「反論したい」、産科医療補償制度で岡井氏
2012年05月15日

 「相当多くの点で反論したい。間違っている指摘、特に思い込みの部分もある。ぜひ公開討論会をすべての医療関係者の前でやりたい」

 5月12日のNPO法人医療制度研究会の講演会「障害の補償か過失の判定か、産科医療補償制度の本質を議論する」で、こう発言したのは、産科医療補償制度の運営委員会副委員長を務める昭和大学産婦人科主任教授の岡井崇氏(講演会の記事は、『「無過失だけ補償制度」、産科医療補償制度を批判』※1)。

 同講演会では、m3.comでも先週からインタビューをお届けしている(『産科医療補償制度、訴訟の増加を招く』を参照※2)、池下レディースチャイルドクリニック院長の池下久弥氏が「本制度のために産科医療が崩壊する - 現場の声」というテーマで講演しました。それに対し、フロアから岡井氏が発言したわけです。ただ、十分な質疑応答の時間はなかったため、7月に岡井氏と池下氏を中心に、討論会を開催することが決定。

 産科医療補償制度は2009年1月からスタート、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺の子供に対し、補償する制度。補償金は、3000万円。

 講演会では、井上法律事務所の弁護士、井上清成氏も、「産科医療補償制度は、『無過失補償制度』ではなく、『無過失だけ補償制度』」と批判しています。井上氏は、「真の無過失補償制度」とは、過失・無過失を問わず、補償を行う制度であり、原因分析や再発防止は無過失補償制度とはリンクさせない仕組みであるとしています。原因などを問わず、「不幸な結果」が生じた場合に、それを社会で広く支え合うという考えがその根底にはあります。

 現行の産科医療補償制度は、保護者側が、裁判などで損害賠償金を得た場合には、補償金は同制度に返還する仕組み。補償対象になった事例については、原因分析・再発防止が検討されます。保護者側がその原因分析報告書を、鑑定書の代わりとして活用し、損害賠償を請求する事例も見られます。さらに当初、年間800件の補償対象を想定して保険料が設定されましたが、現時点では年間200件にも満たない状況。補償請求は子供の満5歳の誕生日まで可能なため、今後増えますが、それでも800件には至らず、多額の余剰金が生じる可能性も指摘されています。

 昨日(5月14日)、「第2回再発防止に関する報告書」が公表されました(『重度脳性麻痺、3割弱は原因特定できず』を参照)。これは2011年12月末までに原因分析報告書が作成された、79例について再発防止の観点から分析したもので、再発防止委員会委員長の池ノ上克氏は、「事例の蓄積が、脳性麻痺の発症に関するわが国の特徴や新たな知見を見い出すことになる。再発防止ができる点については広く公表し、防げるものは防ぎ、産科医療の質の向上を目指したい」と語っています。

 確かに、この再発防止報告書だけを見れば、詳細な分析がなされ、産科医療の向上につながることが期待されます。しかし、井上氏、池下氏らは、原因分析・再発防止が、個々の事例の補償とセットで実施されるため、私的制裁の性格を持つ点を問題視しています。

※1

「無過失だけ補償制度」、産科医療補償制度を批判

医療制度研究会で井上弁護士、行政処分との連動も懸念

2012年5月14日 橋本佳子(m3.com編集長)


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 5月12日に開催されたNPO法人医療制度研究会の講演会「障害の補償か過失の判定か、産科医療補償制度の本質を議論する」で、井上法律事務所の井上清成氏が「産科医療補償制度は私的制裁であり私的裁判である―医療事故調の誤った実際例」、池下レディースチャイルドクリニック院長の池下久弥氏が「本制度のために産科医療が崩壊する―現場の声」と題してそれぞれ講演。また東京都助産師会専務理事を務めていた松が丘助産院の宗祥子氏が指定発言した。弁護士、産婦人科医、助産師それぞれの立場から、3人は異口同音に現行の産科医療補償制度の問題点を指摘、制度改正の必要性を訴えた。

 特に池下氏の発言に対し、フロアから、産科医療補償制度の運営委員会副委員長を務める昭和大学産婦人科主任教授の岡井崇氏が反論する場面もあり、講演会は興味深い展開となった。

 “医療事故調”議論との関連に注目

 「産科医療補償制度は、『無過失補償制度』ではなく、『無過失だけ補償制度』」

 こう興味深い形容をしたのは井上氏。「同制度が責任追及を目的としていたかどうかが問題ではなく、責任追及という結果が現に生じてしまっており、私的制裁の結果をもたらしている」と批判。さらに、「今後、厚生労働省は、行政処分の情報源として、産科医療補償制度を活用することも想定し得る」という見方も示した。


井上法律事務所の井上清成氏。
 産科医療補償制度は、重度脳性麻痺の子供への補償だけでなく、個々の事例について原因分析報告書が作成され、複数の事例から導き出される教訓などを再発防止に関する報告書としてまとめている。これらの検討に当たっては、ガイドラインに準拠しているか否かが評価基準になっており、原因分析報告書は個人情報を伏せた上で、日本医療機能評価機構のホームページで要約が公開されるほか、全文も研究目的などで請求することが可能。

 原因分析報告書を基に、保護者側が損害賠償請求のため、民事訴訟、調停、示談などに訴えることもある。その結果、分娩機関から損害賠償金が支払われる場合、産科医療補償制度の補償金は返還を求められる。つまり、補償金と損害賠償金を重複して受け取ることはできない仕組みになっている。井上氏が「無過失だけ補償制度」と呼ぶのはこのような理由からだ。井上氏が考える「真の無過失補償制度」とは、患者の全面救済と訴訟・紛争の防止を目指し、過失・無過失を問わず、補償を行う制度であり、原因分析や再発防止は無過失補償制度とはリンクさせない仕組みだ。

 さらに、産科医療補償制度は、「調整委員会」を持ち、分娩機関に「重大な過失」が認められた場合には、いったん補償金を支払った場合にも、その返還を求める機能を有する。この点が、「私的制裁」に該当する。また厚労省の医師への行政処分は原則、刑事処分された事例を対象に行われる。従来、それ以外の行政処分がほとんど行われなかったのは情報がなかったからであり、「行政処分は、きちんとした情報を基に行う必要がある。原因分析報告書は公開されており、これを使うことは可能」(井上氏)。そのほか井上氏は、補償金の支払いが現時点では想定よりも少ないことから、日本医療機能評価機構と保険会社に余剰金が生じている点なども問題視した。

 井上氏が産科医療補償制度を注目しているのは、“医療事故調”の側面を持っているからだ。同制度には、厚労省の“医療事故調”の2008年の第三次試案、大綱案の発想がかなりスライドしているところがあるという。現在、厚労省で改めて“医療事故調”が議論されている(『院内事故調査の現状認識、医療者と患者で差』を参照)。「抽象論ではなく、産科の実例を基に、“医療事故調”がどうあるべきか、無過失補償制度を産科だけでなく全科に拡大するのか、拡大するのであれば、どんな制度にすべきなのかを検討すべき」と井上氏は問いかけた。

 産科医療補償制度については、4月18日の厚労省社会保障審議会医療保険部会でも議題になり、委員から議論を求める声が上がっている(『レセプト審査、支払基金、国保連の統合は可能か?』を参照)。井上氏も同部会の出産育児一時金の専門委員を務める立場から、この5月、同部会での議論を求める請求書を厚労省に提出している。

 「訴訟100件の根拠は何か」、岡井氏


池下レディースチャイルドクリニック院長の池下久弥氏
 池下氏は、「産科医療補償制度は、産科医療の崩壊を一刻も早く阻止する目的でスタートしたが、全く逆の方向に行っている。産科医がいなくなったら、日本の少子化を防げない」と指摘して持論を展開、井上氏と同様に、補償と責任追及がセットになっている点や、本制度を運用する日本医療機能評価機構と保険会社に多額の余剰金が生じている点などを問題視(『産科医療補償制度、訴訟の増加を招く』を参照)。「この制度を産科医にも、妊婦にとっても、いい制度にすることができる」と、制度の改正を訴えた。

 池下氏の発言に、フロアから反論したのが、岡井氏。「相当多くの点で反論したい。間違っている指摘、特に思い込みの部分もある。ぜひ公開討論会をすべての医療関係者の前でやりたい」と前置きした上で、主に2点について質問。

 一つは、池下氏が年間200弱の補償対象者のうち、約100人は訴訟などにより損害賠償を請求すると予想した点を問題視、「何を根拠に言っているのか」と質した。池下氏は、提訴などまでには準備に時間がかかる点を踏まえた推計であると説明。


産科医療補償制度の運営委員会副委員長を務める昭和大学産婦人科主任教授の岡井崇氏。
 これに対し、岡井氏は、日本医療機能評価機構が実施した、産科医療補償制度で補償事例を経験した医師へのアンケートで、「94.6%の医師が原因分析報告書に納得している」などの結果だったことを説明、「裁判になるまで、5年、10年経って、『こうした数字が出ました。だからこうだ』と言うなら分かる」と指摘、推定ではなく、データを基に議論すべきだと主張した。

 岡井氏が言及したアンケートは、日本医療機能評価機構が、2010年に原因分析報告書を送付した20事例の分娩機関(搬送元分娩機関4施設を含む)と保護者を対象に実施(日本医療機能評価機構のホームページPDF:3.16MBの20ページを参照)。分娩機関調査では、24施設中17施設が回答(回答率70%)。「原因分析報告書の内容について納得できたか」との質問に、「とても納得できた」と「だいたい納得できた」の回答の合計は94%。「原因分析が行われたことは良かったか」との質問には、「とても良かった」と「まあまあ良かった」の回答の合計は76%だった。

 さらに岡井氏は、「医療不信が起きている状況の中で、脳性麻痺という大変残念な結果が起きた場合、『3000万円補償しますから、後はもう何も言わないで黙ってください』というわけにはいかない。家族は原因は何か、防げたものであるなら、どうやったら防げるのかを知りたいと考える。原因分析を切り離して、お金だけ払うことをこの社会は認めてくれない」と述べ、補償と原因分析はあくまでセットで実施する必要性を強調。

 両者のやり取りが続いたが、時間がなく議論を尽くせず、医療制度研究会は急きょ、この7月にも改めて池下氏と岡井氏を中心にシンポジウムを開催する方針を決定した。

 助産院での自然分娩が難しくなる懸念


松が丘助産院の宗祥子氏。
 宗氏は、自然分娩を心がけているため、各種モニターを装着していないなど、助産院の現状を説明。「正常と異常の境目は非常難しく、突然、正常から異常になる分娩がある。こうした場合、産科医療補償制度が助けてくれるのかというとその逆。異常になった場合、モニターをずっと付けていなかったために過失とされる懸念がある」と語る宗氏。

 その上で、宗氏は、「助産師のランクは、社会的に低く見られているが、楽しい仕事なので、続けている。しかし、いつまで続けられるのだろう、といつも思っている。私自身が、産科医療補償制度の補償対象の事例を経験したら、助産院を続けていくだけの強い気持ちを持ち続けることは厳しい」と不安な心境を吐露した。

http://www.m3.com/iryoIshin/article/152761/

※2産科医療補償制度、訴訟の増加を招く - 池下久弥・産科中小施設研究会世話人に聞く◆Vol.1

補償と原因分析がセット、制度設計に問題あり

2012年5月11日 聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)

 「我々分娩機関が支払う保険料が、制度設計ミスのために、280億円もの余剰金を発生させている。医師のみに不当な本制度の民主主義に適う改革案を要望したい」。全国330の産科施設で組織する、産科中小施設研究会は4月10日、産科医療補償制度の改善を求め、日本医療機能評価機構に要望書を提出した。要望内容は、(1)カルテ等の提出は不要、(2)補償と原因分析を明確に分ける、など7項目。
 2009年1月にスタートした産科医療補償制度は、5年をメドに見直すこととされ、現在、その検討が進められている。折しも、厚生労働省では、産科領域以外にも無過失補償制度の対象を広げることを目指し、検討を進めている。
 産科中小施設研究会の世話人を務める、池下レディースチャイルドクリニック(東京都江戸川区)院長の池下久弥氏に、現行の産科医療補償制度の問題点をお聞きした(2012年4月6日にインタビュー。その後、池下氏らが行った4月10日の機構との懇談内容も補足。計3回の連載)。


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――先生は、産科医療補償制度を強く問題視しています。その背景をお聞かせください。

 この制度を運営しているのは、日本医療機能評価機構ですが、彼らは医療の現場を知らない。こんな制度を運用していたら、現場で何が起きるかを想像できない。私が一番心配していたのは、医師の自殺あるいは自殺未遂。そして、訴訟の増加です。

 昨年、ある地域で産婦人科医が自殺未遂し、閉院した。産科医療補償制度と関係するかどうかは分かりませんが、我々産科医院はギリギリのところで仕事をしているのです。経済的にもギリギリな中、24時間体制でやっている。

 産婦人科医は約1万人。そのうち産科診療所で分娩に携わっているのが約2000人。産科診療所は約1700カ所なので、ほとんどが一人でやっていることになります。これに対し、病院で分娩に携わっているのが、3000~4000人と言われている。年間の分娩数は、病院と診療所がほぼ1対1。病院はハイリスクの妊婦も扱っていることもあり、医師一人当たりの分娩数は診療所の方が2倍くらい多い。

 産科診療所は、2009年10月に導入された出産育児一時金の直接支払制度でダメージを受け、閉院したところも結構あります(『社保審で8月末までに結論、出産育児一時金等直接支払制度』を参照)。加えて、産科医療補償制度で、精神的なダメージを受けている先生や助産師さんは多い。


池下久弥氏は、産科医療補償制度の資料を詳細に分析、様々な場で同制度の問題提起をしている。

――今の自殺未遂の例は、本制度が直接的な原因なのでしょうか。

 それは分かりません。もう閉院していますし、気の毒で聞けない。経済的なことが原因かもしれませんが、各地から聞こえてくるのは、産科診療所の厳しい現状です。

 私の知っている小産院では、院長が不在だった際、助産師さんたちが取り上げた赤ちゃんが脳性麻痺だった。助産師さんには非常にきめ細やかな人が多く、分娩前から分娩後まで、本当に丁寧に診ています。恐らくこの赤ちゃんは不可抗力だった。

 年間の分娩数が約100万の日本では、脳性麻痺の赤ちゃんが年間200人くらい生まれます。偶然、その赤ちゃんに遭遇したわけですが、助産師さんたちは、責任を感じてものすごく心を病んでしまった。そうしたところに、日本医療機能評価機構から容赦なく、「原因分析報告書」作成のために、勤務体制に関する書類など、様々な書類の提出を求められた。「この日に、誰がオンコールなのか」などの事実と、脳性麻痺の発症には関係あるはずがない。産科医療補償制度の第一の問題は、この「原因分析報告書」です。

――産科医療補償制度は、分娩機関からの書類等を基に、補償審査を行う。さらに、補償対象となる全事例について原因分析を実施し、「原因分析報告書」を作成、それを分娩機関および児・保護者にフィードバックする。さらに個々の事例を体系的に整理し、再発防止の観点からも検討する仕組みになっています(産科医療補償制度の仕組みは、日本医療機能評価機構のホームページを参照)。その際の提出書類は、あらかじめ決まっているのでは。

 補償の認定を請求する時は、約款上、(1)認定請求書、(2)診療録または助産録および検査データの写し、(3)出生証明書、(4)補償の対象基準を満たすことを証明する書類、(5)医賠責保険の保険証券またはその写し、(5)その他、運営組織が必要と認めた書類、と定められています。また分娩機関と日本医療機能評価機構との間で交わす、「産科医療補償制度加入規約」では、原因分析委員会から、資料の提出が求められた時は、分娩施設は資料を提出する規定になっていますが、実際には補償に使用される資料がそのまま流用されています。

 また例えば、(5)の「その他」で何を要求してくるかは、請求者によって異なるようです。医師の経験年数やその施設の分娩数、母体搬送件数など、微に入り、細に入り、求められることも多い。「この医院には、スタッフは何人くらいいるのか」「緊急の帝王切開は、どのくらいの時間で対応できるのか」なども聞かれますが、これらは脳性麻痺の認定と何の関係があるのか。一方で、妊婦さんがタバコを吸っているとか、どれくらい体重が増えたのかなどのデータは求めない。

 何を資料として使うか、またその取り扱いにも問題がありますが、要するに、「原因分析報告書」は、業務分析報告書なのです。裁判の鑑定書と言い換えてもいい。

――脳性麻痺は、その原因の同定が難しいからこそ、産科医療補償制度ができたと理解しています。

 その通りです。今年4月6日の「産科医療補償制度運営委員会」で、ヒアリングに呼ばれた日本産婦人科医会会長の寺尾俊彦先生が、資料を提出しています(Developmental Medicine and Child Neurology.1995.37.285-292.日母医報(1999年11月1日)など。機構のホームページPDF:3.3MBを参照)。寺尾先生がこの資料を運営委員会に提出したのは、「2歳以降でMRIを実施すれば、脳性麻痺の発生要因を同定しやすくなる」ことを示すのが目的でしたが、胎児仮死の場合に挿管などの対応の有無と、脳性麻痺の発症とは関係ないことも書かれています。「脳性麻痺の原因は分からないから、原因分析するな」と言っている論文です。

 産科医療補償制度の対象は、(1)出生体重が2000g以上、かつ在胎週数33週以上、(2)身体障害者等級1、2級相当の重度脳性麻痺、です。ただし、先天性要因や分娩後の感染症によるものは除きます。本来、補償に当たっては、赤ちゃんがこの基準に該当するかどうかを医学的に判断すれば済み、これは補償請求と同時に提出する、小児神経専門医等の「診断書」で可能。カルテ等の提出は必要ないはずです。しかも、原因分析や再発防止とセットになっているために、制度が複雑になり、かつ多くの問題を抱えてしまっている。

――それは20年近く前の論文ですが、今でも脳性麻痺の原因は同定できない。

 はい。「アプガースコアが6点以下のものが、脳性麻痺に関係してくる」とは言われています。しかし、先の論文では、「6点以下であるからと言って、分娩時仮死を脳障害の原因とすべきではない」とされている。

――仮に「対応が遅れた」場合があっても、それが脳性麻痺の発症とは関係があるかどうかは分からない。

 それは分かりません。にもかかわらず、問題なのは、断定している点です。「○○の点で、劣っている」などの記載がされている。

――「劣っている」ことが、脳性麻痺の発症と関係があるかどうかは分からない。

 はい。もちろん、我々産科医は、常に最善を尽くしています。「劣っている」点があれば、それを放置していいと言っているわけではなく、改善は必要です。

 問題なのは、この「原因分析報告書」を基に裁判が行われれば、有責になってしまう可能性が高い点です。鑑定書のように使われる「原因分析報告書」に、「劣っている」といった表現があれば、裁判官は「医師に責任あり」と考えるのは当然でしょう。脳性麻痺は、過去に民事裁判に至った事例では、ほぼ100%、医療機関が負けている。しかも、鑑定書の作成は容易ではないため、裁判に至らなかった事例でも、今後は「原因分析報告書」で裁判が可能になるわけです。

 私は、産科医療補償制度で補償を受けた90例を開示請求して調べたのですが、うち78.8%に当たる71例は「過失あり」と読み取れる内容でした。

http://www.m3.com/iryoIshin/article/152621/