春秋(24年3月24日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)「スマホ」なる略語が世に現れたのは2011年ごろである。

スマートフォンの略だから「スマフォ」が正しいという指摘もよく聞いた。しかし語呂のよさゆえか、多くの日本人は「スマホ」を選んだ。誰もが頻繁に口にする言葉は、言いやすいほうへと流れるらしい。

 

(2)▼米アップルがiPhoneを発売して4年ほどで、かくもスマホは生活に浸透していたのだとあらためて思う。

世界同時の展開はさらに大きなうねりを生み出し、アップル帝国の隆盛に至った。かつて、この会社が携帯音楽プレーヤーiPodを開発したとき、現在を予測した人はいただろうか。四半世紀もたっていない。

 

(3)▼狂おしく進展を続けるデジタルテクノロジーと、それをつかさどる巨大テック企業。

国家の領分を侵されそうな危機感を背景に、かねて対決姿勢をとってきた米当局がアップルを反トラスト法(独占禁止法)違反で提訴した。スマホなしには夜も日も明けず、スマホに人生を独占されかねぬ私たちが目を凝らすべき争いだ。

 

(4)▼イノベーションの精神を殺しては元も子もないが、奔放な振る舞いにもほどがある。

そんなジレンマに、社会はどんな調和を見いだしたらいいのだろう。それにしても、こういう話題がニッポン発じゃないのが寂しくもある。略語といえば、ケータイでテレビが見られる「ワンセグ」も今は昔だ。語呂はよかったのに……。