警察庁の提言に対し「正当性なく、むしろ事故増える」
 
2013年1月29日 日本精神神経学会  カテゴリ: 精神科疾患・神経内科疾患・脳神経外科疾患

 日本精神神経学会の武田雅俊理事長は、警察庁の有識者検討会が出した「一定の症状を呈する病気等に係る運転免許制度の在り方に関する提言」に対し、「学会の意見を無視した、正当性のないもの」と強く批判する声明を1月19日付けで発表した。全文を学会ホームページで読むことができる。

 警察庁の検討会は2012年10月に、てんかん、統合失調症、躁うつ病などを「一定の症状を呈する病気等」と称し、「罹患の疑いが客観的事実により認められる場合には、運転免許を暫定的に停止すべき」という方向性を打ち出していた。

 これに学会は猛反発。警察庁による提言発表前の9月に学会が出した意見も無視されていると不満を表し、今回、声明の発表に踏み切った。学会は「医学的根拠がない。病気を有することのみで免許を奪う方向に極端に傾斜している」と指摘。この指針の根拠となったデータの不備や解釈について問題提起している。

 個々の医師にとっても重大事だ。警察庁の提言では「医師が自らの判断で運転に支障がある患者を任意に届けられる仕組みが必要」と求めている。学会はこの提案について「医師が届けても届けなくても民事上の責任を問われかねない」と反対する。まず届けた場合は、守秘義務違反の問題がある。提言で打ち出している免責は刑事のみで、民事に関しての保証はない。半面、届けなかった場合に事故があれば、医師は「なぜ届けていなかったのか」と責任を問われる可能性がある。患者が事故を引き起こす可能性をめぐって不確定要素が多い以上、医師の届け出制度は受け入れられないという立場を学会は取る。

 ほかにも、提言では患者が症状を偽って申告していた場合(虚偽申告)の罰則整備も挙げている。これに対し学会は、精神科への受診拒否を深刻化させ、かえって交通事故のリスクを高めると説明。本当に運転がふさわしくない急性精神病状態にある者は、入院などの処置が取られることが多く、罰則自体に有効性があるかどうかは疑問があると解説している。

 学会は、提言が示したデータを基に、「事故を起こすリスクが高いのは、安定した治療関係を持たない患者だろう」と推察。医師―患者関係に不信を持ち込み、治療から遠ざけかねない提言に、学会は真っ向から反対する姿勢だ。