Deep Insight 欧州右旋回、アジアに冷風 (本社コメンテーター)秋田浩之(24年6月13日 日本経済新聞電子版)

 

<私見:

この論説には、なぜEU諸国の有権者が右派を支持するようになったのかという分析が全くない。EU創設に先立って、欧州統合という考え方があったが、それはヨーロッパの内部で戦争しないように協調しようということで諸国の有権者はEU加盟に賛成したはず。

しかし、EUのやり方を見て、環境や移民政策や強い国家主権制限に直面し、これは必ずしも「欧州統合」の条件とは言えないと感じている人が増えたのではないでしょうか。

国家主権回復の例には財政規律3%縛り(その結果、失業者が増えても財政出動できない)やグローバル企業による国内産業の圧迫が挙げられると思う。

では有権者がウクライナ支援反対とか親ロシア勢力支援賛成なのかといえばそういうことではないと思う。もしそうであるなら「NATO脱退」がもっとでてくるはず。そうはならい。

米国のトランプとは違う。トランプ支持派は、ロシアや中国と国境を接している訳ではないから、同じ右派といっても欧州とは違う。

ちなみに、右派とは言えないスウェーデンでは移民による犯罪や税制負担で国民の不満が高まり、制限をしている


記事

 

日本はかつて欧州の情勢を読み違え、国策のかじ取りを大きく誤った。1930年代後半、台頭するナチスドイツと接近し、ソ連や英米に対抗する道に進んだ。

ところが39年8月、ドイツはいきなりソ連と不可侵条約を結んでしまう。当時、ノモンハンでソ連と戦っていた日本は事実上、裏切られた。

「欧州の天地は複雑怪奇……」。狼狽(ろうばい)した平沼騏一郎首相はこんな談話を残し、職を辞す。それなのに結局、日本はドイツと枢軸を組み、41年12月の対米開戦に向かった。

 

 

 

 

 

 

当時とは大きく状況が異なるが、似ている点もある。ロシアによるウクライナ侵略が続き、欧州には準戦時の空気が漂う。欧州の動きがアジアにどんな波をもたらすのか、改めて目をこらした方がいい。

その意味で、6月6~9日にあった欧州議会選の結果は気がかりだ。欧州連合(EU)や移民に反発する極右や右派が勢いづき、議席(全720議席)の2割超を占めた。フランスでは極右政党の得票率がトップに、ドイツでも第2位にのし上がった。

 

「極右」

極右は自国の利益を優先し、ウクライナ支援に慎重な政党もある。ロシアに融和的だったり、中国の浸透が懸念されたりする状況も最近、あらわになってきた。

たとえば、今回の選挙で躍進したドイツの極右政党、「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。党に属する欧州議員の側近が4月、「中国スパイ」の疑いで捕まり、大騒ぎになった。

 

欧州議会は直接、外交や安全保障をになうわけではなく、欧州の路線がただちに右旋回するとは考えづらい。だが、そんな危険が差し迫っていることを今回の結果は教えている。

実際、欧州の外交専門家らにたずねると、中期の影響を心配する声が聞かれる。欧州議会はほとんどの法案を承認するほか、国際協定への同意権をもつ。極右の発言力が強まれば、アジアにも無関係ではすまない。

たとえば、極右の反対などにより、ウクライナへの追加支援が遅れたり、滞ったりする恐れがある。ウクライナ緊迫のあおりから米軍のアジアシフトが遅れ、中国や北朝鮮の行動がより強気になることも考えられる。

 

「極右」

日本は中国をにらみ、経済安全保障やデジタル分野のルールづくりでEUと連携を探る。欧州議会における極右の存在は、こうした協力にも火種になり得る。

より短期では、アジアと欧州の間に位置する旧ソ連圏への影響が心配だ。ロシアの支配が広がりかねない。特に脆弱なのが、親ロシア勢力に一部領土を支配されているモルドバやジョージアだ。

モルドバの安保当局者は、危惧する。「モルドバの親ロシア系の政党には、ロシアから多額の資金が流れる。対抗するため、親欧米系の政党は欧州議会のリベラル政党から支援を得てきた。そのリベラル政党の退潮でロシアの介入が一気に強まってしまう」

 

「トランプ」

11月の米大統領選では、トランプ氏が世論調査で優位に立つ。彼が当選すれば、米国ファースト路線を猛進するだろう。欧州までもが内向きになったら、主要7カ国(G7)の中で、日本が頼れる協力相手が乏しくなってしまう。

 

日本はどうすればよいのか。まず英独仏、イタリアといった欧州の主要国と連携を深めるべきなのは、言うまでもない。それを大前提としたうえで、次にカギを握るのが、ポーランドやバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)との協力だ。

東欧・バルト諸国と日本は遠く離れているように思われがちだが、地政学でみれば、中ロをまたぐ「近隣国」である。反米共闘を強める中ロへの対応上、協力できる余地は大きい。

東欧・バルト諸国と日本は、それぞれ隣接するロシアと中国の動向に詳しい。中ロをめぐる重要情報を共有し、分析を密にすり合わせるところから協力を強めるのが一案だ。ポーランドとバルト諸国はEU加盟国で、パイプを太くするのは対EU外交でも役に立つ。

特に、人口約3800万人のポーランドは安保上、英独仏に準じる存在になっていくだろう。ロシアの脅威をにらみ、ポーランドは2024年の国防予算を国内総生産(GDP)の4%超にふやす。

政府の安全保障政策にかかわるポーランドのシンクタンク幹部は話す。「今の国防計画が実行されれば、ポーランド軍の通常戦力は30年代初めまでに英独仏を抜き、欧州で最大級になる」

ポーランドは中東欧の右旋回を食い止めるうえでも、カギを握る。23年12月、約8年ぶりに政権交代し、欧州をあっと言わせた。強権的な右派が退き、EU協調派のトゥスク政権が率いる。

 

韓国はかねてポーランドに着目し、動きが速い。ポーランドの統計によると、韓国の直接投資は22年時点で約65億ユーロ(約1兆1千億円)に達した。日本の約5.6倍の規模だ。ワルシャワを訪れると、韓国企業の看板が目に入る。

韓国は戦車や自走砲、戦闘機もポーランドに輸出している。「韓国製兵器はポーランドが国防力を強めるうえで、柱の一つになった」(ポーランド国防関係者)

多数の国々がひしめきあう欧州は、たしかに「複雑怪奇」な顔を見せるときがある。日本がその動向を見誤らないためには、さらに関与を深めるしかない。