働くオンナの台所 -2ページ目

富士山の向こう側

なんとなく朝の挨拶程度の会話をして

どちらからともなく

車窓の向こう側の

灰色の冷たい画像を見ていた。


少しずつ灰色に緑のアクセント

灰色の画像から緑の風景画に変わる。


「さぁて、ビールでも飲むかぁ」

都会を抜け出てほっとしたのか

働くオンナはデッキの売店へビールを買いに立ち上がった。


僕はお惣菜を小さなテーブルに並べた。

ちょっとしたピクニック気分だ。

子供の頃のわくわくした気分がよみがえる。

どこへ行っても楽しかった。

電車にのって、おにぎりを食べるだけでも

わくわくした。


大人になっても

どこかへ出かけることはうれしいことなんだ。

日常から脱出すること

環境がかわることで

普段あまり使わない脳の一部が活性化され

アドレナリンみたいに興奮させるホルモンや

リラックス効果がある物質が分泌されるのかもしれない。


僕は心地よい興奮に包まれていた。


「わぁ、おいしそう。これ全部作ったの?」


「まさか」

僕はお抱え料理人だと思っているのか

と時々思う。


僕はなぜか信州に行ったときのことを思い出していた。



「どこでもいいからつきあって」

そして僕たちは中央本線に乗り

茅野駅に降り立った。

初めての街だ。


ここから蓼科や白樺湖への玄関駅で

予想を反してにぎやかな街だった。


観光案内でこじんまりした旅館を探してもらった。


必要なこと以外

ひとことも話さなかった。

何があったのか聞かないまま

ここまできた。


こんな旅行も

こんな働くオンナも

この街も

女との旅行も

全て全て初めてのコトだった。


部屋に案内されて向かい合って座ることがとても不自然に思えた。

座卓の向かいに座る働くオンナが

とてもとても

遠くに見えた。


仲居さんに促されるように

僕らは温泉に入った

もちろん別々に。


温泉に入りながら僕の心臓は次第に高まっていた。


富士山の向こうに広がるであろう南アルプスを遠く心に映しながら

あの時の景色と

働くオンナの横顔を思い出していた。

鶏肉のレモン蒸し ~レンジ~

食欲が減退する夏にはさっぱりした料理がうれしい。

熱くて料理をする気にもなれない時は

これに限る!


料理が出来ない働くオンナは

これなら私にも出来る!!と豪語していたが・・・

レモンスライスはもうちょっと薄くしてほしかったなぁ。


鶏肉のレモン蒸し ~レンジ~


材料(2人前)

鶏もも肉1枚(200~300g程度)、レモンスライス4~5枚、しいたけ3枚、酒大さじ1、しょうゆ小さじ3


作り方

1.鶏肉としいたけはひと口大に切り、耐熱皿に並べる。

2.酒をふりかけ、レモンを上にのせ、しょうゆ小さじ1をかけ、ラップをする。




3.レンジで3分、鶏肉に火が通っているか確かめる。最後にしょうゆ小さじ2をかける。



京都へ

昨日僕は眠れなかった。

ざわざわが止まらない。

こういう時は電車の中で眠るのが一番だ。


僕はデパ地下でお惣菜やおにぎりを買って東京駅にいそいだ。


待ち合わせは新幹線の中

ホームにあがると働くオンナがいた

浮かれ気分で機嫌がいい

僕のざわざわ気分とは裏腹に。


働くオンナは忙しい

休む暇なく働いている。

だからたとえ1泊2日の旅行でも

まるで世界1周の旅にでも行くように喜ぶのだ。

おいしいモノを食べて、名所旧跡や美術館を見て、ゆったりとしたホテルに泊まる

これが働くオンナの唯一の楽しみなのかもしれない。


その働くオンナの楽しみに

僕は何度かつきあったことがある。


一度信州へいった

働くオンナにしてはめずらしい

予約なしのあてなし旅行だった。


女というのは

悲しいことがあった時に

どうやってその悲しみから抜け出すのだろうか。

つらいことがあった時に

どうやって乗り越えるのだろうか。


泣いて泣いて ひとり泣いて
泣いて泣きつかれて 眠るまで泣いて♪

たしかこんな詩の唄があった。


女はナミダと一緒に

悲しみも

苦しみも

過去も

全て洗い流してしまうのだろうか。


働くオンナはひとしきり泣いた。

人はこんなにも泣くのだ

初めて知った様な気がした。


愛し合いながら

別れを選んだ。



ホームがざわついてきた。

電車が滑り込んできた。

みんなどうしてそんなにガツガツ急ぐのか

僕はいつも不思議に思う

指定席なのに。

ざわざわ

「こんな日程でどう?」


寿司屋のカウンターで

左にいる働くオンナに渡した。


働くオンナは

僕が手配した日程表をじっくり見ていた。

ー働くオンナの要望を形にしただけのー


寿司屋らしい白木の清潔感のある内装。

ミスマッチな音楽に耳をかたむけながら

僕はカウンター越しの職人を見ていた。


Fly me to the moon

Keiko Leeのカバー

僕は彼女のかすれた声が好きだ。


「行きたいとこ、ないの?

住んでたんでしょ、むかし」


何だよ突然、準備してなかった。右のほほがぴくっとした。一瞬だ。見えてないはずだ。


「いやな思い出があるんだぁ」


見えたんだ。

いや見えるはずがない。


「ないよ、別に」


「そう」


わかってるんだ

働くオンナは。


「とりあえず、取材と泊まるとこと、食事するとこは決定ね。

これでおさえといて。よろしくぅ。」


「大将、おいしいお刺身てきとうに盛り合わせしてくれる?」

「はいよっお!」


僕は全身がざわざわするのを感じた。


Keiko Leeのかすれ声がフェイドアウトした。


 

ざわざわがとまらない。

時々のどがつまりそうになる。


きれいな街に行きたかったんだ。

のんびりしていて、

ゆっくりと時間が流れる

誰も汚さない

街もひとも汚さない

そんな街に行きたかったんだ。


別に何かに疲れていたわけでもない。

傷ついていたわけでもない。

両親は共働きで、帰りは遅いけど

仲が悪いわけでもなかった。

学校でいじめられたわけでもない。

友達ともそれなりに楽しくやってた。


何となく、しっくりこなかった

何がって、全てが

いやそれもわからなかった。

親なのか、友達なのか、学校なのか、環境なのか

それとも

自分自身なのか。


とにかく、しっくりこなかったんだ。


僕は京都という街を選んだ。

しっくり させたかったんだ

と思う。


京都での学生生活は楽しかった。

学生がうじょうじょしていた。


僕は入学してすぐバイトを始めた

河原町にある居酒屋だ。

店長以下全員学生

一人を除いては。

一人だけフリーターがいた。


バイトは楽しかった。

バイトが終わったら

バイト仲間と朝まで遊んだ。

ごくごく普通の学生生活だ。

みんなこんな感じ。


でもやっぱり僕は

しっくりこなかった。

しっくりこないまま

流されていた。


なすのずんだ和え

働くオンナは枝豆が好きだ。

僕も大好きだ

食べる側としても、作る側としても。


栄養があって、おいしくって、簡単だから

夏はついついコレにしてしまう。

僕なんかは毎日食べているかもしれない。


好き放題言い放題の働くオンナは

ある日

枝豆に飽きたと言い出した。


だから僕はなすのずんだ和えを作った。

僕はなんてやさしくって従順なんだ。

このわがままオンナァ

と、心の中で叫びながら

枝豆をすり鉢でつぶした。

少しだけニクシミを込めて。


ちなみに、ずんだとは、ゆでた枝豆をすりつぶしたもののことです。


なすのずんだ和え


材料

枝豆(さやから出して)1カップ、なす2本、

調味料

白味噌大さじ1/2、酒小さじ1、砂糖小1、みりん小1、薄口しょうゆ小1、塩少々


作り方

1.なすは薄い輪切りにし、塩水にさらしてあくを抜き、よく洗いしぼる。








2.枝豆はやわらかめにゆで、すり鉢ですりつぶし、調味料を全て混ぜて、よくすり練る。



3.1と2を和える。




「おいしいぃー!これはいける」

働くオンナは言った。



理解困難

旅行の手配はもちろん僕。


そんな細かいことは

絶対にしない

いや正確に言えば

できないのだ

働くオンナは。


僕には理解できない

なぜできないのか。


こんなことがあった。


働くオンナが

はりきって新幹線の切符を手配した。

忘れもしない8月13日

お盆のことだ。


まさかそんな間違いをするなんて。

想像を超えていた。


僕たちは8時頃東京駅についた。

8時13分発だと

働くオンナがそう言ったからだ。


なかった

掲示板には。

そんな時刻に発車する新幹線が

なかったのだ。


僕は切符をじっくり見た

その時初めて。


8月13日

7時19分発

取材が夏休みに

「夏休み兼ねて行こう、取材旅行」

働くオンナが言った。

「1週間!1週間の京都で過ごすの。いいでしょ、なかなか」


もう7年かぁ


避けていた 

逃げていた


京都から

過去から

自分から・・・・。


それもいいかもしれない

京都

働くオンナと。


何かがふっきれて

何かが見つかる

チャンスかもしれない。


「いいねぇ。しばらく旅行にも行ってないし。

休みはとれるの?」


働くオンナは

あごを突き出して、自分の胸をたたいた

ポンポン。


夜のバイト断らないといけないなぁ。


取材は2日間で済むらしい。

「泊まりたい旅館あるのよねぇ。行きたいお店もあるし。楽しみ楽しみぃ」


ということで

1週間の京都旅行が決まった

僕はまだバイトを断っていないが。

選択肢はない

取材の仕事を決められた。

勝手にだ。

働くオンナにだ。

上司でもない働くオンナに。

街の外れのイタリアンに行った時だ。

僕には選択がなかった。

働くオンナが決めてしまった。

僕はなぜか素直に聞いた。

今回は全く抵抗なしに。

不思議な感覚だ

行かなければ、と思ったんだ。

宋長兵衛による子ども土曜塾。

おもしろそうだ。


京都か。

あれから京都には行ってない。

何年になるのか。


僕はソファに横になり

あの時のことを思い出していた。


流れてくる

瞳の奥で

心臓をわしづかみにしながら


ユアソング

エルトン・ジョン

まぐろとアボカドのタルタル

まぐろとアボカドのタルタルは僕がよく作る料理のひとつだ。

オススメ料理で、働くオンナも僕も大好きな料理だ。


この料理は本当に優等生なんだ。

何でかというと、

まず、すごーく簡単!すぐできる。

朝作って、仕事から帰ってすぐ食べられるから便利!

もちろん、おいしい!

赤ワインに合う!

しかも、こんなに簡単なのに豪華に見える。

だから、人が大勢集まる時は、必ずコレを入れるんだ。



材料(2~4人分)

まぐろ、アボカド1個、とんぶり(なくてもOK)塩、コショウ、エクストラバージンオリーブオイル、レモンかお酢(できれば白ワインビネガー)


作り方

1.まぐろを包丁でたたきボールに入れ、塩・コショウ・バージンオイル少々を加える。

2.皮をむき種をとったアボカドを、フォークなどでざっくりつぶし、塩・コショウ少々、レモン汁(またはお酢)・オリーブオイル少々をかける。
3.とんぶりがあれば、塩・コショウしてバージンオイル少々をかける。

avocado1 avocado2


4.タッパーなどに、とんぶり→アボカド→まぐろの順に敷きつめ冷蔵庫へ。
5.まな板にひっくり返して適当な大きさに切り分け、盛り付ける。仕上げに上からバージンオイルをかけてできあがり。


avocado3 avocado4


フランスパンを薄くスライスして、つけながら食べると美味しい。


avocado5

僕の料理

前にも話した通り、僕は料理が好きだ。

働くオンナによく作ってやる。


料理の仕事をしていたわけではない。

習いに行ったわけでもない。

親に教えてもらったわけでもない。

子供の時から僕が料理をする役割だっただけだ。

親が共働きだったから。

料理と言っても大したものではない。

形も悪い。

見栄えも悪い。

彩りも悪い。

ただ、味は良かった。

と親によく言われた。

料理は見ても楽しむものだということを知った。

学生になって、京都で暮らし始めてからだ。

それでも、やはり大した料理ではない。

友達や家族に喜ばれる程度だ。

正しい作り方ではないかもしれない

料理ではないかもしれない

プロに言わせれば。

いいんだ。

うまくて、かんたんで、楽しければ。

働くオンナは「すごい、スゴイ!」

と言って喜ぶ。

僕の動きが速いから、らしい。

普段の僕と違って。


働くオンナにつくってやると

必ずついてくる

直球のコメントが。


でも、キャッチした時には

やわらかくなってるんだ

働くオンナのボールは。


料理は

ちょっとスパイスが効いていると、おいしい。

会話もにんげんも、だな。