男と女 その五 | ライター海江田の 『 シラフでは書けません。 』

男と女 その五

ある朝、男は女に言った。


「おれ、今日仕事休む」

「なんで」

「さっき、めざましテレビの占いでな、天秤座の人は誰かから告白されそうって」

「それで」

「危険やろ、表に出たら」

「……」

「相手によっては、断れるか自信がない」

「そう」

「で、家庭崩壊とかなったら困る」


女は表情を変えずに言った。


「わかった。休めば」

「お、おう」

「今日一日、一歩も外に出ないで」

「そうする」

「宅急便も出ちゃだめ」

「あ、でも、おなかがすいたらコンビニくらいは」

「我慢できるでしょ。わたしを捨てる気?」

「そのつもりはありません」

「まったく気が気じゃないわ」

「隣が火事になったりして」

「そんときはあきらめる」

「やっぱ、仕事行こうかな」

「そうしてください」


ノリツッコミならぬ、ノリツブシ。

最近、この会話パターンがとみに増えてきた。

あんたの話には付き合いきれないわ、という態度だ。


今日から男は香港へ発つ。

TSWペガサスの岡野雅行の取材だ。

仕事の成果を挙げたいと思う一方、女には話し相手がいない退屈さ、そこはかとない空虚をかみ締めさせ、過ぎゆく時間の中で男との何気ない会話がいかに輝かしいものであったか、精神の均衡に貢献していたかを思い起こさせる効果も狙っている。