蔵馬「貴方の美しさを根本的に自覚するとしたら、
君はどうする…?」
飛影「お前はお前らしくあっても、お前らしくあってはいけない、そういうことだ」
人間のチームだと聞かされてきたが、妖怪も混ざっていたとは…。
それも…。
妖狐蔵馬……。
美しい。
あんなにも美しい華は、その美しさを留めておきながら、命を絶つに限る。
永遠に私の下で咲いてくれ。
私は、お前が欲しくて欲しくてたまらないよ…、蔵馬。
鴉はすぅと目を細めると、モニター画面に大きく映し出された蔵馬を見つめた。
苦痛に呻く顔を、恐怖にひきつった顔を、そしてそこから漏れる美しい声を聞きたい。
死へ誘(いざな)うのが私の役目なら、お前への最後にかる言葉は甘美で、名残惜しいものでなければならない。
切り離した肢体は保管庫へ。
顔は傷つけないように、私のところへ。
そうなる日がこんなにも待ち遠しいとは思わなかった。
お前をこんなにも…、こんなにも…、愛している……!!!
お前に触れたい。
お前を壊したい。
お前を奪いたい。
狂気と歓喜の狭間で、鴉は思わず笑い声を漏らした。
***
首縊島ホテルの一室
ザーーッと、心なしか通常よりも水量の多いシャワー音が響いている。
キュッと悲鳴のように、閉められた水道の蛇口の音。
そしてシャワーの主は、大判のバスタオルを器用に2枚身に纏ったまま部屋に現れた。
まさかいるとは思っていなかった影が、手前のベッドに腰掛けているのを見つけ、蔵馬ははっとした。
「飛影…。…変な時間に戻るんですね、貴方は」
グシャグシャと、フェイスタオルで長い髪の毛が含んだ水分をなまじ手荒に拭い去りながら、そのまま奥のベッドの方に回ると、蔵馬は溜め息をつきながら腰掛けた。
「面白いことがあったそうだな…」
「…何です?」
「お前に狂ってるヤツがいるな…。戸愚呂のメンバーで」
飛影は動揺することを期待していたようだが、蔵馬は、ああ、とだけ頷いてみせ、更に深い溜め息をつきながらベッドに沈み込みそうになっただけであった。
「なかなかいいシュミをしている…。お前をリングの上で、骨抜きにしたいらしい」
濡れた髪のせいで、いつもはねている髪が、含んだ水の重みでしなやかに肩におりてきている。
前髪から垂れてきた水滴を拭う仕草が、顔を覆った女の泣き顔を思わせる。
「変態ヤローに会って、今頃泣いてるかと思ったんだが」
「貴方は…、冗談を言いに来たんですか」
呆れたような視線で蔵馬は飛影を一瞥くれると、闇夜を照らす月明かりを見つめた。
「オレを指名したこと、必ず後悔させてやりますよ…」
未だ拭い去れない感触が、首筋に触れたままだ。
思い出す度、激情に駆られる。
「……いい心掛けだ。それを聞いて安心したぜ」
飛影は口元を笑わせると、ベッドから起き上がり、ドアーから外へ出ていってしまった。
その場に一人残された蔵馬がまた溜め息をつきかけて、フェイスタオルで長い髪の毛の表面をまた何度か撫ぜた。
肉体的な疲労感も多少はあるが、今日は何より精神的に窮地に追い込まれたような気分だった。
気紛れな存在である飛影が部屋に戻ってきていることにも驚いた。
彼がこの部屋を訪れた時点で気づかなかったとは、我ながら情けない。
ブレークタイムにでも来ていたんだろうか。
コーヒーメーカーで落とした飲みかけのコーヒーカップが備え付けの丸い小さなテーブルの上に置いてある。
そんな彼がこの部屋を後にしたときか、何かちらついたものがあったような気がした。
そうだ。
あれは右腕だ。
彼自らの意志とはいえ、一筋の大きな傷がついていたような気がした。
とんだ災難だったな。
その傷口がそう語りかけていることが自然と頭の中を過る。
蔵馬はようやく彼がそこにいた意味を理解し、次の呼吸で肩の力が抜けたような気がした。
次の試合では、オレが足を引っ張ることになる…。
それでも…。
負ける訳にはいかない。
蔵馬は、ベッドに備え付けられているテーブルの上に自らの振動で揺れる、例の液体の表面を見つめた。
蔵馬「貴方の美しさを根本的に自覚するとしたら、
君はどうする…?」
飛影「お前はお前らしくあっても、お前らしくあってはいけない、そういうことだ」
