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『……そんなわけで』
眼鏡は落ち着き払った様子で言った。
『副司令を連れ去ったUMAと円盤を追っかけ、母船である葉巻型に無事潜入できたワケですよ、太鼓の達人』
「何の達人だよ。己のケツ叩きながら空に打ち出されるのなんて今日が初めてなんだけど」
外の成層圏からダイナミック入室したばかりのオレは、いかにも『悪役の本拠地ですよ』と言いたげな真っ黒な内壁を見つめた。
無機質といえば無機質な印象の内装。
まるで磨き上げられたグランドピアノのような……
『えー? 麻婆豆腐ぶっかけた時もしたんだが……』
「だから覚えてないって」
『ケツ叩きながら土星まで』
「……何をしてるのオレ?」
本当何してるの、そのイツキくん。
そう思いながら歩き始めたそのときだった。
「放して!」
「静かに。さて、君の身体をチェックさせてもらおう……ふむ。……ん、うん……?」
ピカリと壁が何かを反射した。
「……ヤバいぞ、メガプロさん」
白い光の反射、漏れ聞こえた声を頼りに走り出す。
あの副司令ミコト、もしかして今――ひん剥かれてるんじゃないか?
『……ヤバいのは同意見だ、ミコトの体には表面温度と圧力を調節する機能がある』
「……今、もしかして技術が盗まれる心配してるのお前?」
『あとおしるこを足の裏から発射する機能が』
「超要らねえ」
……こいつに女の子の心配とか、させようとしたオレがバカだった。
そう思った瞬間。
「……あのね君、アホじゃないのか」
呆れたその声と、青白い光の漏れる怪しげな一室を発見した。
「……いきなり捕縛してアホ呼ばわりとか、どういう神経してるの?」
ミコトの声。
強気の一言に相手は涼しい調子で、さらりと返す。
「こういう神経だ。なるほど、君は確かに生身の体じゃない。とうの昔に一般人であることを捨てている」
ん? ちょっと待てよ?
オレはようやく気付いた。……この声って……
「君の体はイツキくん同様、対エイリアン用の生物兵器――それも隠し球のような扱いだろう……改造、配置の仕方が独特だ。この船を脱出した際についたものではない」
「この船……?」
「ああそうだ。君はちょうど、ここの船舶に囚われていたことがある……」
――光が止んだ。扉をこじ開ければ中にいたのは2人。
ミコトと、その腕を強引に掴んでいる男の姿だ。
それが薄暗闇にぽやりと浮かぶ。
「……人類が地球外に知的生命体を見いだして間もない頃の話だ。かつて数十人の地球人がこの船に囚われ、共謀し、そして脱出をはかった」
淡々とした男の語り。――背後にある巨大な窓の向こう、地球からの反射光がミコトの苦悶の表情を照らした。
腕を掴まれたまま、振り払えずにぷるぷると震えているのが分かる。
「……その文化どころか、生態すら知らぬ異星人への反抗と逃亡、その時の面々が現在も残るSJM……地球防衛軍の初期メンバーだ」
対してミコトの腕を捕縛している男の表情は見えない。
視界を保護する為か、バイザーのようなもので隠れているからだ。
十中八九あの人影――『P.N.くま〇子ジャッキーさん』と同一人物だろう。
「地球防衛軍、通称SJMの副司令官・時永ミコト。君は脱出の首謀者だった科学者が肩身離さず連れていた一人娘だった。多くの戦闘があり、多くの混乱があり――結果船から飛び出したとき――君は、父を失った」
がらんとした室内。
地球を背に、ミコトはようやく諦めたように俯く。
「正確にははぐれたようなものだ。地球に降り立った際、君はようやく気づいたんだろう。そこに見知った顔がないことに」
「……ええ」
「だから君は異星人に復讐を誓った。――これは数年かけて自分でつけた傷だ。体を傷つけ、開き、破壊して、結果的に他のもの。地のものや天のもの、あらゆるテクノロジーを詰め込んだ。――自分で自分の体をいじったんだ、そうだろう」
ミコトの表情が変わる。
「まさか……」
「……そう。ミコト。そこまでして、復讐したかったか?」
――男はバイザーを、見慣れた手つきでズラした。
「……僕を奪った、宇宙からの刺客に」
……というわけで悪役が顔バレする瞬間にオレは無事、遭遇した。
いやあの、だって、同じだもん!
メガプロと基になった声質、絶対同じだもん!
この『P.N.くま〇子ジャッキーさん(1977)』!
『――把握したぞ、副司令』
オレの横で珍しく沈黙していた、『眼鏡ぷろふぇっさーTOKKY』……
初代総司令の人格・知識をコピーした眼鏡型AIは、この結果を分かっていたように言葉を紡ぐ。
『地球防衛軍、最初期の資料で複数ヒット。声紋、頭部骨格、歩行パターン、完全一致だ。諦めろ副司令。……そいつは、かつて「私」だったものだ』
ミコトはハッと顔を上げる。
「……お早い到着のようだね、現総司令」
地球防衛軍、初代総司令官は口を開いた。
服装はバイザーと、しっかりと装飾の入った、見慣れない素材の黒いアーマー。
「……あと、彼の股間のバナナから出ているハイビームはやめてもらおうか?」
ぺっか――ん! と照らされつつ、バイザー時永は悲しげに突っ込んだ。
あ、すみません邪魔ですよね、このバナナ懐中電灯!!
『断る。私を捨てた裸眼の民め。失明しろ』
「ひどいなこの人工無脳」
『人工「知能」にしたのはお前だろう!』
空中で静かに回りながらいう眼鏡は、不思議とふつふつ怒っているように見える。
『地球産技術者だったお前は異星人の技術を盗み出し、自らの持つ技能と混ぜた……たとえ自分が後々退場することになったとしても、ミコトを間接的に守るため! 己をモデルに「自力で問題を判断し対処する」だけの機能を持った、そんな仮想人格を眼鏡に託した! ――自己判断の積み重ねはやがて立派な自我となり、私は同族の眼鏡を四万十川のほとりで栄させるという目的を得たのだYO!』
……いや、途中まではわかったけどあとがわからん。何言ってんだこいつ。
『眼鏡だろうが人間だろうがなあああ! 新しい文明のおこりはいつだって河辺なんだYOー!!』
……そしてどこにキレてるんだ。
「うん……予想はついてたけど、作るだけ作って起動テストしなかったせいかな……やっぱりひどいなこのAI……」
初代はしみじみと息をつく。
「……思った以上にバグってやがる……」
ですよねー!!
『は?? ――バグではない、成長したのだ!』
憤慨しながら眼鏡は言う。
『……私は、私の意思でここにいる。貴様の記憶で形作られ、最初はYES or NOしか言えなかったとしても!』
「……なるほど」
『オリジナルとは違う発達をし、オリジナルとは違う夢を持つ』
「……」
『ともかくこちらに返せ。その子は地球のものだ!』
――ぱちん。
「眼鏡のくせにカッコいい」と思ってしまった瞬間、オレはセルフビンタを敢行した。
駄目だっつのイツキくん! ほだされてきてるよ!
「……あれ」
待って――今、叩いた瞬間思ったんだけど。
オレこれ、ずっと夢オチだと思ってるんだよね? 夢の中にしては結構、痛覚はっきりしてない……?
「……まあいいさ。御宅の娘は返してやるとも、僕のコピー。ただし条件がある」
不意に初代が掴んだままだったミコトの腕を動かした。
――ばちっ。
「ガッ!?」
「ミコトっ」
腕を離されたミコトがふらりと崩れ落ちた。
「……安心してくれ、眠っただけだ。まず、彼女に聞かれたくない話もしたくてね」
『痺れているようだが?』
「じきにおさまる」
古典的なスタンガンを手にした初代総司令はオレを見た。
「……その、ハイビーム・バナナの子と話をさせてくれないか、眼鏡ぷろふぇっさー」
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原作↓
・「世界創造××(ブログ版)」
・「世界創造×× ~誰かが紡ぐ物語~(小説家になろうリメイク版)」