8月2日、アメリカ連邦議会下院のナンシー・ペロシ議長が台湾を訪問しました。下院議長の訪台は25年ぶりとのこと。


ナンシー・ペロシ氏

下院議長は大統領権限継承順位が副大統領に次ぐ第2位


 もちろん中国は猛反発。台湾付近で大規模な軍事演出を実施するなどの対抗措置をとりました。

 さて、今回の一件はどちらにとってマイナスだったのでしょうか?

 僕はアメリカだと思います。

 と言いますのも、東南アジアの国々は中国と地理的にも近く、経済的に強い結びつきがあります。

 そのため、アメリカが進めている対中包囲網に対してもあまり積極的ではありません。実際、バイデン政権はTPPの代わりに発足させたIPEFに台湾を参加させませんでした
*なお、台湾とは二国間で経済協定を締結する模様。
 これは台湾加盟には中国が反発すると予想され、その場合には東南アジアの国々が参加へ消極的になることを防ぐ狙いがあります。

 さらには、ウクライナへ侵攻したロシアへの制裁にも(シンガポール以外は)参加していません。その理由も一部の国々とロシアとの結びつきでした。

 このように東南アジアの国々は対米、対中、対露関係のバランスを気にかけています。同国々にとって米中対立は大迷惑なわけです。

 それにもかかわらず、ペロシ氏は台湾を訪問し、中国は猛反発して対抗措置をとった。今回の件は「アメリカはトラブルメーカー」との印象を与えてしまったのではないでしょうか

 見方を変えれば、中国にとってはペロシ下院議長が実施に台湾に行くかよりも、訪台の有無に応じた最大限の対抗措置をとることが重要だったと言えます。

 一方アメリカには訪台中止という選択肢はなかったでしょう。もしドタキャンしたら、「アメリカは中国の圧力に屈した」とのイメージが広がってしまいます。昨年はアフガニスタンから無様な撤退をすることになり、今年はロシアのウクライナ侵攻を阻止できませんでした。アメリカもこれ以上の影響力低下は避けたいと思われます。

 その意味では、ペロシ氏の訪台が焦点になった時点で中国の勝ちでしたね。

 さらに、中国は台湾侵攻のシミュレーションができた面もあります。

 今回の大規模な軍事演習は台湾を包囲するような形で実施されています。



 普段このような演習をすれば、中国の方が力による現状変更を試みるトラブルメーカーと思われてしまいます。

 しかし、今回は「ペロシ訪台への対抗措置」という大義名分があります。「アメリカの方が先に緊張を高めた」と主張することができるのです。

 中国にとっては、台湾制圧に向けた貴重な機会になったでしょう。

 以上をふまえると、バイデン大統領がペロシ訪台に難色を示したことにも頷けます。

 さて、当然ながら日本にとっても他人事ではありません。日本もまた地理的に中国や台湾と近いのです。また、アメリカとは軍事同盟を締結しています。台湾海峡で軍事的な緊張が高まれば、巻き込まれる可能性は非常に高いと言えます。

 実施、今回の演習では、日本の排他的経済水域へ弾道ミサイルが打ち込まれました。多くのメディアは「落下」などと報道しているようですが(苦笑)。

 さらに、日本もまた中国の脅威にさらされています。固有の領土たる尖閣諸島付近では、中国海警局の活動が常態化しています。国内では、中国資本による不動産などの買収が進んでいます。中国に対抗するためには、東南アジアの国々との協力も大切でしょう。

 ちなみに、アメリカは日本に東南アジアの説得を押しつける可能性もあります。今回のようにアメリカが台湾海峡の緊張を高めると、日本の苦労が増えます(笑)。それどころか、日本まで迷惑者扱いされかねません。
 
 日本の苦悩は続きそうですね。