新国立競技場でも注目される、世界的建築家の隈研吾さんと、今週日曜日に共同記者会見を行った。2021年に岩手県陸前高田市に建設する「ワタミオーガニックランド」の敷地内に、隈研吾さん設計の、野外音楽堂を建設する計画を発表した。国内最大級の最大5万人規模の野外音楽堂で、オーガニックランドのオープンから1年後の2022年春の完成を目指す。陸前高田の新たなシンボルであり一大プロジェクトだ。

なぜ、農業テーマパークに野外音楽堂かといえば「文化の匂い」の必要性を感じたことにある。大物歌手から、市民まで毎週入れ替わりにそのステージに立ち、大勢の観客が芝生の上でその音楽に親しむ。農業という食と、音楽という文化は時代を超える。戸羽太・陸前高田市長も「津波で野外音楽堂が流され、ぜひ市民が集う場所を再びつくってほしい」と依頼された。誰もが立ちたいと思う、憧れのステージを作り、人を呼び続けることが重要と考えた。経営者はこうして「持続経営」の視点でモノを考える。

隈さんに「この地域は人を呼ぶしかない。世界が認める隈研吾の音楽堂を造って頂けませんか」と心を込めて構想を話した。目をつむり、耳を傾け、一言「いいことやっているね。一緒にやろう」と言ってくださった。

隈さんの設計された新国立競技場は、47都道府県の木材が使用され、その木が、生産地の方向を向いている。物語のある、とてもすてきなコンセプトだ。しかも、当初のイギリスの建築家の案より、大幅にコストを抑えて、その物語のある競技場は誕生した。予算を抑えながらも、良いものつくる「本物の仕事」に感銘を受けた。

しかし、新国立競技場以外の、東京五輪の予算面は、ルーズに思える。組織委員会には、経営的な視点が欠き、日本の予算の使い方の象徴だ。

組織委と東京都は昨年12月に、大会開催経費の予算計画第4版で、1兆3500億円を維持するとしたが、約3兆円規模に膨れ上がるとの話も浮上していた。その3兆円は国民の税金だ。20日間だけの“花火”にすぎない。五輪を「日本株式会社が行う事業」という視点を持つことはできなかったのだろうか。3兆円を使い、6兆円の売り上げを上げる視点が必要だが試算すら出てこない。

マラソンもすっきりしない形で、札幌開催で決着したが、私は、2011年の東京都知事選に立候補した際、マラソンは平和を訴え、広島や長崎で実施すべきと提言した。今なら、マラソンは、陸前高田をはじめとする、東日本大震災の被災地で実施すべきと提言したい。

マラソンでは、世界中がその街並みをテレビで見る。被災地で開催すれば、復興の現状も見えてくるだろう。街々にエールを送ることもできる。札幌を2周するより、今の日本には世界に伝えるべきものがあるのではないだろうか。

野外音楽堂が完成するのは2022年。五輪イヤーの今年は決してゴールではない。「日本」という国も「被災地」も、マラソンで例えるなら「走り」続けなければいけない。だからこそ「予算」や「文化」を大切にしていくべきだ。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より