2019.10.4
古典芸能にはあまり趣味はないものの、こと落語に関しては物語としての魅力を感じることが多く、朗読してもらう感覚でたまに聞くことがある。テレビやラジオでは堪能する時間を取って放送されることが少ないので、全集やらでじっくり聞くと存外味が合って楽しめる。秋の夜長、眠りにつく前の小一時間などにちょうど良い塩梅。XTC - The Ballad of Peter Pumpkinhead江戸時代中頃のお話…。お昼時、いつものようにざる屋が馴染みのお茶屋で一服して弁当でも食べようかと広げたところ、凧売りが子供をどやしつけている姿が目に入った。小さな子供をそんなに殴りつけてもと仲裁に飛んで入ったが凧売りは収まりがつかない。聞くと凧売りが落とした売り物の凧をその子が拾って盗んだと言うのだ。容赦の無い凧売りの態度を諫めながら、貧乏浪人の子だと言うその子にすっかり同情してしまったざる屋は、凧のひとつくらいくれてやったらどうだと提案する。凧売りは売り物なのだからそう易々とはくれてやれない、盗人は盗人だからその責任を取らせると言って聞かない。ざる屋も、そんな売り物の大事な凧を落としたのもいけない、子供を殴った殴り賃だと思えばいいじゃないかと反論するも、どうにもらちがあかないどころか頑なな態度に腹もたってくる。仕方ないから自分が買ってやると、親の形見だと大事に身につけていた一両を引っ張りだし支払おうとしたが、そんな大金をもらっても釣りがないとさらに言い合いになる始末。そこへ用事から戻ったお茶屋の女中に小銭を出してもらい支払うことにはなったのだが、どちらも収まりがつかずついに取っ組み合いの喧嘩を始めてしまう。若さにまさるざる屋が馬乗りになって凧売りを殴りつけていると、ひどい身なりをした浪人が止めに入った。手前はその子の親、怪我があっては大変だからと言う浪人に、ざる屋は恥をかかす訳にはいかないからと事の次第を悟られまいとするも、あらましを悟った浪人は、子に何も買ってやれない自分の責任だと皆に深く謝り、ようやくその場は収まることとなる。お茶屋の女中さんが出してくれたお茶を飲みつつ、その浪人と互いの身の上話をする。国をあとにし縁者を頼りに江戸へ出てきたものの災難続き、その上、お上さんまでをもなくすと言う、そんな身の上になっても再仕官をもしないその忠義さ、町人にもに自分の責任だと頭を下げられる立派な方だと官服したざる屋。そんなこんなもあなたの罪ではない、銭の無い罪だ、いや、世の中の罪だと浪人を励ます。そして健気に自分を慕う子を不憫に想い、自分にもこのくらいの子があったものの亡くしてからいいことをしてこなかった、この肩身の一両も良いことに使えるのなら死んだ親父も喜んでくれるだろう、凧でも買ってもらいなとその子にさきほどの一両を握らせようとしたところ、それはいけないと浪人は慌てて辞退する。そこへ立派な身なりの侍が通りかかったかと思うと、その浪人は顔を隠す様に子をつれその場を立ち去った。XTC - The Disappointedしばらくすると、傘をかぶたった立派な侍がざる屋を呼び止め、話があるからついてこいと有名な料理亭へ招き入れた。なんの話かと出された酒の味も分からないほどの緊張をしながらにいると、さきほどの騒動の一部始終見ていた、それに感動をしたのでお前と一杯やりたくなったと聞かされる。侍のつらさ、こと浪人であるから出るに出られ無いところ、ざる屋の情けに落涙するほどに感服したと礼のお金までくれると言う。ざる屋は、そこまでされる覚えはないと固辞をし、それではお酒だけは遠慮無く頂くことにしますと、二人で飲み始める。酔いもまわろうかとする頃、美しいものを見せてもらったとご機嫌な侍に、ざる屋がおもしろくないと噛みつき始める。自分ではなく何故さきほどの忠義の浪人の方を誉めようとしない、一言声をかけてもらうだけでも救われることはあるんだ、侍の付き合いか何だかは知らないが、裸になれば同じ人間、武士も町人もないだろうと。侍はざる屋の気持ちに理解はするものの、人の世はそうまっすぐにはいかない、世に捨てられた浪人には返って会わない方が情けだと言って聞かせる。それは冷たいだけだ、詭弁だとどうにも納得出来ないざる屋の主張に、確かに情けに遠慮は無用かも知れない、侍は自分が間違っていたかも知れないと素直に謝り、これから二人であの浪人の家へ行こうと言うことになる。XTC - Wrapped In Grey二人が浪人の長屋につくと、その浪人は割腹をして果てていた。どうしてこんなことをと取り乱したざる屋はまったく理解が出来ない。すると横に置かれた書き置きを手に取り、侍にそれを読めと促す。人に宛てられたものだからと躊躇する侍を説得し、その内容を読み聞かせてもらった。さきほどの自分の情けがその原因になったと知ったざる屋は、自分の了見に引き比べて天下お見通しみたいな口を聞いていた自分が悪かった、侍同士、返って情けをかけない方が情けだと言うことが分かった、生まれながらの余計なお節介と肩身の小判一枚の為にこんないい人を殺してしまった…。残されることとなった浪人の子供を抱きしめ、お前のおとっちゃんを殺したのは自分だ、俺が敵だと嘆き悲しむ。侍は、およそ生きとし生けるもの、どんなものにも自負はある、端でみるほど己をそこまで哀れともさむしいとも思っていないものだ、この侍にも自負も望みもあった、先ほどの一件で、子をひとり育てられない情けなさ、行きずりの町人にまで情けをかけられるまでになっていたと言う自分の本当の姿を見ることになったのだろうと…。続けて、今回の情けは仇にはなったものの、お前は決して間違ってはいなかった、その心はいつまでも忘れるなとざる屋をなぐさめた。浪人を立派に弔った後、その侍が浪人の縁者からその子を譲り受けて養子として、のちに立派な侍になった。XTC - Books Are Burningこの、三遊亭圓生による『小判一両』と言うお噺しは、劇作家・宇野信夫が書き下ろしたものを圓生がラジオ放送の為にと落語に仕上げたものらしく、そう古い作品ではないとのこと。この作品に限らず、落語はどれもプロットとしては単純なものなので、あらすじだけにしてしまうとまるで味気ないと言うこともあり、今回多少味付けを足してみました。もちろんこの落語を聞いて頂ければ、物語は立体的になりますので、機会があれば一度お聞きになってにるのも面白いものかと。ここに登場する人物は誰しもが自分の正義感を信じて、決して物事の傍観者にもなっていない。例え全員が傍観者にななったところでこの状況の本質は変わらない。正義感や正しいこと、英語でも"right thing"と言うセリフでドラマにも出てくるくらい万国共通の理念ではありますけれど、その違った価値観がぶつかったときの悲劇と問題解決の難しさは、いつの時代でも、本当に悩ましい課題になっていると言うことで今回この作品を紹介してみることにしました。今回の音楽はすべて、XTCの『Nonsuch』と言うアルバムの中から選曲してみました。XTCはパンク、ニューウェーブ時代のイギリスで登場して、その時々の音をうまく取り込みながら、彼ららしいポップさで聴き心地もよく、日本でもファンが多いバンドです。この作品は、前作からの路線であるポップさをいかんなく発揮しながら、実にイギリスらしい、彼ららしいアイロニーやユーモアにあふれている秀作です。"人間関係は良い誤解か、悪い誤解。" - 立川談志 落語名人寄席 全4巻 CD40枚組 (収納ケース付)セット 3,304円 Amazon NONSUCH / CD+DVD-A 1,431円 Amazon