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今日の労働判例

【ドコモ・サポート事件】(東京高判R3.6.16労判1315.85〈棄却/控訴〉)

 

 この事案は、雇止めされた有期契約者Xが、雇止めした会社Yに対し、雇止めが無効であるとして、未払給与の支払いを求めた事案です。

 裁判所は、Xの請求を否定しました。

 

1.判決の構造と判断枠組み

 本判決は、労契法19条のうち、2号だけを検討し、Xの請求を否定しました。

 すなわち、更新拒絶の有効性は、同条1号2号に該当するかどうか(更新の期待が有るかどうか)が検討され、これが肯定されれば次に、同条本文柱書に該当するかどうか(更新拒絶の合理性があるかどうか)が検討され、合理性がないと判断された場合に、更新拒絶が無効となります。

 しかし裁判所は、このうちの2号の検討だけで結論を出しました。Xから見た場合、更新拒絶の合理性の段階に進めなかったのです。この意味で、更新拒絶の合理性が検討されなかったことは、容易に理解できます。

 けれども、更新の期待の有無についてみると、2号が適用されなくても、1号が適用される可能性は、技術的には存在するはずです。なぜ裁判所は、1号について言及しなかったのでしょうか。

 それは、当事者、特にXが、1号の適用を主張していなかったことが1つの理由でしょう。判決の中で、「主として、同条2号該当性が争われている。」と議論を整理しているのは、Xの主張を前提にしていると思わるからです。

 さらに言えば、1号は、更新手続きが適切に繰り返されていれば比較的簡単に否定されてしまいます(例えば、本判決と同じ労働判例誌で紹介されている「放送大学学園事件」(徳島地判R3.10.25労判1315.71))から、検討するまでもない、ということかあら、裁判所がXによる1号の主張を整理してしまったのかもしれません。あるいは逆に、このような状況を踏まえ、X自身が議論を2号に絞ったのかもしれません。

 このような判断構造ですから、同条2号の判断枠組みが重要となります。

 そしてこの判断枠組みも、「放送大学学園事件」と同じ判断枠組みを採用しました。すなわち、①当該雇用の臨時性・常用性、②更新の回数、③雇用の通算期間、④契約期間管理の状況、⑤雇用契約の更新に対する期待をもたせる使用者の言動の有無、⑥その他であるとし、これらを総合判断する、としています。

 この判断枠組みは、例えば「放送大学学園事件」(徳島地判R3.10.25労判1315.71、本書■)と同じです。実務上、かなり一般化してきた判断枠組みと言えるでしょう。

 

2.事実認定と評価

 けれども裁判所は、この①~⑥の判断枠組みに沿った検討をしておらず、以下のような検討をしています。

❶ Yの雇用制度

 まず、Yの雇用制度が、有期契約者から無期契約者に登用する機会を与える(登用試験)一方、これに合格しないものは更新限度・期間上限で契約終了、というものであると認定しています。

 これは、就業規則の規定など、形式的な面だけでなく、実際に無期契約者として登用された者の割合や、契約終了となった者の数などの運用・実績面からも検証し、確認されています。

❷ Xの認識

 次に、Xが❶を認識して契約締結した、と認定しています。

 これは、説明会で資料と共に説明されたという認定、個人面談の際に更新回数が0とされていることにXが気付いて質問した(これに対するYからの回答は、制度改正が予定されており、新たな制度の下で更新回数が決まるため、その時点では更新回数が0である、という趣旨だった)という認定(更新限度・期間上限の存在を認識していた、という意味付けでしょう)、を前提としています。

❸ 結論

 この❶❷に、実際にX就職後も❶の運用が行われたこと、Xも登用試験を2回受験したこと、を指摘したうえで、更新の期待がない、と結論付けました。

❹ Xの主張の検討(いずれも否定)

 続けて裁判所は、Xの主な主張について検討し、いずれも否定しています。

 第1のXの主張は、説明会以前に上限のない採用内定通知を受けていた、その後の上限設定は「自由な意思」に基づかない、したがって上限はない、という主張です。

 裁判所は、説明会までの手続の流れや、説明会でのXの言動から、説明会以前に採用内定通知が出されていない、としました。

 さらに裁判所は、上限設定部分だけ契約内容でない、という契約が締結されたわけでもない、最初に0回と示したからといって、上限設定がない、という意味ではない、としました。

 第2のXの主張は、最長15年で無期契約者になれるという説明があった、という主張です。

 裁判所は、上記❶の説明があった、としてこれを否定しました。

 第3のXの主張は、Xの長期雇用への期待をYが認識していた、Xの担当業務は常用性がある(上記①)、という主張です。

 裁判所は、Xの転職の経緯(長期雇用されていたのにわざわざそれを辞めてYに転職し、転職でスキルアップし、徐々に収入を高めようとしていた)を聞いていたYは、Xの長期雇用への期待を認識していない、①によっても❸は覆らない、としました。

 第4のXの主張は、❶が無期転換(労契法18条)の潜脱であって無効である、という主張です。

 裁判所は、労契法18条が導入される前から❶であり、潜脱ではない、むしろ、5年以内で有期契約を活用することを禁じていない、としました。

 以上のとおり、①~⑥のうち、直接言及されているのは①だけで、しかもこれに該当したとしても❸を覆さない、という程度の軽い位置づけです。

 ①~⑥は、更新の期待が明確に判断できない場合に、様々な間接的な事情から、いわば状況判断としてこれを判断する場合の判断枠組みであり、❶~❸のように、更新の期待がより直接的・明確に判断できる場合には、あまりフィットしない判断枠組みである、と整理できそうです。

 

3.実務上のポイント

 上記1と2をみると、裁判所は結局、①~⑥ではなく、❶❷を判断枠組みとして採用した、と整理すべきでしょう。

 すなわち、更新の期待のないことを直接判断できないときに間接的な事情を整理するための①~⑥を発動させるまでもなく、❶❷によってより直接的に更新の期待のないことが判断できたのです。

 人事制度の設計上、有期契約と無期契約を組み合わせた制度として、参考になりますし、その運用上、特に❷のように、どのような点がポイントになるのかも、検討されるべきポイントとなります。