文法訳読式の指導法を乗り越えるための一つの考え方(3)その 6 | writfren-edのブログ

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3] Practice 段階 に於ける異なる language skills (2) - continued

Discourseについて:

従来から component skills の中に、discourse が含められていた事実はあります。しかし、日本の高校までの授業では、G-T 手法であるか否かに拘らず、それ程意識させられたことはないかと思います。精々、reading なり、和訳なりの作業中に、「この代名詞の they は具体的には誰のことか?」、「ここで省略されている語は何か?」、「この文章の主題は何か?」のような、教科書にある既成の comprehension questions や少数の練習問題を使った後に、その作業がカバーしないで残るような所を、和訳のチェックのついでに、ほんの少しだけ、教師が細かく質問する程度の印象しかないのではないでしょうか。言い換えれば、‘英文解釈’ と呼ばれる作業の中で、‘談話’ という言葉は一切使わず、文法項目のように扱われて来たということだと思います。

 

このような discourse の扱い方が問題視される背景には、言語教育の場面では、その教えるべき目的としての二種類の異なる言語が存在することによって起こります。

 

第一には、教室には、如何に文法のルールが働くかを教える目的で、通常単文の形の一文(sentence)を脈絡から切り離して抽出した言語の一片が存在します。単語という形で与えられた事実の情報に説明を加え、結果として ‘言葉と識字の能力’ と呼ばれるような知識・技術を教えることが行われるからです。言い換えれば、抽象化された言語のシステムの具体的現れと言え、試験管の中にあるサンプルに当たります。当然、与えられた一文という言葉の内部の情報だけで理解に達します。ここで、敢て、通常単文の形の一文としているのは、重文・複文では一文の中に既に and, when, as 等々のような接続詞が含まれ、二つの文の相互依存関係や(バラバラの状態とは異なる)結束性が現れて来るからです。そして、この意味上の ‘相互依存関係’ や ‘結束性’ が作り出される状態が ‘談話の流れ (discourse) ’ と呼ばれているからです。

 

第二には、実際に伝達の目的で使っている生きた言葉があります。そこには、言い間違え、言い淀み、通じるが余り適当でない語句の使用、途中で別の文型の文に乗り換えてしまったりする、というようなことが含まれる可能性があります。考えながら、言葉を探しながら、話しているからです。そして、それでも、言葉の断片のようなものがサポートし合いながら一定の統一性を以て一つの意味を伝えます。また、学習の為のテキストとして与えられる文章は整理された良質な言語素材ですが、学習目的で何らかの手が加えられた semi-authentic と云える性質のものである可能性もあります。しかし、どちらにしても、学習者は、この種類の言葉には、複数の文 (sentence) の連続の形で与えられることにより見えて来る各文に関わる場面情報や脈絡情報という言語の外部情報と共に接触することになります。

 

上記の言語に対する二種類の取り組み方の内、言葉の内部にある情報のみ頼る第一の方法は formal approach と呼ばれています。そして、外部情報に頼る第二の方法は contextual approach です。特徴的なこととして知って置くべきことは、ある文が正しいかどうかは、第一の方法だけで決めることが出来るということです(= grammatically correct)。当然、formally/grammatically correct の文がある場面では、不適切という意味での contextually incorrect となり得ます。ここに、第一の方法で文法の名の元に説明されていた事柄を超える領域に踏み込み、その枠組みでは説明し切れない例が多く出てくることになり、discourse という領域に重点を移すことの優位性が出てくることになります。

 

勿論、上記二種類の言語が存在することは、ギリシャの昔から分かっていることですので、当時から言語のシステムである文法の領域と、より上手く、効果的に習った言葉を使う技術としての修辞(学)は区別されています。しかし、その場合もテクニックを駆使して言葉をより効果的な形で配列する為の研究・検討であり、一連の文(章)に更なる洗練を加えることが目的という形になります。従って、ここまで述べたような言葉の連続の中に一貫性を見出すことの仕組みの解明という課題は、意識されないまま取り残されて議論が進んでいると云えるかも知れません。これは ’beyond the sentence’ と言っても、以下に述べるような談話に関わる階層区分では、文 (sentence) から、その中間の階層区分を飛ばして一気に shared knowledge の段階に行くようなものと言えるかも知れません。

 

言語内情報だけで理解しようとする伝統的方法

本来、上記の議論に於ける第二の方法 (contextual approach) は、言語外の場面、言葉の使い手、彼らが何を知っており、今何をしているのかのような事柄について知っていることが大切で、そのことが意味内容や言葉が運ぶ情報の一貫性のような事柄の理解につながります。

 

ところが、一文の理解を基礎に文と文の繋がりを分析・研究する (第一の方法;formal ap-proach) 際には、上記とは異なった、"形式的な特徴を、文字や音声を通じて得た情報から何らかの方法で作り上げられたもの" と考えるところから始まります。そして、このことによって、外部の事実の検討無しで、語彙と文法の知識を使って、言葉の形で現れた情報  (co-text) だけで理解し、文章や表現が正しいか否かを決める方法が創り出されます。これが、いわゆる grammatical cohesion (= formal linking; 文法的結束性)と呼ばれているものです。

 

そこで、先ず、我々が目(耳)にする言葉とその使われている環境との間でどのような階層区分が設定出来るかを見てみることにします。それは、通常以下のようになります:

 

     Social relationships

     Shared knowledge〈知識の送り手と受け手によって言葉の形がどう影響を受けるか〉

     Discourse type〈特定のタイプの談話を含め、総体的な構造を確定する可能性の追求〉

     Discourse functionFunction と呼ばれる言語と脈絡 (context) の相互作用〉

     Conversational mechanismCohesion 同様、言葉の小単位を結び付けるとされる;会話の場合〉

     Cohesion〈文法と談話の関係;形式的な密着の性質が文の境界を越えてどこまで届くか〉

     (Grammar and lexis

     (Sounds or letters)

 

                                              Cook (Discourse, Oxford University press,  1989) より

 

上記の内、談話の流れに直接に関わるものは social relationships から cohesion であり、括弧内にある grammar and lexis と sounds or letters は言語学の分析分野ということになり、教室で教えられている言語ということになります。そして、二つの異なる分野の接点にあるのがcohesion (spontaneous speech では conversational mechanism と考えて良い) です。

 

従来の考え方では、直接言語形式に関わる cohesion (以下の formal linking) から検討を始め、social relationships に向けて bottom-up で検討を進める方法で、分析は可能とされているようです。その結果、文と文のつながりの中に発見される特徴を明らかにする試みがなされ、以下の具体例のような cohesion の仕組みの分類が行われます:

 

Parallelism(類似型の平行):

  以下の文章では、「S + V + O + by …」という構文の繰り返しによって、3つの sentence が関連付けられている。

 

  He vastly enriched the world by his inventions.  He enriched the field of

    knowledge by teaching.  He enriched humanity by his precepts and his

    personal examples. …

 

Referring expressions(掛り表現):

  代名詞・指示詞・形容詞や副詞を使った比較の手法などによって、意味上のつながりを明確にする方法。

 

  代名詞: Tom is a big boy.  He is very kind, too.

 

  指示詞: Jane tried to make her son a popular singer.  This did not happen.

 

   形容詞や副詞を使った比較の手法:

 

          A: Would you like these seats?

          B: No, as a matter of fact, I’d like the other seats.

 

Repetition and lexical chains(繰返しと語彙の連鎖): 

   シャンプーのブランド名Timoteiが敢えて代名詞を使うことなく繰り返されている。

 

 Timotei is both mild to your hair and to your scalp - so mild you can wash your

   hair as often as you like.  Timotei cleans your hair gently, leaving it soft and 

   shiny, with a fresh smell of summer meadows.

 

Substitution(入れ替え):

   名詞の入れ替え、動詞の入れ替え、節の入れ替えの3種類があり、以下のような例がある:

 

         There are some new tennis balls in the bag.  These ones have lost their 

         bounce.

     

   A:  Annie says you drink too much.

   B:  So do you!      

 

         A:  Is it going to rain?

         B:  I think so.

 

Ellipsis(省略):

   以下の例では、Bの発話で hat が省略されている:

 

        A:  I like the blue hat.

        B:  I prefer the green.

 

Conjunction(接続詞):

   所謂 cohesion marker と呼ばれる語句を用いた文の連結方法である:

    

        I’m afraid I’ll be home late tonight.  However, I won’t have to go in until 

        late tomorrow.

 

    John came in.  Then he sat down.

 

このような grammatical cohesion と呼ばれる範疇に入る例を見れば、文(sentence)と文(sentence)との繋がりの関係を理解する時、文を構成する語彙と文法規則に加え、formal linking という形式に関する知識を引き金にして引き出される co-text  情報に大きく頼っていることが具体的に分かると思います。

 

Halliday 等の文法学者は、これらの例のような cohesion (= formal link) は、従来談話の領域ではなく文法の領域で説明され、取り扱われて来たことを指摘しています (現実に語法等という言葉で結構文法領域に入り込んでいます)。そして、唯一、 ‘Repetition and lexical chains(繰返しと語彙の連鎖)’  の項で例示されている lexical cohesion が例外とのことです。語彙は、文法とは別のシステムとしても成立していますので、文法の側に立って、そのアングルから見た bottom-up 手法からは、はみ出してしまう部分もあるのでしょうか。

 

そして、これが実質的には、伝統的に component skills の中の一つとして扱われて来た discourse の中身であり、主に 4 skills の領域の内の reading の授業の中で取り上げられるものです。当然、筆者も含め、一般的日本人英語教師のこの分野の知識は基本的に上記の様なもの、或いはそれ以下のレベルにあるということは言えるのではないかと思えます。最初に触れた代名詞の指示している語の確認のような作業は、こうした知識の上に立って教師が散発的に行っている質問ということが云えると思います。

 

Discourse analysis (談話分析) とは何か

上記のようなことを念頭に置き、discourse analysis という形で現在研究が進んでいる学問分野について、少し考えてみたいと思います。

 

Discourse analysisも、やはり問題の術語で学者により微妙な違いのある buzzword なのですが、一般的な定義として、‘an umbrella-term for all issues that have been dealt with in the linguistic study of text and discourse (Celce-Murcia and Olshtain:Discourse and context in language teaching.  New York:  Cambridge University Press., 2000) ’ があります。この場合 ‘応用’ ということに重点が置かれ、談話の分析は、言語教育・発話の分析(speech analysis)・読み書きをする場合の方法や手順(process of reading or writing)の解明・ジャンルや言語使用域(genre and register)の分析を押し進めるという方向に向かっています。

 

Discourseの種類

そこで、上記の最後に挙げられている register (言語の形式)と genre (ジャンル;様式) の観点から検討を始めたいと思います。これらは言葉のスタイルの問題であり、前者は最も簡単な表現を使えば  ‘formal-neutral/common – informal  (形式的-中立的-略式) ’ の違い、後者は伝達の目的・聴取者・習慣化された形式 (communicative purpose・audience・conventional-ized style/format) に焦点を置いた特徴の分析ということになります。具体的には以下のようなものです:

 

  Resister:

      通常は、formal-informal の2つに分けることが多く、formal は書き言葉(written langu-

      age)、informal (spoken language) は話し言葉の傾向が強いと思われている:

            

                     e.g. 

                           INFORMAL                      FORMAL  

         gap                               interstice

         hole               orifice

         kid                                    child

         round                                circular

         sparkling                            iridescent

         blow up                              inflate

         pick on                               select

         put off                               postpone

         make sure                          acertain

         do again                             repeat

         Where to?                          Where has he/she gone?

         He said he’d be late.           He said he would be late.

 

 

  上記のように、英語の場合、一見して formal に本来の英語とは異なる綴りや雰囲気の違う

  ギリシャ・ラテン語起源と思われる語が多く、informal には phrase (いわゆる phrasal 

  verb など) のような古英語起源の手法や省略形が多いことが分かる。Register には社会層

  ごとの言語使用域の違いを表すという定義もあり、その場合社会の下層部の人々の言葉と 

  informal の表現の違いが一致してしまう場合が出て来る。例えば、

     

             e.g.   

                      INFORMAL                  NEUTRAL                   FORMAL

                      lass                             girl                             maiden

                      kick the bucket           die                              pass away

                      See you!                     Goodbye!                    Farewell!

                      It’s a rip off! /            It’s too expensive!     The cost is ex-

                      It’s much too dear!                                                  orbitant!

 

  こうした例から、informal の用法には、口語・スラング、場合によっては方言のようなも

  のが雑多に含まれることが分かる。また、neutral の語句は ‘話す・書く’ の両方のモードで

  使われることも理解出来るだろう。そして、formal は書き言葉として、或いは、正式の場

  面での語用であることも理解できる。

         英語国のコースに於ける syllabus design に於いては、様々な場面に合った言葉を使う必

      要のあるホテルの従業員の為の表現を確定する上で、register は有益な情報ということにな

      る。当然、初級段階から教えられ、同じ意味の異なる表現を繰り返し教える cyclic syl-

      labus のような形でコースの表面に現れることもある。しかし、いわゆる general En-

      glish course では、英語学習の初級段階で習う語句は汎用性の観点から neutral のもの

  が中心的に選ばれる傾向にある。従って、日常的な対話表現などの場合以外は、informal –         

  neutral – formal の概念に触れることは殆ど無く、中級以後の課題となる筈である。

         下記の The Oral-literacy Continuum (口頭言語‐文字言語間の連続性) の表の中の具体例

      の中で使われている語彙の質の違いが、この領域の問題ということになる。

 

  Genre:

  Genreは与えられたテキストに関する ‘伝達の目的・聴取者・習慣化された形式 (com‐

      municative purpose・audience・conventionalized style/format) に焦点を置いた特徴の

      分析’ ということになる。言い換えれば、特定の脈絡でどのように言葉が使われるかについ

      ての研究領域である。具体的には、新聞の文書・レシピの文書・小説の文書・ビジネスの文

      書等は、それぞれの特徴があり、それを比較・分析するのが genre analysis (ジャンルの分

      析)ということになる。例えば、新聞記事は、読者に必要な情報をある程度決まりきった方

  法で提示する傾向がある。具体的には、以下のような方法があると言える :

 

     Title(表題):

     Author(s) (著者):

     Location (話題の場所):

     Argument (主張・議論):

     Supporting details (議論を支える具体的にして詳細な事柄):

     Supporting details (議論を支える具体的にして詳細な事柄):

 

  この例のような所謂ジャンル(genre)の領域に入る知識は、母語話者の場合、子供の頃

  から時間を掛けて蓄積され、必要な時に引き出され、(ある程度無意識に)運用すること

  が可能になり、無意識にこうした情報を探しながら記事を読む場合もあると云える。これ

  に加え、記事は、最初の段落が長く、後にいくに従って、短い段落の連続になる傾向を持

  つ。スペースが足りない時に、カットして編集時間を短くする目的からである。

   このように、異なる genre はそれぞれ異なった goal (伝達行為の結果としての到達点) 

      を持ち、その焦点を踏まえ、その目的達成のために、それぞれ異なった(情報) 構造や組織

      化のパターンを使うことになる。言い換えれば、書き手や話し手が特定の伝達上の目的に向

      かってどのように情報を並べ、言語化するかという問題を整理し、そのパターンの全てを明

      らかにすることが、genre analysis である。

     これも、The Oral-literacy Continuum (口頭言語‐文字言語間の連続性) の表の中の具体

      例をそのまま genre の例と理解して良い。

 

そして、上記の二種類以外に更に別の角度から架けることの出来るベルトとしては以下のようなものがあります。

 

  Planned discourse - Unplanned discourse:

    事前に時間を掛けて内容と表現を検討することによって出来上がるテキストは当然 plan‐

  ned discourseのテキストということになる。文学作品・レポート等の書かれたものがこの

  分類に入る。また、話されるものでも、講義のような事前の準備のあるテキストもこの範疇

  になる。当然、Krashen の言う monitor でチェックするので、語彙の選択や文章表現に文

  法形式などは上記の register が neutral  以上のものとなる傾向が強く、それぞれ特徴が異

  なるであろうことは想像できるだろう。チェックされた、言語の外装部分は、洗練され、複

  雑になる傾向もある。

   Unplanned discourse の例としては、口頭で行われるほとんどの会話や非公式のメモや

  手紙のような、主に書いたもののテキストがこれに当たる。時間的制約の影響もあり、語彙

  は日常語彙が圧倒的に多くなり、スラングなども混じる可能性が増える。また、当面の使用

  であることから、文は主語やその他の必要要素が省略される場合も多く、単語も母音の省略

  など短縮され、書かれるケースも多い (e.g. background knowledge > bckgrnd 

  knwldg)。何度も検討することが無い状況下で作られるテキストであり、書いたり、読まれ

  たりする場面の context 情報と一体化し、理解される特徴があるからである。当然、日常

  会話の場面で話される言葉もこの領域に入る。

 

  Context-embedded discourse - Context-reduced discourse:

  Context-embedded discourse は慣れ親しんだ場面での伝達の特徴である。上記 un-

      planned discourse とも特徴を共有し、メモ・買い物リスト・広告のチラシのようなテキス  

  トがこれに当たり、言葉の使い手は、社会習慣に関する知識やテキストの中身が解釈される

  場面情報に大きく依存しで言葉を解釈・運用することになる。既述の言語使用場面の con-

   text 情報と一体化し、理解されることの中身である。

       これに対して、context-reduced discourse は目先の物理的脈絡からは切り離された

       状態で、話題を抽象的・概念的な形で扱おうとするものである。当然、捨象された con- 

       text  情報の必要なものを co-text 情報の中に織り込んで補う必要があることから、より教

  養・知的訓練に裏付けられた言語使用になる。従って、書き言葉がより良くあてはまること

  になる。勿論、講義のような準備を経たテキストも、特徴は違っても、この範疇に入る。

         このことから、context-embeded discourse が、前項の unplanned discourse のテキ

      ストである可能性が大きく、context-reduced discourse が planned discourse のテキス

      トになる可能性が大きいことが分かるだろう。検討の度合いが語彙の選び方や文の構成の仕

      方に影響するからであり、熟達した書き手や話し手は、こうした特徴をうまく使い分けると

  いうことが云える。

 

  Transactional discourse - Interactional discourse:

  もう一つの側面として、transactional discourse-interactional discourse の区別があ

  る。Transactional discourseは主に情報の伝達や品物・サービス等の取引に関するテキス  

  トに現れる。受け手にとって必要な具体的情報を運ぶ言語運用である。この範疇に入る言語

  使用では、一種の ‘指示・命令’ が典型例と言える。そして、interactional discourse は、

  言葉の使い手の間における社会学的関係や自分らしさの形成や維持管理を目的とする発話に

  現れる。同時に、話し手・書き手の話題や対話の相手に対する態度の表明ための言語使用の

  テキストにも現れると云える。‘挨拶’ に関わる様々な表現が典型例となる。

 

上記のような分析の為の複数のベルトを掛けて、具体的なテキストを分類すると以下の ‘The Oral-literacy Continuum (口頭言語‐文字言語間の連続性)’ の表のような形で整理出来ると思われます。

 

The Oral-literacy Continuum

 Medium/

Channel

 

 LITERACY

 

Spoken

 

Written

 ORATE /

Colloquial

 

 unplanned

 

  

 

 planned

Eg., conversation

 

context-embedded

 <both  transactional &

interactional>

 

 

 

X

 

Eg., informal letter,

note (= memo)

context-embedded

<mostly transactional>

 

 

 

drama, poetry,

carefully edited and

published written work

(context-reduced

<transactional>

 

 LITERATE 

 

 planned

Eg., lectures, sermons, speeches

   context-reduced

<mostly transactional>

 

Eg., expository essays, articles

context-reduced

<transactional>

 

 

いわゆる spoken discourse の text としては準備の無い日常会話と、準備をした講義・説教などがあります。そして、自然の状態にある conversation には context-reduced の text が無いことが特徴と云えます。また、話したことは其の儘書けるので当然のことなのでしょうが、written discourse の text は非常にバラエィーに富んでいると云えます。更には、 written discourse の text が、本質的に transactional であることも、その場に居ない他者に自分の考えを書き残すということの意味を考えると、当然なことのように思えます。

 

このように、上記の表のような分析では、夫々の談話のタイプのより分けを行う際の情報整理の道具としては使える可能性がありますが。しかし、談話の流れを創り出すメカニズムの解明にはなかなか至らないということで、もう一歩分析の方向性を先に進め、そうした目的にも合うものを探そうとすることになります。

 

談話の分類の必要

 Discourse competence は学習者、教師の両者が日常の会話や新聞・雑誌を読むなどの日々言語生活を通じて、ある意味では無意識的に言葉を使い続け、そのことによって(母語でも、外国語でも)強化されて行くものです。その結果、ある表現について質問されても、「そういう風に言うんだよ」などという言葉でしか言い表せません。こうして言語使用の判断基準なども含めた能力が発達する訳で、ある意味で ‘得体の知れないもの’ とも言えます。そうした、全体像が見えにくいものを分析的に見ようとする一つの方法が、上記の grammatical cohesion (文法的結束性)だったと云えるかもしれません。教える必要もあるからです。しかし、この方法を学ぶことは、談話の流れの統一性の知識を強化するものの、それ自体には談話の流れを創り出すことは出来ないという問題があります。

 

そこで、もう一度さまざまな角度から複数のベルトを架けてみてその特徴の分析を集積することによって、より正確な概念を得ようとする折衷主義(eclecticism)とも云える手法がしばしば採られます。体系的に分析するという方向を目指す意味では比較的新しいこの分野もその例外ではないということになります。

 

そして、ここまでに述べたような内容の知識・技術の集積である discourse competence に関わる理解の進展が、伝達能力である communicative competence を構成する linguistic competence, formulaic competence, intercultural competence, strategic competence の中心に位置することは、既に「文法訳読式の指導法を乗り越えるための一つの考え方(1)」で触れています。

 

前々項とは異なる談話の分析

Discourse の分析には上記の他にもさまざまな角度から実際の言語使用を観察し、分類し、談話の特徴を炙り出そうとする方法があります。しかし、単なる特徴の炙り出しと記述を超え、談話の創造という領域にもつながるような要素の解明につながるような方向性を目指す動きは、既にある部分だけが教室扱われているようなものもあります。そこで、以下に幾つかの分析・記述の取組みと思えるものに簡単に触れておきます。以後の研究の手掛かりにはなるのではないか思います。

 

既に上に触れた grammatical cohesion は文と文をつなぐ ‘個別の連携’ の問題を扱っています。伝統的に教室で教えられて来た cohesion の守備範囲は、恐らくこのレベルが中心であると云えるでしょう。しかし、現在は複数の文に亙る連携についても検討に力点が掛っており、談話の創造の領域の解明にもつながるかも知れないということから、以下に簡単に説明して置きたいと思います:

   

   Coherence-Cohesion

   最初に触れたcohesionの中の ‘ Repetition and lexical chains(繰返しと語彙の連鎖)’ 

         の項に追加の以下の例では、

 

   Cotton is a very useful plant.  Inside its round fruits, called bolls, are

         masses of the white fibers.  When the fruits ripen, they split and the

         fibres are blown away.  But, in the cotton fields, bolls are picked before

         this can happen.  Cotton grows best in warm, wet lands, including

         Asia, the southern United Staes, India, China, Egypt and Brazil.

 

        下線部の Cotton … cotton; fruits … fruits が repetition であり… ripen …

         are picked … grows;  … plant … fruits … bolls … fibres  は ‘語彙連鎖(lexical

         chain belonging to the same lexical set)’ ということになる。そして、これは、

         grammatical cohesion ではなく、lexical cohesion に分類されている。‘熟す~収

         穫する~成長する;植物~実~鞘~繊維’ の二種類の連鎖は、cotton, when, blow,

         field, warm, wet, land 等の語の意味が分れば、background knowledge も手伝っ

         て、「文法訳読式の指導方法は乗り越えるための一つの考え方 (3)その5」で検討

         したような “content words の意味が分れば理解可能” ということを、相当程度後押し

         してくれることが理解可能だろう。

    このような cohesive chain には bond と呼ばれるより強い拘束関係にあるものもある

          が、複数の chain がバラバラに存在しているだけでは意味をなさない。夫々の chain は

          長い text の中で相互に影響し合いながら (chain interaction) 、一貫性・統一性のある 

          coherence (textual unity) のある文章が出来上がるとされている。また、coherence 

    は cohesion harmony と呼ばれる語彙間の interaction の集積によってより良くなると

          いうような指摘もある。

     もっとも、下記の有名な例のような context-embedded の性質の強い会話の例では、

          formal link の仕組みは何も無いので、特に unplanned の spoken language の場合、 

          作動している別の仕組みを見つけ出す必要があるだろう:

         

      A: That’s the telephone.

              B:  I’m in the bath.

                  A: OK.

 

   Conversation analysis

   書き起こした自然な会話のデータの構成を社会学的な観点から分析するもので、

   ‘会話の連続の構成の仕方 (e.g. move の分析)’、‘話す順番の確定 (turn-taking)’、

         ‘伝達上の問題の見極めと修復 (repair) ’ などの特徴が検討されている。上記の 

         spoken language の分析の問題点をカバーする可能性が大きい。

   

   Thematic development

   情報が文の中にどのように配置されているかを記述する方法。言葉の使用場面の参加者に

   とって話し手が既知  (given; old) の情報と考えている部分が、theme と呼ばれ、未知 

   (new) の情報が rheme と呼ばれる。以下の例の様に伝統文法のカテゴリーとこのシステ

         ムのカテゴリーが一致しない場合などにそのことの意味が検討されることが多い:

 

           John       sat in the front seat.     In the front seat sat    John.

            文法: Subject    Predicate                      Predicate                      Subject

        情報構造: Theme     Rheme                          Theme                          Rheme

   

   この二つの文では、起こっている事態は同じなのだが、右の例では、例えば John が新情

   報になる為、‘front seatに座っていたのが誰か’ が分からなかったことが言外の意味とし

   て出てくることがあり得る。この関係性について、アメリカの学者は Topic-Comment 

   という用語を使い、他にも background-focus, given-new information という用語もよ

   く使われるので覚えて置くと良い。

 

   Speech acts

   伝達における functional unit としての発話が speech act である。この分析がそのま

         ま、いわゆる functional expression として現れる。発話には二種類の意味があり、‘語

         句の辞書的な意味そのままのもの (propositional meaning; locutionary meaning)’ と 

          ‘受信する側にどのような意味として受け取って欲しいかという発話の及ぼす影響に関わ

   る illocutionary force (= illocutionary meaning)’ がそれである。以下の例を参照:

 

     e.g.  I am thirsty.  

              propositional meaning: のどが渇いている (文字通りの意味;話し手の体の状態)  

              illocutionary meaning:  何か飲み物を持ってきて欲しい (request)

 

   この illocutionary meaning は文法ルールに関係なく学ぶ chunk (≒ formulaic pat-

         tern) として理解される傾向があり、これを現実的な伝達の目的で上手く使いこなす能力

         が、「文法訳読式の指導法を乗り越えるための一つの考え方(1)」で触れている 

   formulaic competence である。

                                   

   The cooperative principles

   Conversational maxim を運用する上での話し手同士の ‘協調関係’ cooperative 

         principlesと呼ばれている。Conversational maxim とは、対話のやり取りのパターンに

         影響を与える不文律としてのルールである。具体的な例としては、 

     

     A: Let’s go to the cinema.

     B: I have an examination in the morning.

 

   の対話では A の発言に対する B の返答は直接的な答とはなっていない。A の発言は ‘勧

   誘’ であることから、まったく誤解の無い明確な理解のためには、答は直接的に ‘受諾 

   (accept)’ か ‘拒否 (refuse)’ のどちらかを意味する言葉を必要とすることになる。しか

   し、B の答はそうはなっていないという問題がある。直接的拒否ではなく、弁解という形

   の間接的な拒否が行われたことになる。そして、それでも拒否と理解できる。こうしたこ

   とを決める場合の目安として以下の4つの maxim があるとされる:

 

     The maxim of quantity:  give as much information as needed

     The maxim of quality:  speak truthfully

     The maxim of relevance:  say things that are relevant

     The maxim of manner:  say things clearly and briefly

   

   この四点の微妙な差異が言外の意味につながるのである。ある会話の場面で、特定の意

   味を伝える目的で (conversational) maxim を使うことを(conversational) implicature 

   と呼んでいる。我々が日常耳にする implication という言葉とほぼ同じ意味だが、使い方

   が限定され異なることに注意のこと。

 

   Critical discourse analysis:

   人々の言葉の使い方の分析を通じて、制度的・社会史的脈絡の中での利害関係や権力関係

   を明らかにしようとするもの。談話の流れは中立的なものではないという仮説に立ち、言

   語使用を通じて、直接的であれ、間接的であれ、表現され、構築され、合法的と認められ

   ている社会的不公平を ‘視える化’ しようとする ‘言葉と権力’・‘主導権’・‘身分’ などが重

   要な論点となる。なお、‘思想がいかに表現されるか’ を扱うことから、この分野が ‘大文

   字で始まり、複数化の可能な’ Discourses の領域である。

 

   Corpus-based approaches:

   コンピューターを使って集積したデータを基に分析を行うもので、word frequency, 

   collocation, colligation (= grammatical associations of a word in a sentence), 

   semantic prosody (= pragmatic meaning that communicate a speaker’s or 

   writer’s positive or negative attitude towards what he is saying), semantic 

         preference (= synonymy, meronymy, antonymy のような意味上何等かの関係のある

         語又は特定の register や genre と典型的な形で関係付けられている語句の確定) のよう

         なことが検討される。

 

Discourse の分野の研究は現在進行形である為、このような様々な研究分野の取組みがバラバラに進んでいます。従って、トータルな描写という観点では、現在まだ折衷主義に寄るシステムの詳細の解明中という段階に近い研究分野です。当然、今後も知見を組み合わせる形でその分析の度合いを深めて行く過程にあります。また、この談話のレベルが、脈絡に於ける言葉の使い方という観点から見れば ‘言語学の分析の範囲’ と言語学を超える ‘pragmatics (語用論) の分析範囲)’ がオーバー・ラップしている領域であり、最初に上げた、階層区分では cohesion の上の段階である discourse function の段階からは、明確に pragmatics の守備範囲ということになります。

 

このようなことを踏まえ、’layered analysis’ という形でトータルな分析手法を目指すとも云える取組みも行われています。その方法は、先ず、現在行われている様々なアプローチを大きく三つのグループに分けています。そして、その分類基準は、‘テキストの構造’ を、

     

     ① 明確に記述する方向性;

     ② 話し手や書き手の目的や意図の結果と見る方向性;

     ③ (参加者が)社会的立場から協力して作りが得た ‘情報・メッセージの伝達 

                   (communication)’ から発展してきたものとみる方向性

 

ということになります。この成果の積み上げの統合が、言い換えれば、’テキストの構造を知り、情報の送り手の意図の反映や言葉の使い手相互の協力によるコミュニケーションの成立、またその仕組みの運用を通じた談話の流れの創造の仕組みの分析と解明’ につながるということになるようです。単なる折衷主義から統合に向かうかに見えるこの方向性ついて詳細な検討をするには、恐らく一冊の本或いはそれ以上の規模のものが必要です。従って、より詳しく知りたい場合は、手始めに、Hatch の Discourse in language education (1992, pp. 291-323,  Cambridge University Press) を参照してみて欲しいと思います。

 

Component skill としての discourse の課題

前項まで、従来の discourse の考え方、及び言語習得のメカニズムの中で重要にして中心的な役割を果たす可能性を含む新しい discourse competence の考え方につながって行くような検討範囲の拡大の問題について簡単に触れました。まだまだ鮮明にその全体像が見えない領域なのですが、この項では以後の PPP の最終段階 production/produce の議論の助けとする為に、 四つの component skills の中で最も sporadic な扱いを受けていると思われる discourse に関する問題点と課題と思われる事柄について簡単に整理して置きたいと思います。

 

   従来の discourse の扱いの問題点:

   ①    Formal linking に偏る傾向があり、現段階の指導範囲としては狭いが、一般の中・

            高校のコースでは更に選択され、少なくなる可能性がある。扱い難いからである;

   ②   また、formal linking は、文法の領域の一つとして扱われる傾向が強く、文脈の中で

    他の要素(例えば、強い警告の意味を表す助動詞の must のような functional な扱

            い)とも絡まって提示されることにより、文法領域が大きく膨らみ、増々 '文法の重要

            性' という言葉が実態を無視して独り歩きする可能性も含む;

         ③   その結果として、grammatical cohesion に偏り、lexical cohesion はその重要性

            にも拘わらず、日英対照語彙を指導の基本とする文法訳読式指導の語彙の扱い方の影響

            も手伝って、指導上軽視或いは抜け落ちてしまう可能性を含む;

         ④   この領域は reading の分野で扱われることから、spoken discourse の特徴について

            は全く扱われていない可能性が強い。また、授業時に、information-gap ではなく

            meaningful practice であったとしても、日常的に対話練習が行われているか否かは不

            明である為、後者の知識を応用して教材開発や指導をする機会の有無は不明。

 

   Discourse 問題を扱う上での課題:

   ①  Lexical cohesion について検討し、語彙指導のプログラムの中にどのように生かす

            かということが、検討され得るか;

   ②   学習者が ‘文章>文・語彙’ の手順で理解を深めて行く top-down 方式の理解方法で

            あることは、上記の ‘言語内情報だけで理解しようとする伝統的方法’ の項の階層区分

            にある cohesion から始め、以下の方向に向かう分析手順に一致する。伝統的な方法で

            は、‘文法・語彙>文> cohesion’ の bottom-up の思考の動きで理解に達する。指導

            と理解のプロセスの間にギャップがあるが、 教えるべき教材を検討する際に、このこ

            とが検討され得るか;

   ③   現実の教育活動は、top-down 手法と bottom-up 手法とで相互に ‘行きつ、戻りつ’ 

            しながら理解を深める方法でもある。上手く理解に達する為には、学習者は階層区分の

            最下部(語彙と文法)の領域で、不足があれば上のランクの情報を使って予測で穴を埋

            めるに足る語彙と文法の習得レベルにある必要がある。初級段階でこのことが出来てい

            ないと、学習者の作業は負担が大きくなり、投げ出す可能性を含むが、こうした事柄は

            十分に検討されているか。その上で、上記の discourse function、discourse type、

            shared knowledge のような要素を検討して教材や練習問題 などの adapt が行われて

            いるか又どの程度まで扱うか;

        ④    現在、paragraph reading の能力開発が課題となってきていることから、大学入試

            用参考書などで行われている英文解釈という作業の中で、文と文をつなぐ grammati-

            cal cohesion の領域の知識が、以前とは異なり、ある程度組織化された形で現れる傾

            向もある。加えて、cohesion marker (linking word) も paragraph patterns との関

            りで教えられる傾向も出てきている。従って、授業の中では、和訳という G-T 手法と

            関わりの深い作業とこうした知識との関係を明確にする必要もあると云える。

 

まとめ

平成30年告示、令和4年(2022年)入学生より実施の高校の新指導用要領では、従来の「コミュニケーション英語I~III」から「英語コミュニケーションI~III」に看板を書き換え、component skills と performance skills (4 skills) の全てをこれらの科目に集約する方向性を維持した上で、より production skills の開発に舵を切っているように思えます。そして、「英語表現I・II」(2単位・4単位)と「英会話」(2単位)のブロックは、「英会話」を廃止し、残りを「論理・表現I~III」(各2単位) に看板を書き換えています。これにより、expository writing のような、より複雑な表現を伴う文章を扱うことが可能になります。このブロックの総単数(6単位)は変わらないので、方便として「論理・表現I~III」に均等に分けただけでしょう。それでも、科目名からも、難しい内容のテーマで production skills の充実に向かえる方向に誘導したいという意図は良く分かると云えます。

 

尤も、全ての科目を履修して高校を卒業する学習者は、日本全国の高校生の中では、ほんの一握りなのではないかと想像しますが、市井の学習塾では、受験目的でそうした指導内容の充実を図ろうとする場合も出て来るのではないかと思われます。しかし、それは科目名をみても分かる通り、‘話すこと’ ではなく、‘書くこと’ ということになります。現に paragraph pattern を教える受験参考書の様なものも現れてきています  (未だ reading 分野の扱いが多いようですが…;或いは、この段階で終わってしまい writing に届かないかも知れない…)。

 

この様な中で、「英語コミュニケーションI~III」の中身はどうなるのでしょうか。「コミュニケーション英語I~III」では、コミュニケーションに使う英語 (functional expressions 中心?)を教えなければならない?という形で授業形態までも縛ってしまう可能性があるので、それに対する文句でも出たのでしょうか。「英語コミュニケーションI~III」で ‘英語でコミュニケーション出来るようにする’ と解釈出来るように表現を緩めた?看板にしてあるような気がするのは筆者だけでしょうか。これなら、努力目標という受け取り方も可能になるような曖昧さが出てくるからです。

 

加えて、所謂受験校の歪んだ科目設定が歴然として存在している事実は、上記のような方針設定と入れ物作りで解消されるのでしょうか。筆者の家族の一員が在籍した高校では、「英語コミュニケーションI~III」が標準単位を超えて設定 (8単位) され、生徒は実際には「英語コミュニケーション」(4単位)と「英語演習」(2単位 X 2科目;内実は古い G-T の英語講読) という別科目を受け、通知表だけは「コミュニケーション英語」(8 単位) となっていました。このように、古い体質と指導体制を引きずったまま、新しい発想で設定した科目(名)という入れ物が覆いかぶさり、標準単位という逃げ道の利用で、本当は教師の持ち時間の調整という学校の都合に根差した、独自の科目設定をして、結果的に現状維持につながっているようです。

 

一方、塾では、そんなことには関係なく、入試の出題傾向を分析しながら指導要領の新しい分野は勝手につまみ食いで取り込んで行く方向に流れる可能性を含んでいます (私塾の指導の方がレベルが高い可能性もあるのですが....)。現に  ‘文と文をつなぐ’ のような内容を扱う教材集で、単文の仕組みの一つとして given – new のような情報構造の概念を教えているというように、新しい discourse に関わる内容が入り込んできています。その先に paragraph reading の練習を扱う教材集の使用が想定されていることは明らかです。

 

その方向性の中に writing の指導重点に舵を切ることも推奨されていると受け取っても良いような内容を含む指導要領の記述を尻目に、古い G-T 手法の温存の傾向を引きずる受験校の傾向と「英語コミュニケーションI」の履修だけで英語学習を終わることが大半の生徒の現実であるような高校の教育内容の多様性?(ここでは、授業の中身は担当者次第?)の実態が分からない現実は、厳然とあるように思えるのですが...。そして、塾の受験に特化するつまみ食い傾向の貫徹。このような事態の中で日本の英語教育全体がもっと歪んだものになって行くのではないかという不安を感じるのは、筆者だけでしょうか。

 

Discourseは、これまで英語教育の中では比較的軽視され、レベルの高い高校では ‘英文解釈’ という G-T ベースの指導の和訳という作業の中で、正式の名称を与えられないまま ‘文法・語法’ のような名目で 、grammatical cohesion のレパートリーからのつまみ食いとして教えられて来た と云えます。この formal linking としての談話の側面は、paragraph reading/writing を教える方向に流れる場合、早晩 lexical cohesion の分野にも足を踏み入れる必要に迫られることになるかと思います。その意味で、この分野の検討は急がなければならないように思えます。

 

そして、spoken discourse の問題は、実質的に葬り去られる可能性が強いように思えます。理由としては

 

   ①   日本の教室では、中学・高校共に平均値としては PPP の PP 部分も不十分な状況

            であり、dialog practice は余り行われず、絶対量が乏しいこと;

   ②   Spoken discourse の様々な特徴の大半は teachable ではないことから、① の事が

    手薄なら、注意を向ける指導  (focus on form) を行う機会も非常に少ないこと

 

があります。筆者が ‘音読の為の準備の指導’ の中で、文章体を含め、この分野のことを教えたり、注意を向けたりする方向の模索を主張している理由はここにあるのですが、そうした取組が主流となる可能性は少ないように思えます。そこに、東京都のように spontaneous speech の評価など出来ない業者テスト (本物の interaction 等ではなく、本質的には繰り返し練習した planned discourse の答えを求めていると思える) を押し付け、speaking の評価にするようなことが起こります。当然、筆者には、金儲けへの加担という側面の見え隠れが、何とも uncomfortable ということになります。紙と鉛筆で済むことをタブレットで行わせるような無駄遣いが出来る余裕があるなら、生徒指導絡みの負担を減らし、教員研修に予算投下して欲しいと考えるのは筆者だけでしょうか。

 

このような状況下にある英語教育ではあるのですが、既に、何度も述べているように、dis-course は言語習得のメカニズムの中心に位置する可能性を持っていることから、今後の研究の動きを、目を凝らして watch して行く必要があると思えます。

 

次回は「4] Production/Produce 段階」です