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今日の労働判例

【国立大学法人横浜国立大学事件】(横浜地判R6.2.8労判1315.47〈棄却/控訴〉)

 

 この事案は、大学教授Xが、大学Yによる懲戒解雇が無効であると主張し、争った事件です。裁判所は、Xの請求を否定しました。

 

1.事案の概要

 Yは、英語を使用言語とする学部横断教育プログラム、YOKOHAMAクリエイティブ・シティ・スタディーズ特別プログラム(YCCS)を設置し、様々な国籍の学生が在籍しています(12名)。Xは、YCCS設立から関り、YCCSを主たる業務として担当している唯一の教授でした。

 開設間もないことから、入試や成績について、YCCSの方針や具体的な運用について、模索されていました。例えば、多様性を確保するために、最初の入試では日本人学生を2名と限定し、その後、日本人以外の国籍でも2名に限定するという意見と、逆に制限を設けるべきでないという意見がありました。

 このような状況で、Xは、①入試に際して他の採点者の点数を改ざんし、②学生の評価に際してアシスタントの学生たちに、実際には与えていない課題に関する受講生たちのレポートを偽造させて成績の辻褄を合わせさせたりしました。

 YはほかにもXの非違行為を問題にしていますが、裁判所は、この2つの非違行為でYの懲戒解雇を有効と判断しました。その他の非違行為については、論点として紹介しているものの、その内容について検証しておらず、何ら評価が示されていません。

 

2.違法性

 ①についていえば、YCCSの方向性が定まっていないことから、Xは自分のやり方が正しいと誤解していたのでしょうか。Yの方針と合致しているのかについて、どのような経緯があったのか、詳細な議論がされ、XはYの方針と違う認識(確信?)を抱いていたような認定がされています。特に、最初の入試で日本字学生の人数を制限したことが、Xの誤解につながったのかもしれません。

 ②についても、成績評価基準を満たす裏付けが足りないと指摘されたために、Xが慌てて資料の偽造を図った、等の経緯が指摘され、その過程が検証されています。

 このように、Xの言動にはそれぞれ背景事情があり、Xの行為に同情すべき点もあります(裁判所も、丁寧に事実認定をし、Xの主張に配慮しています)が、裁判所は、①②の悪質性を強調し、違法性を認めています。

 国立大学で、公正な評価のされることの重要性が重視されたことから、大学の事業にとって、評価の透明性や公平性が、本質的であり、それだけ重要である、と評価されたことがわかります。

 

3.実務上のポイント

 さらに裁判所は、かなりのスペースを割いて、プロセスの合理性を検証しています。

 すなわち裁判所は、Xの弁護士も立ち会った聴聞の機会があったことなどを認定したうえで、プロセスの合理性も認めました。

 就業規則に定められた懲戒手続が実践されたかどうか、という問題ですが、特に重い処分の合理性が争われたときに、そのプロセスの合理性は(就業規則の規定がなくても)当然問題になりますから、どのようなプロセスがどのように評価されるのか、就業規則の規定にかかわらず、参考になるポイントです。