序想 未来の前に在りし過去の先
「ふぁ・・・良く寝た」
背中に同行二人と書かれた白衣に手甲、脚絆の白装束に菅笠と金剛杖。
未だ若い彼の名は清宮温泉(きよみやあつみ)。
由緒正しい寺の次男坊という肩書き・・・
「兄貴が家出しなきゃ、こういうことにはならんかったなぁ」
片手で温泉が数珠を弄んでいれば、遍路道の途中で寝転がっていた彼を心配そうに見守る・・・いや、遠巻きに見る人々。
『お前ら、それでも同じ巡礼者かよ』
口には出さないが同じ巡礼者より、地元の人間の方が如何にも遍路と分かる出で立ちをした、若者では珍しい遍路道を歩く彼を温かく見守ってくれたり、道を教えてもらったりと優しかった。
もうすぐで八十八箇所の巡礼が終わり、大学卒業もした温泉は、故郷に帰ったら直ぐに跡継ぎとして住職に納まる予定だった。
その時までは・・・
「よりによって、狸かよ・・・それに嫌な天気だなぁ」
四国では有名と言う狸の像を眺めながら、参拝の証として朱印を頂いた納経帳を山谷袋に突っ込んだ温泉は、曇る空を見上げ近くに善根宿か、お接待してくれる人間はいないかと考えていた。
「そんでもって兄さん達は、生きている人間じゃないな・・・死んでるって、わけでもなさそうだけどな」
寺の端の方へ、誰にも言ったことが聞かれない、怪しまれないような場所。
折しも降り始めた雨を凌ぐには良さそうな木の下。
「随分と勘が鋭いようだ」
「これなら、合格点!」
振り返れば妙に無愛想な奴と、妙に愛想の良い双子に温泉は頭痛がしてきていた。
こいつら、どっちに転んでも性格悪い、それは温泉の過去の一つ、優等生の皮を被った不良だった頃に培った勘。
逆恨みも、まともに恨みもかった・・・
暴れん坊だったために側に置く人間は、慎重に付き合う人間を選んでいたからだった。
「お前ら、俺の第六感が優れてるからって、人を巻き込むんじゃねぇ!!」
「「無理」」
「あのなぁ・・・」
速攻で拒否された温泉は頭を抱えて、どうやって逃げるか思案していた。
しかし、
「僕たちが見える時点で・・・」
「適格者決定だ」
実体がないはずだと、温泉はどこかで確信していたが甘かった。
彼らは、どうやら現実への干渉能力が高いようで、ほんの一瞬だが手をとられた温泉はその手を引かれ、異界へと落ちることになった。