姫は―――やつと、白玉を取り上げた。
輝く、大きな玉。
さう思うた刹那、郎女の身は、大浪にうち仆される。
浪に漂ふ身・・・・・衣もなく、裳もない。抱き持った等身の白玉と一つに、水上に照り輝く現し身。
ずんずんと、さがって行く。水底に水漬く白玉なる郎女の身は、やがて又、一幹の白い珊瑚の樹である。
脚を根、手を枝とした水底の木。
頭に生ひ靡(なび)くのは、玉藻であつた。
玉藻が、深海のうねりのままに、揺れて居る。
やがて、水底にさし入る月の光―――。ほつと息をついた。
まるで、潜(かづ)きする海女が二十尋・三十尋の水底から浮かび上がって嘯くように、深い息の音で、自身が明らかに目が覚めた。ああ、いい夢だった。
(略)
もう、世の中の人の心は賢くなり過ぎて居た。
独り語りの物語などに、信にうちこんで聴く者のある筈はなかつた。
聞く人のない森の中などで、よく、つぶつぶと物言ふ者がある、と思うて近づくと、其が、語部の家の者だつたなど言ふ話が、どの村でも笑ひ咄のやうに言はれるような世の中になって居た。