーン店の居酒屋の広い店内にある個室で、玲子と向かい合って飲むだけで終わらせるつもりだった。
2時間ほど玲子と酒を飲み、若い子の話題に触れて、山下は今後の若手育成の参考にしようと思っていただけだった。
居酒屋で1時間半ほど過ぎた頃、玲子が急に黙って俯いた。
「どうかしたの?俺、何か悪いこと言った?」
山下は不機嫌になった玲子に声を掛けた。
「私、事務を希望していたら良かったんですかねぇ?」
目に一杯の涙を溜めて、玲子が嘆いた。
話しを聞くと、玲子だけ月に1回の同期会に声を掛けてもらえてないというのだ。
新入社員の男性陣は結託して事務や秘書へ回った女の子と毎月飲み会をしているのだが、自分たちにとって玲子が社内のライバルになることと寿退社を考えていないことで、楽しい飲み会の席に玲子は不要と判断したようだった。
山下は男の気持ちとしてわからなくもなかったが、仕事面では男に引けを取らなくなりそうな玲子をそんなことで差別するのも許せない気持ちになった。
山下には、自分だけ呼ばれないと悔しがる玲子が不憫でもあり、可愛くも映った。
ポロポロと悔し泣きし始めた玲子を一生懸命に慰める山下は「俺が泣かしているみたいで、人目につくじゃないか」と店から連れ出し、明るい繁華街から道1本外れたところで一緒に歩いた。
酔って泣きながら歩く玲子が、山下に謝ろうと立ち止って頭を下げた。
「すみません、泣くつもりじゃなかったんですけど・・・・。」
頭を下げた拍子に玲子が酔いのせいでよろけたので、山下は「危ない」と手を差し伸べた。
玲子は山下の腕の中に倒れ込み、転ぶのを免れた。
山下が玲子を抱き締めるような格好になったのをきっかけに、今まで保ち続けた山下の中の理性がプツッと音を立てた。
細身に見えた玲子の体は適度な脂肪で柔らかく、山下の腕の中にいる玲子の髪からほのかな香りが漂ってきた。
「すみません・・・。」
玲子は謝りながら態勢を整えようとしたが、山下は玲子を意識的に抱いて離さなかった。
「もう泣くな・・・。」
山下の言葉は上司のものではなくなり、玲子の髪に頬を寄せてキスをした。
玲子の方も腕を振り解くような素振りを見せず、黙って山下の腕の中にいてくれるようだったので、山下は右手で玲子の髪をかきあげ、唇を耳から頬へと移動させてキスをした。
涙で濡れた玲子の頬はしょっぱい味がした。
山下が玲子の涙を唇で拭うようにすると、それに応じるように、玲子はマスカラが涙で滲んだ眼を閉じた。
以前から玲子は、常に理性的な山下に対して、憧れの感情を持っていた。
それは上司としてではなく、男として見る目だった。
若さで頬がふっくらと丸みを帯びた玲子の顔を山下は両手でそっと挟み、玲子の震える唇へ優しいキスをしたが、合わさった唇は2秒も立たずに離れて行った。
山下に理性が戻ったのだ。
「すまなかった。今日のことは忘れてくれ・・・。」
頭を下げる山下に、玲子は黙ったままだった。
「つい、はずみで・・・。」
山下の言い訳を玲子は遮った。
「私、山下課長だったら・・・。」
意外な言葉を発した玲子を、今度は山下が遮る番だった。
「そんなことを言うもんじゃない。こんなことをしておいて卑怯に思われるかもしれないが、社内の人間とそういうことになっちゃいけないんだ。何気ない会話や態度の中にそういう匂いが必ず現れる。必ず回りは感づく。結婚でも考えられる相手ならまだしも、そうでない相手とそういう関係を持たない方が君の将来のためだ。」
山下は玲子を抱きたい気持ちを抑え、妻帯者の自分へ言い聞かせるように話した。
「は・・い・・・。」
消え入りそうな声で返事をし、恥ずかしそうに俯いた玲子を、山下は抱き締めたくなる衝動と戦いながら「これでいいんだ」と何度も頷いた。
たった1度、唇を合わせただけの関係だった。
その翌日からの玲子は変わった。
愚痴や泣き言を言わず、淡々と確実に仕事をこなしていく。
同期会に呼ばれないことも意に介さない様子になった玲子は、仕事場でプライベートを一切口にしなくなった。
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まだ若かった玲子は何事にも熱心で前向きに取り組み、山下の指導を乾いたスポンジのように吸収していった。
当時、地方の課長だった山下にとって玲子の指導は手応えのある楽しみの1つとなっていった。
調度今と同じ時期の新人研修が終わる頃、出来の良い玲子を労って飲みに連れて行ったことがあった。
スタイルも悪くないし、整った顔立ちなのに、やや大人しい印象をかもし出す玲子のことが、山下は可愛くてしかたなかったのだった。
山下は、チェーン店の居酒屋の広い店内にある個室で、玲子と向かい合って飲むだけで終わらせるつもりだった。
2時間ほど玲子と酒を飲み、若い子の話題に触れて、山下は今後の若手育成の参考にしようと思っていただけだった。
居酒屋で1時間半ほど過ぎた頃、玲子が急に黙って俯いた。
「どうかしたの?俺、何か悪いこと言った?」
山下は不機嫌になった玲子に声を掛けた。
「私、事務を希望していたら良かったんですかねぇ?」
目に一杯の涙を溜めて、玲子が嘆いた。
話しを聞くと、玲子だけ月に1回の同期会に声を掛けてもらえてないというのだ。
新入社員の男性陣は結託して事務や秘書へ回った女の子と毎月飲み会をしているのだが、自分たちにとって玲子が社内のライバルになることと寿退社を考えていないことで、楽しい飲み会の席に玲子は不要と判断したようだった。
山下は男の気持ちとしてわからなくもなかったが、仕事面では男に引けを取らなくなりそうな玲子をそんなことで差別するのも許せない気持ちになった。
山下には、自分だけ呼ばれないと悔しがる玲子が不憫でもあり、可愛くも映った。
ポロポロと悔し泣きし始めた玲子を一生懸命に慰める山下は「俺が泣かしているみたいで、人目につくじゃないか」と店から連れ出し、明るい繁華街から道1本外れたところで一緒に歩いた。
酔って泣きながら歩く玲子が、山下に謝ろうと立ち止って頭を下げた。
「すみません、泣くつもりじゃなかったんですけど・・・・。」
頭を下げた拍子に玲子が酔いのせいでよろけたので、山下は「危ない」と手を差し伸べた。
玲子は山下の腕の中に倒れ込み、転ぶのを免れた。
山下が玲子を抱き締めるような格好になったのをきっかけに、今まで保ち続けた山下の中の理性がプツッと音を立てた。
細身に見えた玲子の体は適度な脂肪で柔らかく、山下の腕の中にいる玲子の髪からほのかな香りが漂ってきた。
「すみません・・・。」
玲子は謝りながら態勢を整えようとしたが、山下は玲子を意識的に抱いて離さなかった。
「もう泣くな・・・。」
山下の言葉は上司のものではなくなり、玲子の髪に頬を寄せてキスをした。
玲子の方も腕を振り解くような素振りを見せず、黙って山下の腕の中にいてくれるようだったので、山下は右手で玲子の髪をかきあげ、唇を耳から頬へと移動させてキスをした。
涙で濡れた玲子の頬はしょっぱい味がした。
山下が玲子の涙を唇で拭うようにすると、それに応じるように、玲子はマスカラが涙で滲んだ眼を閉じた。
以前から玲子は、常に理性的な山下に対して、憧れの感情を持っていた。
それは上司としてではなく、男として見る目だった。
若さで頬がふっくらと丸みを帯びた玲子の顔を山下は両手でそっと挟み、玲子の震える唇へ優しいキスをしたが、合わさった唇は2秒も立たずに離れて行った。
山下に理性が戻ったのだ。
「すまなかった。今日のことは忘れてくれ・・・。」
頭を下げる山下に、玲子は黙ったままだった。
「つい、はずみで・・・。」
山下の言い訳を玲子は遮った。
「私、山下課長だったら・・・。」
意外な言葉を発した玲子を、今度は山下が遮る番だった。
「そんなことを言うもんじゃない。こんなことをしておいて卑怯に思われるかもしれないが、社内の人間とそういうことになっちゃいけないんだ。何気ない会話や態度の中にそういう匂いが必ず現れる。必ず回りは感づく。結婚でも考えられる相手ならまだしも、そうでない相手とそういう関係を持たない方が君の将来のためだ。」
山下は玲子を抱きたい気持ちを抑え、妻帯者の自分へ言い聞かせるように話した。
「は・・い・・・。」
消え入りそうな声で返事をし、恥ずかしそうに俯いた玲子を、山下は抱き締めたくなる衝動と戦いながら「これでいいんだ」と何度も頷いた。
たった1度、唇を合わせただけの関係だった。
その翌日からの玲子は変わった。
愚痴や泣き言を言わず、淡々と確実に仕事をこなしていく。
同期会に呼ばれないことも意に介さない様子になった玲子は、仕事場でプライベートを一切口にしなくなった。
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