「毒入りワイン」がネットオークションで販売~マンズワイン(キッコーマン子会社)未回収ワインが落札

image

出展:毎日新聞朝刊1985.7.25

 

調味料製造販売大手キッコーマンの子会社「マンズワイン社」が30年以上前に製造した「毒入りワイン」が、ネットオークションに出回り、落札されていたことが日刊ゲンダイの取材で分かりました。

日刊ゲンダイ キッコーマンが“毒入りワイン”回収騒ぎ…33年前の問題再燃

 

33年前に「毒入りワイン」として、キッコーマンの子会社であるマンズワインが約39万本が消費者の手元にわたり、約4万本を回収したものの、残りは、大半が消費されたとされていました。

 

この回収されなかったワインのうち3本が、この度、ネットオークションに出品・落札されたというものです。

 

「毒入り」ワイン事件(ジエチレングリコール事件)とは

 

ジエチレングリコール事件とは、オーストリアで生産されたワインなどに、甘味やまろやかさを加える目的で、ジエチレングリコールが不正に添加されたという事件です。

 

ジエチレングリコールとは、いわゆる不凍液です。ガソリンが凍結しないように中に入れたり、また、高空を飛ぶ飛行機の機体の表面が凍結しないように機体にかけたり、車のラジエターのなかに入っていたりするものなのです。長期にわたる摂取は、腎臓、肝臓、脳を損傷するものです。

 

オーストリアワインは、ドイツの低価格市場向けに輸出されていました。1982年は十分な熟度に達したブドウが少なかった年でした。砂糖を加えることも違法とされていましたが、単純に砂糖を加えるだけでは、ワインの味の特徴を十分に修正できませんでした。ジエチレングリコールを使うことで、甘味とコクの両方を生み出すことが出来たのです。

 

当時、「国産ワイン」として販売されていたワインには、バルク(樽買い)で輸入したワインを混入していたものも多かったのです。ジエチレングリコールが含まれていたという問題に、国産ワインと称して販売されていたワインに輸入ワインが混入していたという問題がからみ、大きな事件となったのです。

 

日本におけるジエチレングリコール事件は、1985年7月24日、東京都内でジエチレングリコールが含まれているとされるワインの一つが販売されているのが発見されたことに端を発します。

 

厚生省(当時)は、翌25日に全国の小売店に対し、オーストリア・西ドイツ両国で生産された白ワインの全面撤去を要請しました。新聞、雑誌各紙には「有毒ワイン」、「毒入りワイン」という表現が踊りました

 

 

当初の発表

 

同年8月3日、厚生省は、日本で流通されているワインからはジエチレングリコールが検出されなかったと発表しました。これを受けて、三楽(現メルシャン)、サントリー、マンズワインは、同年8月8日付朝刊各紙に、それぞれ「当該物質『不検出』である」として自社製品は安全である旨の広告を掲載しました。

 

しかし、問題はこれで終わりませんでした。同年8月29日、マンズワインが作った2種類の高級ワインから、ジエチレングリコールが検出されたのです。安全宣言の広告まで出した直後のことでもあり、「国産ワインお前もか」と記事に痛烈に書かれました。注1

 

この記事によれば、担当役員の方は、沈痛な表情で、輸入元からは不凍液が入っていないという証明書が届いていたとし、「神に誓って私どもが入れたことはない」とかみしめるように話されたとのことでした。

 

その後、マンズワインは同年9月2日に全製品の出荷を全面禁止。当時全国シェア2割を占める業界第三位の同社の生産休止は極めて大きな影響がありました。同年9月17日、山梨県から食品衛生法第6条(化学的合成品等の販売等の禁止)に違反したとして、同社勝沼工場の原料用ぶどう処理を除く全部門を営業禁止処分にしました。ただし、偽装工作事件をめぐる同法17条、32条違反(虚偽の申告)については、同社の全役員が辞任するなど反省しているとして、行われないこととなりました。

 

マンズワインの営業禁止処分は11月12日で解除されたものの、この事件の打撃は大きく国産ワインのシェアを奪われることとなりました。

 

 

販売した人の責任は?

 

 

 

筆者は、平成30年(2018年)10月19日夕方放映の、フジテレビ「プライム イズ イブニング」という番組から、電話取材をうけ、放送していただきました。


↓概要は次のサイトで

NTTぷらら様 ネットに昔の”有害物質ワイン”すでに落札



電話出演もさせていただきました。フジテレビ様、ありがとうございました。



 

そこで、販売した人の責任についてどうなるのかを、ご説明させていただきました。

 

33年前に、マンズワイン(キッコーマンの子会社)から回収されたワインの多くは1リットルあたり数グラムのジエチレングリコールしか含んでおらず、致死量に至るには限られた時間内に数十本のボトルを開けなければならない量でした。

 

今回、ネットオークションで落札された量は、ワイン3本にすぎず、これを、仮に短時間で一人で費消したとしても、致死量と言えるレベルではなく、特に症状もないのかもしれません。

 

ただし、マンズワインが回収を求めているワインであり、購入した人は、決して飲まないようにしていただきたいです。

 

そして、このことを知らずに販売したのであれば責任はないと思います。

 

しかしながら、マンズワインが回収していることを知ってネットオークションにかけたのであれば、極めて大きな問題だと思っています。「毒入りワイン」と報道され、回収を求められたワインを、それと知っていて、落札者に、この旨を述べずに販売することは、極めて問題があります。

 

知って販売した人は、落札者から、解除を求められ、このワインを飲んで、落札者に症状が出た場合、販売者は、この治療費や通院状況に応じて、慰謝料の請求が認められると考えられます。

 

更に、「毒入りワイン」と知って、かつ、「毒入りワイン」と知らせずに販売したのであれば、飲んだ人に症状が出てもやむを得ないと思い、販売したことになります。このような方には、傷害罪ないし、万が一、死亡の結果が出れば、傷害致死罪に該当しうるものです。傷害罪は、刑法204条で15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。傷害致死の場合は、3年以上の懲役になります。

 

繰り返しますが、今回落札したワインを3本とも飲んでも、致死量には達しているものとはおよそ言えず、症状も出ない程度のもののようにも見受けられますが(とはいえ、絶対に飲まないでください)、傷害罪や傷害致死罪に、該当しうる販売行為といわざるをえません。

 

もしも、知らずに買った人に症状が出なかった場合は、どうでしょうか?

 

販売者側も知らなければやむをえませんが、知って販売した場合、買主は、オークションの入札者に対し、解除・返金を求めることが出来ると思います。さらに、私は、「毒入りワイン」を売りつけられたということで、知って入札した入札者に対して、慰謝料請求が出来ると思います。

 

その額は、はっきりしたことはいえませんが、症状が出ていないことが前提とはいえ、少なくとも1本当たり、1万円の慰謝料の損害賠償請求が出来るのではないかと思っています。

 

そこで、知って販売するなどは、到底許されるべき行為ではなく、今後、このようなオークション販売がなされることがないか、危惧をしています。

 

マンズワインに対しては

 

image

 

当時、マンズワインが「毒入りワイン」を混入して販売したかのような報道がなされていました。しかしながら、マンズワインは、あくまでも、オーストリアからワインを購入して、国産ワインと混ぜ合わせて販売しただけで、マンズワイン自体が、「毒」を混入させたのではありません。また、その分量も、人体に影響があるというには非常に少量でした。

 

マンズワインには、輸入したワインに、人体に影響があるジエチレングリコールが混入されていた認識はなく、問題は、マンズワインにあるのではなく、オーストリアの業者にあると言わざるを得ません。

 

マンズワインが、県の検査を免れるために虚偽申告をしたことは問題だったとは思います。ただ、これに対しては、役員の全員辞職と営業禁止処分を受け、マスコミからのバッシングも受け、十分すぎるくらいの社会的制裁も受けたと思います。

 

そもそも、この問題は、たまたま、マンズワインで発覚した問題なのだと思います。発覚せず逃げ切った輸入業者もあるようですし、マンズワイン一社を処分すれば良い問題ではないと思います。

 

そして、当時、マンズワインが、ワインの回収を申し出たにもかかわらず、回収に応じず、33年後に販売されたものにまで、責任を負うものではないと思います。

 

そもそも、人体に影響があるには非常に少量のワインの販売であったのであれば、マンズワインが、不法行為に基づく損害賠償義務を負うということではないように思います。

仮に、不法行為に基づく損害賠償請求をすべき立場にあったとしても、もはや、20年の除斥期間(民法724条2号)にかかり、マンズワインに対しては、損害賠償請求出来ないものと思います。

 

最後に

 

33年後になっても、まだ、このような報道がなされるということに、食品、特に長期保存が考えられるワインの製造には、重い責任があるということを感じさせられる出来事でした。

 

マンズワインとにおきましては、今回、善意で購入した人に対し、回収をきちんと行っていただくとともに、このような、「毒入りワイン」を、今後、落札されることのないように、消費者の安全が守られるような施策をしていただくことを望みます。

 

また、二度と、このようなワインのオークション販売がなされることがないことを願ってやみません。

 

 

※こちらの記事も参考に。

毒入りワイン事件(ジエチレングリコール事件)〜ワインの定義の曖昧さがもたらした問題点

 
 
                       中   根    浩   二