「伝承」(再掲)

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          「伝承」

 

谷があり
                                                          山がある
                                                  そんな異郷の奥深くで
                                                    真珠売りの老婆に
                                                      逢わなかったか
 
                                                       逢わなかった
                                                     そんな老婆には
                                                  それに 風も吹かない
                                                        峠のあたり
                                               ひとの来られるはずもない
                                                    青い草ぐさを揺らし
                                                乾いた清水を産むものが
                                                  土に眠っているだけだ
                                                           だから
                                                     老婆のすがたは
                                                         ここにない
 
                                                    谷と峰のかたちを
                                               つまさきでなぞったものは
                                                        いたらしい
                                                         光る海の
                                              かけらをあかい つちくれに
                                                    すり替えるものの
                                             曲った背中を見たことはある
                                               と若い農婦は語ってくれた
 
                        ★
 
 若いころチベット仏教や、その周辺の民俗学に凝っていたその名残りのようだ。
 あらんみらさんブログにペルーのシャーマンたちの展示&パフォーマンスの記事を見て、ふとこの詩のことを思い出してしまった。かれらもまた、かわいた谷と山のただなかで、真珠売りの老婆を見ているはずだ。
 1998年ごろ
 
                                           【笑い仮面】