大阪で生活保護のサポートを行うWing堂ヶ芝行政書士事務所です。

 

生活保護費は文字通り生活のために支給されるお金ですがそこからコツコツ貯金してもよいのでしょうか?

 

この点、生活保護費のやりくりによって生じた預貯金については、当該預貯金の使用目的が、生活保護の趣旨目的に反しない限り保有することができます。

したがって、万が一の出費に備えてこの預金をそのまま保有することは問題ありません。

また、今後引き続き積み立てを続けることも預金残高が高額になりすぎない限りは問題ありません。

 

生活保護は、「生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用すること」を要件として行われるものとされています。

また、生活保護は、「その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行う」ものとされています。

一般的な用語の問題として、預貯金が、生活保護法4条1項の「資産」、同法8条1項の「金銭又は物品」に含まれることについては争いのないところですが、その原資が生活保護費である場合にも同様に理解してよいのかという点が問題となってきます。

 

この点が争われた裁判例として加藤訴訟というものがあります。慢性のリューマチと胃潰瘍により稼働できないため、生活保護(障害年金との併給)を受けていた原告が、妻も病弱であったことから将来の入院介護の費用にあてるため、生活保護費を切り詰めて少しずつ預貯金を行いその金額が81万円余りになっていたところ、これを発見した保護の実施期間が将来の葬祭費用等に充てるべき45万円余を控除した27万円余について収入認定したうえで、保護費を減額する保護変更処分などをしたことから、この保護変更処分の取り消しを求めたものです。

 原告の請求に対し裁判所は、「生活保護費のみ、あるいは収入認定された収入と生活保護費のみが原資となった預貯金については、預貯金の目的が、健康で文化的な最低限度の生活の保障、自立更生という生活保護費の支給の目的ないし趣旨に反するようなものでないと認められ、かつ、国民一般の感情からして保有させることに違和感を覚える程度の高額な預貯金でない限りは、これを、収入認定せず、被保護者に保有させることが相当で、このような預貯金は法4条、法8条でいう活用すべき資産、金銭等には該当しないというべきである。」としたうえで、前記81万円余の預金について、「その目的も生活保護費を支給した目的に反するものとはいえず、また、その額も国民一般の感情からして違和感を覚えるほどの高額のものでないことは明らか」であるなどとして、原告の請求を認め、保護の実施期間の行った保護費を減額する保護変更処分などを取り消す判断をしました(この判決は、被告が控訴せず一審で確定しています)

また、直接には、学資保険の満期保険金の一部を収入認定したことの適否が争われた、中嶋学資保険訴訟において、最高裁は「生活保護法の趣旨目的にかなった目的と態様で保護金品等を原資としてされた貯蓄等は、収入認定の対象とすべき資産にはあたらない」と述べています。

 

このような裁判所の判断ののち、厚労省も平成17年3月31日付の社会・援護局保護課長通知により、「生活保護法による保護の実施要領の取り扱いについて」の一部を改正し、「第3問18答」を新たに設けて、生活保護費のやりくりによって生じた預貯金について、「その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合については、活用すべき資産にはあたらないものとして、保有を容認してさしつかえない」との立場を明らかにしました。

もっとも、前記問答においては「保有の認められない物品の購入など使用目的が生活保護の趣旨目的に反すると認められる場合には、最低生活の維持のために活用すべき資産とみなさざるを得ない」とも述べていますので、福祉事務所から理由を尋ねられたときは、保護費を積み立てている目的をきちんと説明することが必要です。

なお、福祉事務所によっては、保護費をやりくりした預貯金であっても、一定の金額を超える場合には収入認定する扱いをしているようです。

しかしそのような機械的な取り扱いは、前記裁判例や課長通知の趣旨に反していますので、万が一そのような扱いを受けた場合には弁護士や行政書士に相談するなどして対応すると良いでしょう。