絶食、過食、下剤乱用を繰り返していたある日、

たまたま見ていたテレビ番組である男性タレントがこんな事を言っていた。


「焼肉を食べ過ぎたときは、水をガーって飲んでトイレで吐くんですよ。

 体型維持のためにね。

 水を飲まないとだめなんですよ。水分がないと吐きづらくってね。」


周囲のゲストたちはみんな「え~!?]と驚いていた。

「そんなこと止めたほうがいいよー。」

「身体壊しちゃうわよ。」

とも言っていた。

きっと、視聴者のほとんどがそう思ったに違いない。


でも、私は違っていた。

男性タレントの言葉を「暗闇に射す一筋の光」のように感じた。


「そうか。こうやって吐けばいいんだ・・・。」


私はすぐに真似をした。

大きなマグカップに5~6杯の水を飲み、トイレに向かった。

便器に向かって前屈みになり、右手の人差し指と中指を喉の奥に突っ込む。

「おえっ・・・おえっ・・・」

と何度か繰り返しているうちに、胃の辺りからこみ上げてくるものがあり、それは嘔吐物となって口から出た。


「苦しいけど、前に吐けなかったときよりは楽かもしれない・・・。」


私は再び喉に指を突っ込み、嘔吐を試みた。

30分ほどトイレにこもっていただろうか。

その間に何度か嘔吐することが出来た。

胃の中の物が多少吐け、パンパンだった胃が少し楽になっていることに気付いた。


「吐けた・・・」


うれしかった。

前はあんなに苦しい思いをしてもちっとも吐けなかったのに、今は吐ける。

あの男性タレントに感謝したいくらいだった。


ただ、嘔吐をすることに罪悪感や後ろめたさがなかったわけではない。

やってはいけないことをしている、という罪悪感があった。

だから私は自分にこう言い聞かせた。


「吐くのは過食したときだけよ。

 ちょっと吐くだけ。

 ほんのちょっと吐くだけなんだから。」


20歳の春、私は吐くことを覚えた。