日本に帰ってきて、一番にいいなと思うのはまず、冬の気候。
ヨーロッパに比べて格段に温暖だし、東京は晴れの日が多くて、とにかく気持ちがいい。
それから、当たり前だけど、母国語の環境にいることで、自然とたくさんの情報が入ってくるので、ヨーロッパにいる時とは刺激の受け方が違う。
書店でふと目にした本や陳列からもすごく刺激を受けたり。
街を歩いていて、懐かしい記憶が蘇って、思索に耽ったり。
もちろんウィーンでは外国人として異文化で受ける刺激があるのですが、心穏やかに母国で受ける刺激も、自分の現状がどうか、これからどうしていきたいのか、色々と考えを整理するきっかけになります。
そんなきっかけの一つとなったのが、先日足を運んだこの展覧会@世田谷美術館。
若い頃、品川にあった原美術館がとにかく大好きで大好きで、足繁く通っていて。
個人の邸宅美術館(現代アート)で、その建築と展示空間と庭園が展示品とマッチしていて、私の感性のオアシスだった場所
そこで出会った倉俣史朗さんの作品に衝撃を受け、以来ずっと倉俣史朗さんの大ファン。
こうしたインテリアの展示って、邸宅美術館で鑑賞するのが一番胸を打たれると思うので、原美術館が品川にもう存在しないのが残念でたまりません
今回行った世田谷美術館は、子供の頃に近くに父のお気に入りのレストランがあって(笑)、父のブームに家族みんなが付き合って、週末ごとに通っていた懐かしの場所。
砧公園でよく遊びました。
全然関係ないのですが、ウィーンにもセタガヤパーク(世田谷パーク)という公園があって、今や砧公園のことをつい「世田谷公園」って言ってしまう
緑豊かな庭園内の美術館で、フレンチレストランも併設。
左手がレストランで、レストランと美術家ををつなぐ、右側の赤い屋根の渡り廊下がまた素敵なんです
庭園を眺められる渡り廊下の内部。
展覧会には友人と行くつもりで、友人がレストランも予約してくれていたのですが、急遽都合が悪くなり、キャンセルに。
なので、私は展覧会だけ行ってきたのですが、これがもう、私の心の琴線に響きまくる展覧会で
入り口には代表作の一つ、ハウ・ハイ・ザ・ムーン(昔、IDEEでも販売してた)が置いてあって、座ることもできます。
銅の薄板を引き延ばしたワイヤーは、昔は塗装の下地に使う素材だったらしい。
ワイヤーの内部構造が美しくて見飽きません。適度にしなるので、座り心地も
同時開催のコレクション展も、地味ながらも面白かった
これまで知らなかったのですが、コレクション展で初めて目にした鬼塚滿壽彦さんの木版画作品が絵本のようで印象深くて、すごく見入ってしまいました。
この展覧会には平日の昼間に行ったのですが、ものすごく混んでいてびっくり!
世田谷美術館には珍しく(笑)、見るからにデザインや建築の勉強やお仕事をされているんだろうなという雰囲気の方が多かったです。
若者もたくさん来ていて、熱心に写真やメモを取っていて嬉しかった
倉俣史朗、まだ若い世代にもリスペクトされているんだ、って。
会場には一部撮影可のエリアがあって、そんな配慮も嬉しい
作品が載っている台のデザインや配置など、展示空間のデザインも考え抜かれていて、美しいです。
それに、けっこう混んでいるのに、皆が譲り合って他の人の邪魔にならないように撮影をする民度の高さにも感動🥺
ブルノのトゥーゲントハット邸では、ずーっと自撮りして説明全然聞いてなくて、ものすごく邪魔なチェコ人女子もいたし、海外では無神経な人の多さにイラッとしながら展示を見ないといけないこともあるから、こういう小さな周りへの気配りがすごく嬉しい
そして、倉俣史朗は無意識を大切にしていた人で、夢日記を長年つけていて、それをスケッチに起こしたりもしているのですが、その色彩とタッチが私が大好きなデイビッド・ホックニーの版画作品にそっくり。
そして文字や書いてある内容は、ちょっと絵本作家のヨシタケシンスケさんの世界観に似ているところもあって。
アクリルが好きな私は、アクリル作品にも胸を打たれ、昔から好きだったウィーンの世紀末デザインに影響されている作品群にも、無意識の領域の点と点がつながっていく感覚があって。
展示を見進めていくうちに、あまりにも自分がバラバラに影響を受けていた様々な事柄が繋がっていくので、感動のあまり涙まで出てきました
大袈裟ですが、自分の生きてきた道筋は間違っていなかったのかもしれないと思えたような。
そして、倉俣史朗の領域にはとうてい及ばないけれど、これからも諦めずに地道に自分の感性に従って生きていこうと思わされました。
この椅子も展示されていて、週末の決まった時間に点灯されます。
何より、若かった当時はあまり気づいていなかった倉俣史朗さんの文学的センスと感性に胸を揺さぶられました。
具体的に語り出すと、もう時間がいくらあっても足りないのですが、引き出しに込めた意味合いとか、幼少時の思い出や無意識下の夢を創造の着眼点にしているところ、でもノスタルジーにとどまるのではなく、新素材や新技術への好奇心が旺盛なところ。
倉俣史朗の父親は理化学研究所の副部長まで務めた行政官で、理研の社宅に住んでいた史朗少年は、父親の職場である理研の二号館の洋館の雰囲気とそこで飲んだココアに西洋への憧憬を育み、敷地内の大工さんの作業場で職人仕事やものづくりへの興味とリスペクトを育んだんです。
幼少期の環境や憧れの気持ちって、その後の人生を大きく左右しますよね。
代表作のブランチ・チェアが、欲望という名の電車をモチーフにしているところも、倉俣史朗の実用を超えた文学や芸術への熱い想いを感じます。
なにより、ご本人の文才がとにかく素晴らしくて、下手な小説家のエッセイより味わいがあります。
展覧会場に展示されている資料だけでもそのエッセンスが味わえますが、家でゆっくり読みたくて、もちろん図録もお買い上げ。
図録が文学作品のように読み応えがあるところがまたすごいです。
心に響いた言葉を書き留めておきたくて、美術展なのに、文章をメモったりしていました
展覧会手帳を作らないと!
展示デザインも美しくて情報量も適量でわかりやすく、学芸員の方々の力量と情熱が素晴らしい、小粒ながら期待以上に良質な展覧会でした
公営館だから期待していなかったけれど、ミュージアムグッズにも力が入っていて、いろいろな倉俣史朗グッズも面白かった。
倉俣史朗に関係ないけれど、あまりに可愛すぎて、花森安治さんのピンバッジも買っちゃった
どれもこれも可愛すぎて、大人買いしたかったけど、グッとがまん。
ピンバッジといえば、友人からもらったゴーリーの絵本とピンバッジもツボ!
ゴーリーの世界観も絵柄も書き文字も、昔から大好きです
でも友人は、わざわざ遠い旅先で絵本とバッジを買ってくれたのに、「もしかしてukの趣味じゃなかったかもしれない」って心配になったらしく、わざわざお詫び(笑)の菓子折りまでくれました
プレゼントのお詫びのプレゼントってのが面白すぎる(笑)
大胆に見えて、実は繊細で気い遣いな友人らしい心配りに、胸が暖かくなりました。
そして、展覧会に一緒に行く予定だった友人からもたくさんのプレゼントが届いて、中でもこのリップグロスのケースのデザインが倉俣史朗っぽくてツボ!
ものすごく可愛いお米のコンペイトウにもほっこり
そして、美術館から帰る途中、ホテルショコラのカフェも見つけ、うちからも近いので母を呼び出してお茶をしました。
カフェはよく行く地元にもあったけど(チョコレートバトンとコーヒーのペアリングセット)、
雰囲気は断然こちらのほうがいい🏅
まずはコーヒーとチョコ。バトンは品切れで残念!
そして、どうしても飲みたかったホットチョコレートもおかわり
コーヒーは一回一回豆を轢いて、時間をかけてドリップしてくれるので、すごく美味しいです
これで私の中のウォンカ&チョコレート&ロンドンブームも一段落できました