土曜の夜、人込みでにぎわう渋谷の雑踏を抜け、
Bunkamuraオーチャードホール へ行って来た。
アイーダ・ゴメスと彼女の率いるスペイン舞踊団による
「アイーダ・ゴメス カルメン/サロメ」 のBプロを観るためだが、
今日が楽日ということもあってか、Bunkamuraは1F入口辺りからもう、
ざわざわとした熱気に包まれていた。
先日Aプロで、「IBERIA」(2005年カルロス・サウラ監督により映画化)
から組曲とアイーダ・ゴメスの新作「カルメン」を観て来たばかり。
(前回の記事はこちら)
それが非常に良かったので前回にも増して期待して来たわけだが、
周囲を眺めてみると、やはり熱心な観客が多い様子でなんだか嬉しくなる。

さて、今回のBプロは「フラメンコ組曲」と、2004年からの再演となる
「サロメ」
(これもサウラ監督により2002年映画化)である。

「サロメ」もまた、非常にドラマティックで好きな題材のひとつだ。
サロメはカルメンとともに情熱的な恋に身を投じる女のイメージだが、
ゴメス演じるサロメはまるでガラス細工のような繊細さを感じさせる。
知ってしまった母の不貞、義父の好色な眼差し…。
宮廷に居場所を失い、彼女の情熱は行き場を求めて内へ内へと向かってゆく。
ためらうことなく人生を謳歌し、感情の趣くまま死をも恐れぬ
カルメンの情熱とは、それは対極のものとして表現されている。
宮廷でひとり心細げな様子や、牢獄のヨハネに想いを寄せ、
恋する喜びに身を震わせる様子など実に美しく、少女のように可憐でさえある。
しかしながら、彼女の揺れる心をなぞり波のようにうねりを繰り返す身体は、
彼女の纏う深紅の衣装とともに、その内に秘められた情熱を体現する。
前回の「カルメン」同様、ゴメスの衣装へのこだわりはなかなかのものだ。
この深紅のドレスが、後半ヨハネの拒絶によって
愛を憎しみへと転化させてゆく場面で、次第に激しくなる動きで大きく翻り、
まさしく燃えさかる炎のように見えるのだ。
しかも一旦吹き出すと、その情熱の炎は彼女ばかりか周りのすべてを
焼き尽くす勢いで物語を悲劇的な結末へと追い立ててゆくことになる。

この辺りから有名な見せ場のひとつである”7つのベールの踊り”、
ヨハネの斬首からサロメの狂死へと、
次第に加速度を増してゆく舞台に目が離せなくなった。

あれほど恋い焦がれ求めてやまなかったヨハネを手に入れた瞬間、
彼女は永遠に彼を失ってしまったわけである。
自らの情熱に身を滅ぼした悲劇の女の姿を、舞台の上で彼女そのものとして
生きるように演じてみせたゴメスは本当に素晴らしかった。


カーテンコールではまたもや拍手が鳴りやまず、
ゴメスはほかのダンサーたちと何度も登場し、挨拶をしてくれた。
舞台上から笑顔を送りながら、客席のひとりひとりを見回すように
視線を合わせてゆく。達成感が伝わってきた。
拍手とともに歓声があがった。
瞬間、彼女の大きな瞳にキラリと光るものが見え胸が熱くなる。
観客もまた、舞台をつくる一員なのだという幸福な実感を久しぶりに味わった。


個人的には再演を重ねている「サロメ」の方がより好きだが、
機会があれば彼女とスペイン舞踊団の公演はまた観に来たいと思う。
昨日観たばかりで、もう次回を望むのは性急すぎるだろうか…。



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【映画化作品】
ポニーキャニオン
サロメ