錬太郎は、細切れのsceneを、パズルをはめ込むように女性に説明した。
一通り説明し終わると、女性が錬太郎目をじーっと見つめて言った。
「うん。おもしろいじゃん♪錬太郎さんだっけ?仕事は?あっ、そっかぁ。この世界がどこかわかんないもんね。仕事なんか休んじゃえば♪」
「君は?」
「あっ、私?いいのいいの仕事なんて。仕事ってのは、仕事をしなくて済むようになりたいから仕事するだけ。働くために人間が生まれてきたわけじゃないよ。でしょ♪」
フレンドリーな会話だが、彼女の話しは錬太郎を至極頷かせる。
今まで自分が生きてきた世界ではなかなかお目に掛かったことが無かった。
「お天気もいいし、一緒に散歩でもどう?」
と女性はメガネを掛け直して言った。
「あれっ?君メガネをしてたっけ?」
「視力が少し落ちてきたの。いいから、行こうよ♪」
「う、うん。で、何処へ行くの?僕ここ知らないんだ」
「いいのいいの。歩いていればわかるって♪」
二人は鯛焼き屋の前の横断歩道を渡り、細い路地へと入っていった。
女性のやや右斜め後方を大きな歩幅で錬太郎が歩き始めた。
「ところで、まだ君の名前を聞いていなかったけど」
錬太郎が女性の背中に向かって言うと、女性は空を少し見上げながら
「知りたい?私の名前。知りたい?」
「う、うん。教えてくれる?」
錬太郎のぶっきらぼうな言葉を聞いて、女性は小走りに前に進み振り返り言った。
「やだー。教えない♪絶対に教えない♪」
「えーーーーーー」
「だって、感情がこもってないもんねー。本当に私の名前が知りたいって感じるような言い方をしなきゃ言わなーーーーーーーーい」
「そ、そうなんだ。じゃ、いいよ」
と錬太郎が拗ねたように言うと
「だ か ら 錬太郎は恋ができないんだよ!」
「なんだとーーーーーー!!!」
「おっ、感情が見えてきたよ」
「君は僕をからかってるの?」
「そう思うの?いいわよ。そう思っても♪でも、錬太郎は感情をいつも押し殺してたんでしょ。いまみたいに感情を言葉に出したことあるの?痛いーーとか、やだーーーとか?ある?」
「いや。神様とコイデカに訴えるように言ったのが初めてだったと思う。今みたいに感情的に言葉を出すことなんて無かったかもしれない。うん、無かったと思う」
「でしょー♪トレーニングしなきゃね♪錬太郎」
いつのまにか、女性は"錬太郎"と呼び捨てにしていた。
こうなると是が非でも女性の名前を聴きたくなった錬太郎だったが、どうすれば教えてくれるのか考えつかなかった。
ふと、女性の後ろ姿を眺めると肩から掛けていた小さなバッグに猫のキーホルダーがぶら下がっているのが見えた。
そこに大きな字で
"あかり"と書かれていた。
柔らかな潮の香りのする風が、丘の木々を揺らし始めていた。
つづく

