課外(クァウェ;家庭教師/個人教師のようなもの)のアルバイトを始めて一ヶ月以上が過ぎた。
学生は中国出身のCさん(朝鮮族/中国同胞)。
毎週一時間だけ日本語でフリートークをしているのだが、おたがい段々なれてきて、いろんな話が出るようになってきた。
その中で、Cさんが済州島で偶然であった日本人の話がおもしろかったので、記憶が鮮明なうちに書いておこうと思う。
Cさんは外国人が犯罪をおかしたり事件にまきこまれたときに、警察とのあいだで通訳するアルバイトをしている。
彼女が登録している言語は中国語と日本語。
済州島での外国人犯罪は中国人によるものがかなり多いので、中国語での通訳はわりと仕事があるらしい。
そのなかで、日本語での通訳依頼が今まで一回だけあったという。
Cさんが警察署に駆けつけたところ、一人の日本人男性が連行されていた。
見た感じかなり若く、たぶん20代後半ぐらい。
事情を聞いてみると、彼はホテルのロビーでスマホだかパソコンだかを見ていた時に、後ろからのぞき見されたと感じて(錯覚して)、その場にいた人と激しい口論になったため、警察に通報されてしまったらしい。
と、ここまではまだ常識の範囲内だった。
だが、そこから彼は急に「韓国に政治ボウメイをしたい」と言い出す。
Cさんの頭に大きな「?」が浮かぶ。
……「ボウメイ」って何?
彼女の日本語能力は上級レベルだが、「ボウメイ」という単語にすぐに反応できない。
オンラインの辞書で調べてみる。
ボウメイ…………亡命!?
Cさんは目を疑い、「ボウメイというのはこの“亡命”のことですか?」と何度も念を押す。
彼が「はい、そうです」と答える。
Cさんはそれを警察官に通訳する。
驚いてざわつく警察官たち。
さらに詳しく聞くと、彼は祖父を北朝鮮によって殺害されたのだという。
そして、日本では北朝鮮を支持する人たちがたくさんいて、日本にいると危険なので韓国に亡命したいのだと主張。
耳を疑う警察官たち。
そして、当然というべきか、彼は精神鑑定をされることとなった。
Cさんはそこにも通訳のためについていったらしい。
彼女が聞いた医師の判断は……
「入院するほどではない」
というものだったそうだ。
「ほどではない」ということは、前提として「ちょっと精神的に異常があるけれども」という言外の意味が含まれている。
その後、彼がどうなったのか、Cさんは知らない。
……
この話を聞いて、世の中には本当にいろんな人がいるんだなぁと思った。
可能性としては……
① 彼がものすごくブラックなジョークとして、韓国の警察で嘘をつきまくった
② 医師の診断どおり、精神的に問題がある(激しい被害妄想とか)
③ 彼の話がすべて本当である
まあ、医師の診断もあるし、たぶん②であることはまちがいないだろう。
だいたい、パソコンをのぞき見されたとホテルのロビーで騒いだ結果として捕まっているのだから、その後の「政治亡命」や「北朝鮮」云々の話も信じることはかなり難しい。
その場にいた警察官たちの動揺は容易に想像できる(もうほとんどコメディですね)。
たぶん日本にいるであろう彼が、今後もっと大きな事件をおこさないよう願うばかりである。
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