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今日の労働判例

【井関松山ファクトリー事件・井関松山製造所事件】

高松高裁R1.7.8判決(労判1208.25, 38

 

 この事案は、有期従業員らXが、その処遇に関し、無期従業員(正社員)と比較して不均衡であって無効である、と主張し、会社Yに損害賠償請求などを求めたものです。

 裁判所は、1審と同様の結論を示しました。すなわち、一部の諸手当についての違いは違法であるとして損害賠償請求を認めたものの、賞与やその他の諸手当についての違いは違法でないとしました。

 

1.判断枠組み(ルール)

 裁判所は、労働条件の相違の合理性について、ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件で示された判断枠組みを採用しています。

 すなわち、「①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情」を考慮するのです。

 この中でも、特に「③その他の事情」に関し、②だけで一義的に決まらないこと、経営判断の観点から②以外の様々な事情が考慮されていること、団体交渉等による私的自治に委ねられる部分が大きいこと、を理由に、②以外の事情も含まれることを明示しています。

 近時、諸手当だけでなく、基本給、賞与、退職金など、会社の裁量が大きいと思われる部分についての合理性が問題になりますが、そこでは特に③として考慮されるべき事情が問題になりますので、判断枠組みとして見た場合、③が、今後特に重要なポイントになっていくと思われます。

 そのうえで、賃金の総額だけを対比するのではなく、問題となっている諸手当や賞与などの賃金項目ごとに個別に、その趣旨に照らして合理性が検討されることになります。

 

2.あてはめ(共通事項)

 裁判所は、まず、上記①~③を詳細に検証しました。

 すなわち、①のうち、「業務の内容」については、各Xの業務内容(例えば、どのような部品のラインで何をしているのか、その作業内容は何か、など)を詳細に認定し、有期従業員と無期従業員の間に大きな相違はない、と判断しました。

 また、①のうち、「業務に伴う責任の程度」については、ミスが発生した場合の対応の程度が異なることから、その範囲で責任の程度も相違している、と判断しました。

 また、②については、無期従業員は教育研修を受け、組長などになる機会があるが、有期従業員はいずれもなく、「人材活用の仕組みに基づく相違」がある、と判断しました。

 最後に、③については、11名の組長のうち9名が有期従業員出身者であって、両者の地位が固定的でないことは、特に考慮すべき事情である、と指摘しています。

 

3.あてはめ(賞与)

 そのうえで、賞与については、特に慎重な検討のうえ、有期従業員に支給されない(一部の有期従業員は一律5万円・10万円の寸志が支給された)ことは不合理でない、としました。その根拠を要約しましょう。

 まず、その性格は、賃金の後払い、功労報奨(継続勤務に報いる)、生活費の補助、勤労奨励(将来)、といった複合的な性質を有する、と評価しました。

 そのうえで、①の「業務に伴う責任の程度」に差があること、②組長候補者に対する高額な賞与によって「有為な人材の獲得・定着を図る」ことも合理的であること、Xには寸志が支給されていること、有期従業員と無期従業員は固定的でないこと、無期従業員内でも賞与額に大きな開きがあること、賞与の原資の決定に会社は大きな裁量権限があり、その際、賃金額が大きな基準となっているので、従業員の業績への連動よりも、賃金後払い・勤労奨励の性格の方が強いこと、等を根拠として指摘しています。

 ここでは特に、賞与の目的との関係(従業員の業績に連動する場合には、差を設けにくいが、賃金後払い・勤労奨励の場合には、差を設けやすい、等)は、今後の実務上参考になる点です。すなわち、賞与の持つ諸機能のうち、実際の支給計算方法に合致したものが重視されるのであって、理念的な説明だけでは足りないことになるのです。

 さらに、短期パート法に関する指針で、賞与の在り方に関する記述があり、そこでは相応の賞与の支給などが求められています。

 けれども裁判所は、上記の理由を繰り返し確認した上で、賞与不支給も合理的と認定しました。そこで特に重視されていると思われるのが、人事政策です。ハマキョウレックス事件や長澤運輸事件の最高裁判決により、諸手当や賞与、基本給などの諸条件をバラバラに評価するのが原則ルールとされましたが、これに対しては、特に経営学の観点から強い懸念が示されているところです。諸条件相互に関連性があり、それを捨象してしまうことで、従業員の処遇の本来の機能を見誤ったり、適切な人事政策の立案を困難にしたりする危険があるからです。この問題意識から見た場合、裁判所が他の人事制度との関連も重視しながら、賞与の制度設計に柔軟性を与えた点が、人事政策の実態に対する配慮として評価されるべきポイントと思われるのです。

 指針の案が公表された段階で、有期従業員に対する賞与の不払いは不合理である、という考えがかなり強く示されたため、賞与の不支給の合理性判断の在り方が議論されている状況です。その中で、賞与不支給の合理性を認めたこの裁判例の判断は、諸条件をバラバラに評価するというルールの在り方にも関わる問題意識を示した点でも、注目すべき裁判例です。

 

4.あてはめ(その他の手当て)

 裁判所は、それぞれの手当の趣旨目的と不支給の関係を、1つひとつ丁寧に検証しています。

 家族手当は、生活補助的な性質を有し、労働者の職務内容と無関係な基準(扶養家族の有無、属性、人数)で決まり、職務内容に対応したものではないこと、有期従業員も扶養家族の存在で生活費が増大する点に変わりないこと、などから、これを不合理としました。

 住宅手当は、住宅費用の負担に応じて類型化して費用補助する趣旨であって、職務内容等に対応していないこと、有期従業員も、住宅費用を負担する点に変わりないこと、などからこれを不合理としました。

 精勤手当は、給与体系の違いから「月給日給者」と言われる技能職者の方が、欠勤日数の影響で基本給が変動して収入が不安定となる状態を軽減する趣旨で支給されている、と認定したうえで、この趣旨は同様に出勤日数の影響を大きく受ける有期従業員にも該当する、としてこれを不合理としました。

 そして、2審はこれらを総括して、これらはいずれも、勤務日数・扶養家族・賃貸住宅への居住といった「明確に定められた支給基準により一定額が支給されるものとされており、職務の内容の差異等に基づくものとは解し難い」こと、賞与と異なり、Yには、これら諸手当の支給の有無・金額について格段の裁量が無いこと、したがって、これらについて「人事政策上の配慮等の必要性を認めるに足りない」こと、を指摘しています。

 このように、不支給を不合理とした諸手当についても、人事政策上の配慮が重視されている点が、特に注目されます。

 

5.効果

 他の裁判例と共通していますが、ここでも、労契法20条に違反したからと言って、給与や諸手当などの金額が変ってしまうのではなく、損害賠償によって不均衡が是正される、というルール(法律効果)を示しました。いわゆる「補充効」を否定した点で、他の裁判例と共通しています。

 したがって、実務上、「補充効」がないという運用がかなり定着したと評価できます。

 

6.実務上のポイント

 近時は、基本給、賞与、退職金という、人事政策上のコアとなる部分についての不均衡が、重要な問題となって議論されています。

 ここでは、会社の人事政策上の配慮を重視した判断が示されており、諸条件をバラバラに評価するという判断枠組みの適用範囲も含め、今後、さらに議論が深まる問題点です。

 実務上は、ここで示されたように、抽象的な建前で終わりにするのではなく、支給基準などの制度設計や、実際の支給実績などの制度運用によって、諸条件をバラバラに評価したとしても、その合理性をそれぞれ「具体的に」説明できるようにする必要があります。

 基本給、賞与、退職金についても、最低限、これと同様の整理をしておくべきです。

 

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、

毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

その中から、毎週、特に気になる判例について、コメントします。