生成AI対策に「学習防止ツール」、画像にノイズで作品保護…「無効化」技術で対抗する動きも(24年3月7日 読売新聞オンライン無料版)

 

記事

 

(1)生成AI(人工知能)による著作物の利用が問題になる中、AIによる学習を防ぐサービスの利用が広がっている。

「学習防止ツール」などと呼ばれ、今年1月には日本向けのサービスが登場。クリエイターらが自身の作品を自衛する手段として活用されている。

 

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絵は自分の「子供」

 

(2)神奈川県内に住む50歳代の女性は1月から、自身のイラストをSNSにアップする前、「 emamori(エマモリ)」という学習防止ツールを利用している。

写真 イラストの保護をかけるemamoriのウェブサイト=SnackTime提供、画像の一部を修整しています

 

専用のウェブサイトに画像をアップすると、人の目では判別しづらい乱れ(ノイズ)が入り保護される。AIは正確に学習することができず、類似する画像の生成を指示されても、それに沿った画像を生成できなくなる。

 女性は数か月に1度、知人と開く展示会に向けてイラストを制作している。SNSにアップして、販売もしている。

 

 

(3)生成AIは、大量のデータを機械学習し、文章や画像などを作り出す。

そのため、自分の作品もAIの学習素材になり得ると考え、ツールの利用を始めた。スマートフォン一つで、イラスト1枚につき5~10分程で保護をかけることができる。

これまでアップしたイラスト約200枚もいったんSNSから削除し保護をかけているという。

女性は「自分の描いた絵は『子供』みたいに大切。勝手にAIに学習されるのが嫌だったので、手軽に作品を守れるツールがあるのはありがたい」と語った。

 

日本企業が開発

 

(4)日本の企業「SnackTime」が開発

「emamori」を開発したのは、IT企業「SnackTime」(東京)だ。

 1)

オープンソース(公開情報)を基に昨夏から本格的に開発に乗りだし、クリエイター300人による試用期間を経て、今年1月から提供を始めた。

2)開発のきっかけ

 昨春、同社代表取締役の石田弘樹さん(30)が目にしたSNSだった。

知人のイラストレーターが、自身のSNSのプロフィル欄に「AI学習禁止」と明示しており、「誰もが安心してSNSに作品をアップできる環境を作りたいと思った」という。

3)同社にはプロアマ問わず、多くのクリエイターらから問い合わせがあるといい、「ネットへのアップをやめていたが、再開した」といった声が寄せられているという。

4)(代表取締役の石田さん)

「クリエイターがいくら拒絶しても、学習素材に使おうとする人は出てくる。自分の作品を守りたいという声に応え、技術を進歩させていきたい」と意気込む。

 

米タイム誌「最高の発明」

 

(5)「米シカゴ大の学習防止ツール「グレーズ」」

学習防止ツールには、米シカゴ大の研究チームが昨春発表した「グレーズ」などもある。

人間の目では判別しづらい加工を作品に施し、AIに加工前と異なる作品と認識させて、似た作品を生成させなくする仕組みだ。

グレーズのX(旧ツイッター)によると、約220万回ダウンロードされ、米タイム誌が選ぶ昨年の「最高の発明」に選ばれた。

 

(6)ただ、ネット上では、こうした作品の保護を「無効化」し、AIが正確に学習できるようにする方法も紹介されている。

 

(7)(AIと著作権の問題に詳しい寺内康介弁護士)

「『無効化』の技術が進めば、いたちごっこになりかねない。学習側がウェブサイトの学習拒否の意思を尊重する動きもあり、そうなれば双方が納得しやすくなるだろう」とみている。

 

著作権法の改正、文化庁素案は踏み込まず

 

(8)「著作権法30条の4 AIで著作物を無断で機械学習すること容認」

著作権法30条の4の規定では、著作権者の利益を不当に害する場合を除いて、AIが著作物を無断で機械学習することを認めている。

 文化庁の文化審議会の小委員会は2月29日、機械学習を巡り、権利侵害になり得るケースを例示するなどした「考え方」の素案を大筋でまとめた。

将来販売される可能性があるデータベースが、パスワードなどで複製を防止しているのに乗り越えて学習させる行為などが該当しうるとした。

 素案への意見公募では、経済界から評価する声が上がる一方、権利者団体などから同法改正を求める意見も寄せられていた。

 素案では、法改正の議論に踏み込んでおらず、日本音楽著作権協会は取材に「クリエイターの懸念解消に向けた効果は限定的。法改正などの立法論を含む議論が行われることを強く望む」としている。