専門家の意見は

 韓米ミサイル指針の改正交渉で韓国政府が、弾道ミサイルの射程延長を要求する一方で、弾頭重量については当初から問題提起もしていなかったことが分かった。これは「現在の弾頭重量500キログラムがあれば、十分な効果を挙げられる」という韓国政府の判断によるものだ。しかしミサイルの専門家の多くは「弾頭重量500キログラムでは不十分」と語り、韓国政府の交渉内容に疑問を投げ掛けた。


■韓国政府「精度・破壊力の技術が向上、威力は十分」


 韓国の弾道ミサイルの弾頭重量は、1979年に初めて韓米ミサイル指針が制定されたときから、500キログラムに制限されてきた。「500キログラム」という重さは、米国と旧ソ連が核削減交渉を行った当時に話し合われた象徴的な数値で、当時の技術では500キログラム以下の核弾頭は開発不可能だった。2001年の韓米ミサイル指針第1次改正で、射程距離の制限は180キロメートルから300キロメートルに延長されたが、弾頭重量は依然として500キログラムに抑えられた。韓国政府の関係者は「それくらい(500キロ)の重量があれば、(弾頭技術や爆薬の性能など)科学技術の発達により、バンカーバスターといえるだけの威力を発揮できる」と語った。また、国策研究機関のある研究員は「弾道ミサイルは、基本的には弾頭が自由落下するミサイルのことを指すが、最近は衛星利用測位システム(GPS)など最新の誘導装置などを取り付け、精度が高まっている」と語った。


■「射程延長なら精度は低下…GPS妨害にも弱い」


 これに対し、ミサイルの専門家の多くは「弾頭重量500キロは、最小限の必要条件であって、決して十分条件ではない」と反論した。韓国科学技術院(KAIST)航空宇宙工学科の権世震(クォン・セジン)教授は「弾道ミサイルの射程距離が300キロメートルから800キロメートル以上に伸びれば、精度は半分程度に下がる。核弾頭を持たない韓国は、弾道ミサイルの破壊力を維持するために、少なくとも1トン以上の弾頭重量を確保すべき」と語った。


 GPSの電波を妨害できる「GPSジャミング」技術を北朝鮮が確保したことも、弾頭重量の増加が必要な根拠に挙げられる。現在の韓国のミサイルは、軍用GPSではなく、電波妨害に弱い商用GPSを使用しているとされる。弾道ミサイルのGPSが妨害を受けて機能を発揮できなければ、目標を正確に破壊できないため、より大きな破壊力が要求される。

 
かつて国防科学研究所(ADD)に勤務していたチョン・ギュス博士は「弾道ミサイルの経済性を考慮すると、500キログラムでは不十分。弾頭重量1トンなら1発で破壊できる目標物に対し、高価な弾道ミサイルを2発以上撃たなければならないかもしれない」と語った。弾道ミサイルは、少なくとも1発数十億ウォン(10億ウォン=約7000万円)する。


■「弾頭重量を減らし射程を伸ばすことを米側が懸念」


 米国は交渉の初期段階から、韓国の弾道ミサイルの弾頭重量制限を500キログラム以上に増やすことに反対してきたといわれる。あるミサイルの専門家は「射程800キロメートル、弾頭重量1トンの弾道ミサイル開発技術を確保すれば、弾頭重量を減らして射程距離を800キロ以上に伸ばすことは、技術的に十分可能。米国がこれを警戒しているため、韓国は交渉で初めから弾頭重量問題を持ち出さなかったと推定される」と語った。射程距離1000キロメートル程度の弾道ミサイル技術を確保するということは、すなわち中国の北京や日本の東京を射程内に収められるということを意味する。一方の中国は、射程距離1万3000キロメートル・弾頭重量3トンの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有している。また日本は、ICBMに転用できる3段式の固体ロケットを保有しており、このロケットには2トン以上の弾頭が搭載できると推定されている。


■バンカーバスターとは


 コンクリートのような堅固な構造物や地下施設に隠されている目標を攻撃するための爆弾。着弾すると1次爆薬が爆発してコンクリートや地盤を破壊し、地下に潜り込んで2次爆薬が爆発する。このため、爆弾と爆薬の重さはかなりのものだ。コンクリートを65メートルも貫通できる米国のバンカーバスター「GBU57/B(MOP)」の重量は13.6トンもあり、爆薬の重さだけでも2.4トンに達する。


■GPSジャミングとは


 弾道ミサイルや巡航ミサイルは、衛星から送られる信号を受信して現在位置を計算し目標を探すGPSを搭載し、精度を高めている。各国の軍隊は、敵軍が放ったミサイルが衛星信号を受信することができなくなるよう、妨害電波などを発信する。これを「GPSジャミング」と呼ぶ。


チョン・ヒョンソク記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版