久留米絣作家である松枝哲哉先生のお話
きもの カンタービレ♪

松枝哲哉先生は、久留米絣を家業として150年になる松枝家の5代目。祖父にあたる松枝玉記氏は久留米絣の重要無形文化財保持者です。幼少期より藍甕の管理をし、玉記氏の指導の元に松枝家が得意とした大胆な珍柄とよばれる手の込んだ大きな絵絣の伝統技術を継承しつつ、さらに自然や宇宙といった奥行きのある現代的な文様表現で新しい作品を創りだされています。

右◇結婚10年目に子供が授かった時に花火を見た想い出を意匠とされたのだそう。藍色は川を絵絣で水面と花火を表現。
左◇お子様のお宮参り着は家紋と石畳文様。
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お話は、久留米絣の歴史から重要文化財の指定条件。そして絵絣をつくるのに欠かせない粗苧(あらそ)について、藍について、木綿について、久留米絣の工程についてなど多岐にわたりました。

久留米絣の歴史は、江戸後期に井上伝という13歳の少女が、着古した藍染めのきものが白い斑文になっていることに興味をもち、その布をほどいたところ、糸が藍色に白の斑になっていることから、藍色と白の斑の糸で織りあげることを思いついたと伝えられています。後に東芝の創始者である田中久重(当時15歳)の強力で板を彫って糸を挟んで模様をだす絣の板締め方法を考案し絣を織りだすことに成功します。これらは雪降り、霰織などといわれたのだそう。後に有馬藩の御用絵師であった大蔵太蔵による緯線台の考案から生まれた「絵台」の発明によって世界に類のない絵絣がつくられるようになりました。
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久留米絣の制作工程は約30工程
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【久留米絣の工程】 ※久留米絣の特徴である工程の一部のみ抜粋
●絵糸書き
経緯の縮みを計算して緯糸を括るときの種糸となるものをつくります。
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●絵紙つくり
経緯の配分数を決めてその寸法と羽数を記入。
下にある数字は経糸、右横にある数字は緯糸。漢数字は絣糸、数字は地糸の本数です。
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絵台の幅の筬羽(おさば)に糊付けした糸を張って柄の1単位分を墨付け下絵を糸に書き写します。
先ずは経絣の位置を決めて緯は上書きで自由に書いていくのだそう。
裏は千枚通しでひいてから裏にも墨をぬっていく。
松枝先生曰く、面倒な作業ではあるけれどこれが一番楽しいとのこと。
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●緯尺つくり
経糸がくる部分に藁すぼ(稲藁の芯)を挿していきます。これが経緯絣を括る際の定規となります。
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●手括り
重要文化財の指定条件は手くびり(手括り)による絣括り
防染する部分を粗苧で括ります。
経糸は長く張り、絣の部分に前もって作った経尺に合わせて糸の束を粗苧で強く括ります。緯糸は絵糸書きでできた種糸をつかって経糸同様に括ります。
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粗苧は今では生産量が減っていて入手が困難となりつつあるそうですが、ほどけにくく解けやすいく、久留米絣の手括りには欠かせないものなのだそう。
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●藍染め
重要文化財の指定条件は純正天然藍による糸染め
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藍の蒅(すくも)は徳島の藍師である新居修さんのつくっているもの
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●藍の力について
藍の免疫力や抗菌作用が経験的に伝承されてきた理由のひとつが藍菌によるものでないかということがわかってきた。明治時代の久留米絣の裂地からも発見され還元作用がみられるとのこと。藍菌は芽胞という殻に籠っていたために甦ったのだそう。
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薄い藍色の作品をつくるには、つかい古しのものでなく、3分の1の量の蒅の薄い藍色で何度も染めなければ透明感のあるキレイな色には染まらない。薄い新しい色で何度も何度も染めていく。
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●きびり合わせ
まずは経糸の絣をつくります。きびりとは絣のこと。
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●枠あげ
緯糸を六~八角形の緯取枠に巻き取ります。
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この緯取枠(えとりわく)は久留米独特なのだそうです。
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●機織
久留米の織機は半機といわれるもので、機台のけんちょうが短いもの。
木綿糸はすべりにくく長いとズレやすいので、筬うちするまでに乱れやすい。織りながら絣をあわせられるように座ったままで手が届くよう短くなっているのだそう。
重要文化財の指定条件は投げ杼による緯糸を巻いた道具をつかった手機で織る
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経糸を調整する小乱れ上げがついているのも特徴
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作品つくりには常に五感を働かせ感じれるものを感じるアンテナを立てている。それは歌をつくることにも共通している。宮中歌会始めに歌を応募するとはじめてにして入選されたのだそう。
「藍甕に 浸して絞る わたの糸 光にかざす とき匂い立つ」

木綿のダイヤモンドともいわれる久留米絣。松枝哲哉先生の作品は情緒豊かであり神秘的であり現代的でもあります。久留米絣の伝統的な技法とともに透明な空気感がある現代的な作品つくりがよくわかるお話でした。
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