春秋(24年5月31日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)人工知能(AI)が打つ囲碁は人間のそれとどう違うか。

本紙「私の履歴書」で、囲碁棋士の趙治勲さんが語っていた。

AIで学ぶ世代は形が悪い手を平気で打つ。自分で使う気は無い。AIに答えを聞いて学ぶより、自ら葛藤を繰り返すのが囲碁の醍醐味だから、と。

 

(2)▼対話型の生成AIを使いコンピューターウイルスを作成したとして、警視庁が20代の男を逮捕した。

IT(情報技術)に詳しい今どきの若者かと思ったら、この方面の専門知識は乏しいらしい。「楽に金を稼ごうと思った」と述べ、道具はスマホなど身近な機材。使用したAIもネットで無料公開されているものだという。

 

(3)▼IT関連の出来事を解説する大手ソフト会社のサイトが早速、この件を取り上げAIのネット犯罪への影響を指摘していた。

システムの弱点を今より早く探せる。詐欺の文章が自然なものになる。そして犯罪に対する「参入障壁」が低くなるだろうと記す。ただし、希望もある。いわく「防御技術も生成AIで進化します」

 

(4)▼村上春樹さんの小説「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は情報を暗号化して守る「計算士」と、盗む「記号士」の仁義なき戦いを描いた。

39年前の作品が現実と重なる。いかに便利な技術も、使い方やつきあい方を決めるのは人間だ。悪事に使えば、責めを負うのは人。技術には自覚を持って向き合いたい。