ニッポン放送の番組に相談のメールが来た。コロナ禍の「事業再構築補助金」の制度を活用し、室内でゴルフ練習を行う、シミュレーションゴルフ店をオープンしたがまったくもうからないという経営者からの焦りの相談だった。

確かに、都心を中心によく看板を見かけるようになった。競合も多く経営は大変だろう。シミュレーションゴルフは事業再構築補助金で一気に増えたとみられる。2021年に40%増えたとされ、補助金開始の時期と重なる。確かに手頃に始められる。しかし本来、資本力が大きい、大手が有利なビジネスだ。

新しいシミュレーターはどんどん出てきて、パチンコ店の新台と同じで、新しければ新しいほど強い「装置産業」だ。経営者の努力で差別化できるビジネスでもない。私個人としては魅力を感じないし、ワタミの文化とも相いれない。最近は街で、冷凍食品の自動販売機も多く見かける。これも飲食店の「業態転換支援金」が影響しているとの見方がある。

しかし、中小企業経営者から期待以上のもうけや、経済効果は伝わってこない。国が税金を使い、長続きしないビジネスを広めている現状があるかもしれず、早急に効果検証が必要だ。補助金は5年間経営を続ければ返済不要だが、事業を2年で畳めば、3年分を返さなければならないという。

ただ、その仕組みも徹底していない。毎年1兆円以上の予算をつぎ込んでいるが、資料を見ると事業スパンを8年や11年、13年でみようとしている。本来、1年、長くとも3年で、売り上げや利益、納税が増えたかの検証をしなければ、PDCA(計画・実行・評価・行動)のサイクルが回せない。

補助金に関する窓口もたくさんあるが、審査が甘いことがいちばんの問題に感じる。税金を投入した補助金でビジネスが失敗すれば、経営者も国庫も損をする「バラマキ損」だ。本来事業資金は、金融機関が審査しリスクをとって融資するものだ。供給過多のゴルフシミュレーションや薄利の自動販売機に、銀行は純粋に融資しただろうか。

私も佐川急便で1年間働いて必死に資本金300万円をためて創業した。本気でシミュレーションゴルフをやりたいなら別だが、安易に補助金を利用して、簡単な業態転換するだけでは経営が甘くなる。政治家や官僚が経営を考えると効果の薄い制度が増えることのあらわれだ。

ワタミには「炭旬」という独立オーナー向けの業態がある。その総本店を新宿に作った。経営の技術を磨き、独立してもらうことを企図し、厳しく経営のノウハウを教えている。

先日、ワタミから独立したフランチャイズオーナーが年収1000万円を達成したと、うれしそうに報告してくれた。直営店の想定を超える売り上げだった。自分の店となれば、1円にもこだわるものだ。政治家や官僚にも、税金に対して1円にこだわる政策を期待したい。 



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より