かっこちゃんこと山元加津子さんは石川県の特別支援学校で働いています。
私の娘もI大学の教育学部 特別支援教育コースで学んでいますが、特別支援学校には行かないと話しています。
それくらい大変な職場なのだと思います。
かっこちゃんはその中から本当に心温まるお話を教えてくれます。
特別支援学校のしょうくんの話です。
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しょうくんは高校二年生でした。ずいぶん小さいときから、しょうくんは肉以外は口にしませんでした。おうちの方も、学校でも、もっといろんなものを食べて欲しいと思って、野菜やお菓子、他のいろいろなものをすすめるけれど、しょうくんは決して食べようとしませんでした。無理に食べさせようとすると、しょうくんは、キーというような高い声を悲しそうな様子で出して、そして、大きな声で電車の駅を始発駅から言い続けました。そして、そのうちに、真っ青になってバタンと倒れてしまったり、そのショックから、何日も肉さえも口にできなくなってしまうのでした。
そのとき、しょうくんは高校二年生でした。一緒に組んだ男の先生が、「このまま卒業させていいんですか? おいしいものはいっぱいある。僕は少々荒療治でも、他のものを食べさせたい。何もしなくていいのですか?」と言いました。そして、その日の給食で、しょうくんに野菜をすすめ、しょうくんの口に野菜を持って行こうとしたときに、しょうくんは自分の手で頭を打ち続け、大きな声で、電車の駅を言い続け、抱きしめても、しょうくんは駅を言うことをやめられず、バタンと倒れてしまったのでした。
その次の日にお休みをするかなと心配をしたけれど、しょうくんが学校に来てくれました。そして、朝、しょうくんは、私に尋ねました。
「大好きはうれしい?」どうして、そんなことを尋ねたのかな?わからなかったけれど、「そうね、大好きはうれしいよね」と言いました。「嫌いは悲しい?」続けて聞くしょうくんに、「そうね、嫌いは悲しいね」と言いました。しょうくんは「どうしてですか?」というのです。「どうして、大好きなうれしくて、嫌いは悲しいですか?」私は答えられなくて、「本当ね、どうしてだろう」と言うばかりでした。
給食のとき、ちょうどその男の先生は、他へでかけていて、私としょうくんで食事をとっていました。いつものように肉を食べていたしょうくんは私に、そんなことを言ったことがなかったのに、「かっこちゃんは、しょうくんがキュウリ食べたらうれしい?」と聞くのです。私はまた「そうね、うれしいなあ」と言いました。そのあと、私は、お昼休みに児童生徒会があったので、しょうくんに「食べ終わったら食器片付けて、教室へ行ってね。ごめんね。今日は私、先に行くね」と言いました。
児童生徒会は休み時間いっぱいありました。五時間目がはじまって、教室へ行くと、しょうくんがいないことに気がつきました。あれ?まだ教室にいるのかな? 時間に正確なしょうくんが遅れるなんてと不思議に思いながら、教室へ行ってもしょうくんの姿はありませんでした。歯磨きをしているのかな? 洗面台に行っても、トイレをさがしても、しょうくんの姿はありませんでした。
廊下を歩いていると、しょうくんが駅の名前を言い続けているのが聞こえてきました。あ、大変。声のする食堂へ入っていったときに、しょうくんは、お箸のさきに、キュウリをさして、口に持って行こうとしていました。私はそこに立ち尽くしてしまいました。しょうくんは何度も、口に持って行こうとして、また駅の名前を大きな声でいい、震えていました。そして、とうとうキューリを口にいれて、急に吐き気がしたのでしょう。おえーという音で、キューリが口から落ちました。それでも、まだしょうくんは、やめようとしませんでした。駅の名前を言い続けながら、キューリを口に入れました。
思わずそばにいって、「しょうくん、無理しないで」と言うと、しょうくんは、「かっこちゃん、キューリ食べるとうれしい。キューリ食べるとしょうくんのことが大好きです」と言いました。私のことばでしょうくんは無理にキューリを食べようとしてくれていたのです。
「ごめんね、しょうくん。キューリを食べるしょうくんも、キューリを食べれないしょうくんも私、大好きだから」けれども、それを聞いても、しょうくんはキューリを食べるのをやめようとしませんでした。そして、涙目になって、キューリをごくりと飲み込みました。
そして、にっこり笑って「しょうくん、キューリ1個食べました。かっこちゃん、しょうくんが大好きです」
「そうよ、大好きよ。私、しょうくん大好きよ」
涙がとまりませんでした。しょうくんを抱きしめるようにして、私は涙がずっととまりませんでした。
そしてその次の日、やっぱりオエーっとなりながら、しょうくんは、キューリを2つ食べました。「しょうくんはキューリ二個食べました。かっこちゃん、しょうくん大好きです」
そして、それを機会に、しょうくんは野菜を食べるようになりました。
私はしょうくんが言った「どうして大好きはうれしくて、嫌いは悲しいですか?」ということばを思い出していました。
これまで、たくさんの人がどんなにしょうくんに野菜を食べさせようとしても、食べられなかったのに、しょうくんはたった一人自分の力で、キューリを食べることができるようになりました。「大好き」がうれしいということは、生まれつき、私たちの心の中におそらくはそなわったこと。私たちは大好きという気持ちのためなら、がんばれたり、ものすごく勇気が出せたりするのでしょうか?
宇宙の約束はきっと愛なんだと私、なんだかそんなことを考えています。
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しょうくんはかっこちゃんが大好きで、かっこちゃんにも自分を大好きになってもらいたかったんでしょうね。
涙が出てきます。
息子は中学校1年生ですが、本当に何気ない時に唐突に「俺、お母さんのこと大好きだよ」と言います。中学生になったのにマザコンか(?)なんて心配にもなりますが、「大好き」って言葉は大好きです。(笑)
「大好き」って言われたら嬉しいです。
私も「大好き」を大好きな人にたくさん伝えたいです。