「大型サイド」マイナンバー法案
共同通信社 8月22日(水) 配信


 国民に番号を割り振って納税や年金の情報を管理するマイナンバー法案が今国会の残る焦点の一つになっている。消費税増税が柱の社会保障と税の一体改革は低所得者対策にこの番号を使うことを視野に入れており、民主、自民、公明3党は7月、法案修正に大筋合意。だが衆院解散をめぐる対立のあおりで成立への道筋はなおも見えない。

 その間も政府は、行政手続き簡略化や、別番号で個人医療情報も管理できるマイナンバーの利点をアピールしているが、情報流出への懸念がぬぐい切れていない。

 ▽一体改革の前提

 「一日も早く審議し成立させていただきたい」。一体改革関連法が成立した10日。古川元久国家戦略担当相はマイナンバー法案の重要性を訴えた。

 マイナンバーは、2015年1月から番号カードを住民票がある個人に配り、利用開始する計画だ。米国やスウェーデンで先例があり、日本でも自民党政権時代の1980年に「グリーンカード制度」の法律が成立したが、所得把握を含む国の監視強化に反発が強まり、実施前に廃止された。

 ところが07年、年金保険料を納めたのに旧社会保険庁に記録が残っていないなどの問題が発覚。これが転職を重ねても年金記録を管理しやすいマイナンバー導入を後押しした。今回は国会で圧倒的多数の民自公3党が賛成の立場で「グリーンカードには慎重だった日本商工会議所も推進側だ」(政府関係者)と政府側はリベンジに燃える。

 消費税増税の緩衝材としての役割も加わった。低所得者が納めた所得税を払い戻したり、現金を支給したりする「給付付き税額控除」、医療や介護を合わせた世帯ごとの自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」もマイナンバーが前提だ。

 さらに東日本大震災を機に、災害時の医療体制を支える側面がクローズアップされている。

 ▽災害医療で期待

 「先生、糖尿病の薬をください」。11年の大震災発生直後、医療支援で宮城県沿岸部へ入った中国地方の男性医師は、患者にすれば、ごく当たり前の要求かもしれない、その言葉に戸惑った。

 カルテは津波で流され、検査機器も海水をかぶって使えない。適切でない薬を渡せば命に関わるため確かめる方法がない以上、「薬は出せません」と言うしかなかった。

 個人ごとの番号を医療情報と結び付けて管理すれば、かかりつけの病院が被災しても、別の医療機関が投薬情報や持病を確認できるようになる。

 ただ多くの行政機関や企業が利用するマイナンバーに医療情報を直結させるとプライバシー流出の可能性が高まる。そこで政府はマイナンバーとは別の、限られた人だけがアクセスできる番号で医療情報を管理するため新たな法案を来年の通常国会に提出する方針だ。

 ▽立ち入り検査も

 マイナンバー法案は情報漏えい防止のため、国や自治体へ立ち入り検査できる権限を第三者機関に付与。漏えいに関わった行政職員らには4年以下の懲役を科す。

 それでも心配の声は残る。日本弁護士連合会情報問題対策委員長の清水勉弁護士は「情報にアクセスできる人間が多くなるほど流出、漏えいの危険は高まる」と警鐘を鳴らす。公務員らのモラルが完全ではない以上、プライバシー侵害の危険と背中合わせの制度となるのは避けられない。