東京大学2018年第2問(1)(c)の過去問題と,東大世界史講師(管理人)が作成した解答・解説です。
- 解く際の注意 -
問題を解く前に解答が目に入るのを防ぐために,問題と解答の間に空白を大きくとってあります。解き終わったら,下へスクロールして解答を見て答え合わせを行い,また解説を読んで知識を確認してください。
問題の全文を掲載することは避けて,解答するのに直接的に必要な範囲でのみ問題文を引用するか,または趣旨を損なわないかたちで文章の変更や単純化をしています。実際の問題文は,新聞社によってWEB上に公開されている入試問題データや市販の過去問題集などで確認してください。
問題
紀元前後になると,仏教の中から大乗仏教と呼ばれる新しい仏教が生まれた。大乗仏教の特徴を3行(90字)以内で記しなさい。
解答
解答例
「個人の解脱よりも衆生の救済を目指し,出家者だけではなく在家の信者の役割も重視し,利他の行いを勧め,諸仏・諸菩薩を信仰した。交易路を通じて北方の中央アジアや東アジアなどに伝播した。」
解答のポイント
(1)(a)と同じく,宗教の特徴が問われており,やはりまずは内容面に関する特徴を優先して答えるべきだと考えられる。
高校世界史の教科書では,「衆生の救済を目指す」・「在家の信者も重視する」・「菩薩を信仰する」などが記述されており,これらは確実に解答に記しておきたい。
今回の問題では字数が多めで,これらの内容に関する特徴を書いてもスペースが余るので,「特徴」の意味をやや広くとらえて,「中央アジアや東アジアに伝わった」という伝播についての特徴も書くとよいだろう。
実は,インドから遠く離れたこれらの地域に伝播して受容されたことも,大乗仏教の性格が影響していると考えられ,そのため特徴として挙げることはおかしくないと思われる。
なお,高校世界史の範囲の制限を気にせずに答案を書くのであれば,そのほかの特徴として,法華経などの新たな経典をつくったこと,「空」の思想を重視すること,などを挙げることもできる。
解説
総論
上座部仏教に代表される部派仏教においては,出家者を中心とされており,修業によって個人が解脱することが目的とされていた。
しかし,紀元前後になると,より広い救済を目指し,在家の信者も重視する,大乗仏教と呼ばれる新しい仏教が生まれた。
教義・活動
大乗仏教においては,個人でなく,衆生,すなわち生きる者すべてを救済することが目指された。
そして,出家者だけでなく在家の信者も重視され,活動は出家して修業するだけでなく現実世界において利他行を行うことが勧められた。
信仰対象・経典
大乗仏教では,新たに多くの諸仏・菩薩が信仰対象とされた。特に弥勒菩薩や観音菩薩などの菩薩は,現世の人々を救済してくれる存在として強く信仰された。
このほか,「法華経」・「華厳経」・「般若経」などの新たな経典がつくられ,それを読み唱えることが信者に勧められたことや,一切のものは空であるとする「空」の思想が強調されたことなども,大乗仏教の特徴として挙げることができる。
伝播
大乗仏教は,大衆的性格や融通性をもっており,普遍的な性格が強いためか,インドとは風土も文化の異なる遠方の地にも伝わり,根を下ろした。
大乗仏教は,交易路を通じて北方の中央アジアや東アジアへと伝わり,中国・朝鮮・日本などで受容された。