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今日の労働判例

【国・中労委(長澤運輸・団交)事件】

(東高判R3.1.28労判1241.35)

 

 この事案は、同一労働同一賃金に関して判断を示した有名な「長澤運輸事件」最高裁判決(H30.6.1労判1179.34)の舞台となった会社Xでの労使交渉に関わる問題です。

 復習のために確認しましょう。

 最高裁判決は、定年後再雇用された従業員に支払われず正社員にだけ支払われる手当等(特に、正社員だけ支給される手当)のうち、精勤手当等については違法としつつ、賞与や住宅手当等については、適法としました。原則として、個別手当ごとに、それぞれの制度の目的・趣旨に照らして合理性を判断する、但し例外的に複数の手当てをまとめて比較する場合もある、等の同一労働同一賃金に関する基本的なルールを示した重要な判例です。

 さて、本事案です。

 本事案は、XとKの間で従業員の雇用条件に関する団体交渉が行われていましたが、Xが誠実に団体交渉に応じなかった、という理由で労働委員会YがXに対し、Kとの団体交渉に応じることやその際の条件を示した命令を出しました。Xは、Yの命令の取り消しを求めて訴訟を提起しました。

 1審2審いずれも、Xの請求を否定しました。

 

1.事案の概要

 XとKの間では、本判決の判断の対象となった労働委員会手続に先立ち、別の労働委員会手続きと上記の訴訟手続きが進められていました。

 すなわち、Xの労働組合Kが、従業員の雇用条件に関するいくつかの論点について、Xと断続的に交渉を重ねていました。その論点の中には、同一労働同一賃金に関する労働条件も含まれていました。しかし、交渉が進まないことから、Kが労働委員会に対して救済申立てをするとともに、組合員が上記訴訟を提起しました。救済申立の中で、XとKは、都労委の関与により、「(今後の団体交渉でXは)会社の代表者ないしこれに準ずる権限のある者を出席させて、労使の合意が図れるように、交渉事項につき必要な経営に関する資料を提出するなどして、誠実に団体交渉を行うことを約束する。」という条項を含めて合意をしました。

 その後も、労働条件に関する団体交渉が行われましたが、Xからは代表者ではなく、所長と弁護士が出席し、交渉の中心となりました。さらにXは、Kが要求する資料などの提出を、訴訟に提出しているから、等という理由で拒み続けました。

 そのため、Kが労働委員会に手続きを申し立てました。都労委の命令の後、その上訴審にあたる中労委Yは、Xに対し、団体交渉に関して以下のような命令を出しました。このうち、①②は、前回の労働委員会の手続きで合意した内容(上記)と同じであることが分かります。

① 代表取締役又はこれに準ずる交渉権限を有する者の団体交渉への出席

② 主張を裏付ける資料の提出と具体的な説明

③ 文書の交付

④ 履行の報告

 Xは、これを不服として訴訟を提起したのです。

 

2.不誠実と評価されたポイント

 注目されるポイントの1つ目は、訴訟で資料を提出しているから入手できるはず、というXの主張が否定された点です。

 この理由について裁判所は、訴訟に提出したから団体交渉には提出しない、という態度は団体交渉軽視であり、団体交渉を形骸化させる、と説明しています。

 この理由付けから、裁判所は、団体交渉が実際にどのように、どの程度阻害されたかが証明されなくても、団体交渉軽視によって団体交渉が形骸化する危険が発生すればそれで不誠実と評価するという、厳格な判断方針を示したことになります。

 2つ目は、弁護士と所長が交渉権限を有していた、というXの主張が否定された点です。

 この点は、Xの社内で権限が授与されていたかどうかという内部的・形式的な観点ではなく、実際の交渉での弁護士と所長の言動によって、実質的な権限が無かったと評価しています。この言動として裁判所が指摘している事実は、例えば資料を提示しない理由について何も具体的な理由を説明せずに頑なに拒否し続けた点を特に示しています(1審は、さらにこれ以外の事実、例えば次回日程を決めることができなかった点なども指摘しています)。

 このことから、交渉権限の有無の問題(①)も、実質的には誠実な交渉と同様の問題としてとらえていることが分かります。

 このように、特に会社側が団体交渉に対して不誠実であったかどうかは、現実に団体交渉が阻害されたことが証明されなくても、すなわち形骸化の恐れなどの危険が生じただけでも成立すること、それは権限を有する者が参加したかどうかという形式面ではなく、実際に中身のあるやり取りがされたかどうかという実質面で見ること、が示されたと評価できます。

 

3.実務上のポイント

 一見すると、本判決の示したルールは、上記①②と同様の和解が先行している事案に限って適用されるようにも見えます。

 けれども、特に上記2つ目のポイントで指摘したとおり、①の議論も形式面ではなく実質面で評価しており、その評価は不誠実かどうかの評価と同様です。ポイントとして指摘しませんでしたが、②についても、団体交渉を形骸化するかどうかという観点で検討しており、上記2つのポイントと同じです。

 そうすると、本判決の示したルールは、団体交渉が不誠実だったかどうかに関する事例全てに適用されてもおかしくありません。①②のような和解が先行していない事案でも、団体交渉が誠実に行われたかどうかを判断する判断枠組みとして、同様に、資料を交付したかどうか、権限のある者が参加したかどうか、を問題にする可能性がある、と考えるべきでしょう。

 このことを逆に言うと、労働組合側から見た場合、そうであれば①②のような和解をしても意味がないのか、という問題になります。

 けれども、いくつかある判断枠組みの1つとして①②が指摘される場合と異なり、予め会社側の不誠実な態度の典型的な言動(この事案では①②)を明示し、それをしないと約束させておくことで、これに会社が反した場合には、交渉が不誠実であったことが強く推定される、という効果があるように思われます。

 団体交渉の方法や進め方に関する合意は、労働委員会の場で目指す一つのゴールですが、その契約条項の意味や効果について参考となる裁判例です。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!