食材発表とは場所を変えて、第4回戦が行われるということで、
選手たちはバスに乗り込んだ。
はっきりいって、おろおろしているのは菅原だけであった。
(なんで肉が来るかね~しかも豚バラって、一番脂身の多い部位じゃないか)
菅原は食べる前からすでに脂くさいゲップが喉からあがってくるようだった。
(こういう時は、白田さんに聞いてみよう!)
なにを聞いても、出し惜しみすることなく大食いの知識を与えてくれる白田さんである。
「レモンを遣って脂っこさを打ち消す作戦で、大丈夫だと思いますよ」
そうか。どの程度まで持ちこたえられるか、さっぱり見当がつかないが、レモンバンバン持ってこい!だな。
4回戦の会場となったレストランは、後が断崖絶壁となっていた。
素晴らしい光景に包まれて、大食いできるなんて最高だな、と、たしか、
泉拓人さんが言った。彼は何が出ても、与えられた運命を甘受する肝の太さが身上だった。
白いテーブルクロスが引かれ、やや離れたところで、網で焼かれる豚バラ串の香ばしい匂いが
漂ってきた。レモンはおかわり自由ですか、と、それだけを確かめた菅原に、もう迷いはなかった。
この戦いからは、伝説の女王・赤阪尊子さんが戦いを見守っている。
いいところを見せたいとまでは思わなかったが、菅ちゃん、がんばったねえ、と
言われるような試合をしたいと思う菅原だった。
豚バラ串は3本で一皿。こんがり焼けた豚バラ串は、思ったより嵩が少ない。脂と水分が
こんがりじっくり焼くうちに、下に滴り落ちてしまったのだろう。
美味しそうな匂いだった。くし型のレモンの他に、味噌だれがついている。
右隣には、高橋実桜ちゃん、左隣には、山本卓弥さんがいる。
(もう、隣なんてみない。ウン、最後まで食べきれればそれでいいんだ。
私は正司優子だ。正司優子になりきるぞーー)
説明しよう。
なぜ菅原が正司優子になりきったかを。それは、お正月に行われれた新人発掘戦いで、
正司優子がいかにも旨そうに食べていたのが脂身たっぷりの豚バラ串だったんである。
(正司さんが勝ちぬくと思われていたんじゃないかなー)、
と菅原はそう思った。
納豆はともかく、ここが正司優子の見せ場になる回だったのでは…。
豚バラ串を焼いている場所と、選手のテーブルが今回はかなり近く、
どことなく、アットホームな雰囲気が漂っていた。まるで、ホームパーティである。
とにかく、やるしかない。
ダメでもともと、敗者復活戦から勝ち上がってきたんじゃないの。
菅原は、せめて、一皿目のおかわりは、自分がコールしよう、そう思った。
「いただきます!」