「産婦人科医療改革 公開フォーラム」開催
2013年1月28日 池田宏之(m3.com編集部) 

 日本産科婦人科学会などが主催した2012年度「拡大医療改革委員会」兼「産婦人科医療改革 公開フォーラム」が1月27日、都内で開かれ、産婦人科の志望医師が再び減少に転じていることや、常勤医師の中で妊娠・育児中の女性医師の割合が増加して、負担減につながりにくくなっている状況が報告され、改善に向けた産婦人科医の集約化や医療提供体制を客観的に評価する方法などについて議論があった。

  北里大学医学部産科学教授の海野信也氏は、産婦人科医師数の最新概要を報告。同学会の入会者数は、2007年度以降毎年50人前後増加していたが、2011年度は450人で、前年度から41人減少。2012年度は、前期の入会者が、2011年度から32人減り、年間では2011年度を大幅に下回る可能性が高くなっており、海野氏は「2013年度は、さらに減るのではないか」と危機感を示した。都道府県別に、主たる診療科が産婦人科・産科の医師数を2010年度と2006年度を比較すると、増加分は東京、大阪、神奈川、埼玉で約60%を占め、東北・四国・九州を中心に13県では減少していた。
 
 また、同学会の認定指導施設に実施しているアンケートでは、「自施設の産婦人科の状況が悪化している」とした施設が、2012年度は2011年度より増加し、海野氏は「昨年までは産婦人科を取り巻く状況は『停滞局面』だったが、状況はより厳しくなり『後退している』と言える」と話した。
 
 同学会勤務医委員会の関口敦子氏(日本医科大学多摩永山病院)は、産婦人科勤務医の実態を報告した。2012年度の1施設当たりの医師数は6.0人で、2007年度より1.5人増加している一方、医師一人当たりの年間分娩数も83.6件で、2011年度と比べ約15件減っていることを紹介。ただ、月当たりの在院時間の平均は約300時間で、過労死の認定基準となる256時間をいまだ超えている。原因として、男性医師や妊娠・育児を抱えていない女性医師の数は横ばいのままにも関わらず、妊娠・育児中の女性医師は2008年度と比べて2倍を超える934人になっていることに注目し、「現場の勤務医の負担は減っていない」と分析した。
 
 さらに、女性医師のうち12.7%が、分娩取扱病院における常勤先を持たない非常勤医師(フリー医師)で、男性の2.5倍の割合。フリー医師のうち、48%が、東京・神奈川・千葉・愛知・大阪に偏在しており、勤務条件の改善などについて、関口氏は「大都市圏での働きかけを考えなくてはいけない」と指摘し、勤務条件を緩和して昼間の常勤を継続してもらう施策を提案した。
 
産科医は4600人で足りる?!
 
 神奈川大経済学部准教授の小川浩氏は、「周産期医師の受給推計」の独自の試算結果を紹介した。医師不足の解決策については、仮に全ての分娩を帝王切開により予定手術で対応するとした場合、産科医は4600人程度足りるとの試算を示し、小川氏は「全て帝王切開は現実的でない。議論をするに当たって、まずどのような医療を提供するかを定義しないといけない」と在るべき体制の議論を進める必要性を訴えた。
 
 供給側の問題としては、就業パターンとして勤務時間帯を8時から18時とする働き方を導入し、妊娠・育児中の女性医師が対応できるとした場合、医師数は現在の約6300人から、2040年には7500人弱となるとの試算を示し、「就業パターンが変化すれば、女性医師の割合が増えても、産科医の数は増加する。早く手を打てば、それだけ効果が期待できる」とした。需要側の問題としては、小川氏は、ユニバーサルサービスではなく、病院を地域の1カ所に集中させた上で、住民も医療にアクセスしやすい場所に住んでもらう「コンパクトシティ」の考え方を披露した上で、分娩の集約化を提案した。ただ、小川氏は「地域ごとに人口密度等の事情が違うため、集約化の取り組みは全国一律で考えることはできない」と注意を促した。
 
 亀田総合病院総合周産期母子医療センター長の鈴木真氏は、医療提供体制の評価基準について講演。物的資源や人的資源の「構造」、診断や治療、患者教育等の「過程」と「結果」の三つがあると指摘。その上で現在の問題点として「過程や結果の評価を、医学的にコンバインできていない。全てを見て、指標評価を明らかにして、改善を考える必要性がある」とした。そのほか、産婦人科医を確保する各地域の取り組み事例として、低リスクから高リスクまで幅広い症例ができることを魅力として訴える埼玉県、卒後30年以上経過した女性医師による若手女性医師や医学生向けのアドバイスや保育園の優先的な利用に取り組んでいる兵庫県のケースが報告された。
 
 総合討論では、人口30万人以上を抱える地域でも、分娩施設を1カ所に集約したアイスランドの取り組みが紹介されたほか、参加者からは「集約化は、全国で進める必要がある。地方ばかりでなく、東京や大阪周辺で取り組みを率先してやらないといけないのではないか」(北海道の医師)、「産婦人科医の仕事の魅力は伝わっていると思うが、職業として選択されていない。妊娠中や子育て中の医師向けの専門医を確立して、学会が枠組みとして提供した方が良い」(愛知の医師)という意見が出た。