キッチンテーブルの上で鳴り響く携帯を、奎吾は掴み取り左耳にあてた。
「おう、安。なんだ?」
「おう。あのな、同級会やろうと思ってな」
「ふーん」
「いつもは盆か正月にやってただろう」
「あぁ、そうだな」
「お前は殆ど出てねーけどな」
「うん」
「お前、地元に残って仕事してる奴ら殆ど知らないだろう?」
「あぁ、そうだな。お前しか知らん」
「だろう。それで地元に残ってる連中だけ集めてクラス会やろうと思ってな」
「どうして、地元だけなんだ?」
「いいから。話聞けよ!」
「うん」
「もう、みんな歳だし退職したり田舎に帰って親を介護したり、結構地元に帰ってる奴がいるみたいなんだよ」
「うん」
「だから、一度な地元にいる連中がどれだけいるのか知りたくて同級会やろうと思ったんだ」
「知ってどうすんだ?」
「お前は冷たい奴だな」
「何がだよ」
「そのー、なんだ、せっかく地元にいるんなら顔見てみたいじゃねーか」
「お前は、単に昔の彼女にでも会う口実を作りたいだけじゃないのか?」
「奎吾!お前はどうしてそんな捻くれてものを考えるんだ」
「正直に言ってるだけだ」
「まあ、いい。それで、お前のとこの家の隣に俺の借家があるだろう」
「あぁ、コテージ風のな。少し古いけどな」
「そう。古いは余計だ」
「すまん」
「そこで同級会をやろうと思うんだ」
「どこか市内の飲み屋を借りた方が楽だろう?」
「いや、俺が幹事だから独断で決めていいんだ」
「そうなのか?なんか変だな?」
「いいんだよ。あっ、それでお前に少し手伝って欲しいんだ」
「何を?」
「案内状だよ。案内状を往復ハガキに印刷して欲しいんだ」
「ふーん。分った」
「随分素直だな?あっ、後で名簿持っていくから」
「明日の夕方にしてくれ。俺、仕事あるから」
「わかった。じゃ、頼むな!」
「うん」
怒涛のように電話で話す安(やす;安一)。
高校を卒業してから地元で家業の不動産業を継いでいた。
時間的に自由が効く。
地元高校の同窓会や野球部の後援会やらの役員を多く掛け持っていた。
お人好しと言ってもいい。
丸顔で多少ふくよかなお腹を揺らしながら笑われると憎めない安。
奎吾は、どちらかというと特定の人間以外あまり関わりを持ちたくないという性格で、唯一この安だけが幼い頃からの友人ということになる。
安が憧れていた彼女は、クラスで一番可愛い女子ではなくどちらかというと物静かで控えめな女子だった。
名前は相川玲子といい、安は二人で酒を飲む度に彼女の話していた。
翌朝、奎吾はトースト一枚を口に入れ、coffeeをすすりながら仕事に行く身支度を始めた。
猫のこまめに挨拶をして自宅を出た。
会社までは車で30分程度の道のり。
海岸から内陸へ向かい車を走らせた。
2、3日前に降った雪が道路脇に高く積まれ、山々は白く塗られたままだった。
今朝もチラホラと雪が降っていた。
車は凸凹のある除雪あとの道を進み会社の駐車場に着いた。
奎吾が車から降り、ドアを閉じようとした時だった。
背中から女性の声がした。
「奎吾くん」
「ん?」
誰だろうと振り返る間もなく、顔を近づけるように奎吾の前に女性が立っていた。
「ん??君は。。。?えっ!」
粉雪の中、二人は奎吾の車の傍で立ったまま数分が流れた。
「わかる?」
奎吾は女性の言葉に、安の魂胆を知った。
つづく


