2012.6.10 03:04

 東京電力の原発再稼働の是非を問う住民投票条例案が東京都議会に提案された。週明けにも実質審議が始まる。だが、国の基盤エネルギーである原発の命運を住民投票に委ねること自体、大きな問題がある。議会には適切な判断を求めたい。

 条例案は、有権者の50分の1の署名で首長に条例制定を直接請求できるとした地方自治法の規定に基づいて提案された。市民団体の「みんなで決めよう『原発』国民投票」が呼びかけ、必要数を超す約32万人の署名を集めた。条例案は、この団体が請求時に提出したものだ。

 だが、その内容には首をかしげざるを得ない。まず、投票権を都内に住む16歳以上の日本人と永住外国人に与えるとしたことだ。

 選挙権は20歳以上の日本人とする現行法を無視していることに加え、対象を外国人に広げるのは、外国人の地方参政権容認につながる。事実上の国策の判断を外国人に委ねかねない。

 知事や議会に対し、「投票結果を尊重するよう努める」と求めた条項があることも懸念される。投票結果に法的な拘束力はないが、「民意」を盾に自治体の公正な判断が妨げられる恐れがある。

 そもそも、条例案が対象にする原発はすべて東京都の外にある。都内で使用される電力は、約8割を原発立地地域など外部に依存している。「都民の投票」は、電力を供給してきた地域の暮らしだけでなく、東電管内の他の8県、さらには全国の電力調達にも影響することを忘れてはならない。

  電力供給が滞れば、企業の生産活動から日常生活まで、広範な分野に影響が及ぶ。電力政策は、国家的見地から複雑な利害を調整して進めるべき基本政策で、住民投票には本来なじまない。

 同種の条例案は大阪市議会にも提案されたが、3月に否決されている。静岡県でも提案の動きがある。都議会も、最大会派の民主党が条件付きながら賛成の方向を打ち出しているのは問題である。

 条例案提出時に石原慎太郎知事は「ただ観念的に原発の是非のみを問い、結果が錦の御旗(みはた)のごとく力を持つならば、国を滅ぼすことにもなりかねない」と述べ、反対意見書を添付した。当然だ。

 住民投票に代表される直接民主制は、あくまで代表民主制の基本を補完する手段にすぎない。そのことをあらためて銘記したい。

(msn産経ニュース)